放射線被曝問題について(科学者の眼

文責:各執筆者
(このコーナーでは、会員から提供された論文・投稿等のうち、広く早く市民の皆さんにお知らせし、社会的な検討をいただくことが必要と判断されたものを公表しています。 )

放射線とつきあって、生きていくために(増田善信・権上かおる)

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酸性雨調査研究会(増田善信・権上かおる)
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 私たちは3月11日の福島原発事故直後、メルトダウンも放射性物質の大量放出の事実も知らされていない時期に、いち早く放射線に対処する方法として、「おそれて、こわがらず」を公開した。外出時の服装、放射性ヨウ素に汚染された水の使用法など放射線に対する対処法を提案した。これは多くの方から共感を持って受け止められ、各地で利用されてきた。
 しかし、3ヵ月経過する中で、既に大量の放射線が放出され、多くの地域が放射線に汚染されているという事態も分かってきた。わが国の国土は狭く、逃げる場所などあるわけがない。まさに、今後長く放射線とつきあって生きていかなければならない事態である。
 そこで、再びその方途を提案する。もちろん、まだまだ不十分な点があると思うが、前回同様、ホームページ等に自由にアップして利用して頂き、皆さんの力でより使いやすいものにしたいと思う。この提案が、放射線による被害を最小限にするため利用されることを期待する。

基本は「おそれて、こわがらず」

 放射線は目に見えないから、どれだけの放射線を受けているかは測定器を使わないと分からない。しかも、大量の放射線を短時間で受けても、弱い放射線を長時間受けても病気になり、場合によっては死亡するから、極めて危険である。従って、「安全だ」「安全だ」というのは間違い。しかし、弱い放射線の場合は病気が出るのも確率的だから、「危険だ」「危険だ」と危険性だけを煽るのも間違い。
 どの放射性物質も有害であるが、特に有害な放射性物質は下表のようなものである。ここで物理的半減期とは、放射性物質の量が半分になる期間のことで、生物学的半減期とは、排泄作用、主として大小便で排泄される速さ、実効半減期とは、人体に入った放射性物質が物理的半減期と生物学的半減期の両方で半分になる期間のことである。

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国・事業体への原発事故対応の提言

 1)事故は何時収束するか分からず、少なくとも3年間は冷却水を注入し続けなければならないであろう。汚染水浄化プラントで浄化した水を使うことが計画されているが、雨水が入って溢れるおそれがある。汚染水を流出させて、沿岸漁業を台なしにするようなことは絶対やってはならない。
 ビキニ水爆実験の時には「汚染マグロ」を黒潮に海洋投棄したことがある。1983年以後は実施していないが、外国では長年海洋投棄を行っており、例えば、イギリス、オランダ、スイス、ベルギーは、1977~1982年に、スペイン沖の深度約5,500mにOECD/NEA協議監視制度の下でβ線とγ線の低レベル廃棄物39,283テラ・ベクレル(テラは1兆倍)、α線の低レベル廃棄物330.3テラ・ベクレルを投棄している。
 東京電力の6月3日の発表によると、高濃度汚染水10万5100トンの放射能量は約72万テラ・ベクレルに上るという。1トン約7兆ベクレルである。従って、1兆トンの水で薄めれば、7ベクレルになる。黒潮の速度を毎時5キロ(与那国島付近では毎時3.7~5.6キロ)とすれば、2時間かけて、100kmの幅で、100mの深さの黒潮に流せば、70ベクレルに薄められる。従って、もちろんIAEAの許可を受けた上であるが、昔の木造の「オワイ舟」に積んで、タグボートで曳航して行き、黒潮の流の強いところを見計らって流すことを考えるべきである。これ以外に原発を安定的に冷却する方法はないと思う。
 2)家畜―汚染の強いところの牛・馬・豚などは北海道か九州で預かって貰う。もちろんその費用は国が負担する。ペットも避難方法を確立させる。
 3)何時またヨウ素131が放出されるような事態が起るか知れないので、ヨウ素剤をすべての家庭に配布させ、そのような事態が生まれたら国の指示で一斉に服用させる。
 4)現在の20キロ圏内でも、原発南西域のような汚染の低いエリアへの帰宅の検討を。
 5)関東圏の小中学校、保育園・幼稚園、市民センターなどにも放射線計を配って、放射線の実態を正確に把握すること。

生活上の注意点--関東圏を中心とした記述のことをご了承ください--

 「おそれて、こわがらず」という態度で、「確率を上げるようなことはしない」という姿勢で臨むのが鉄則。以下の対処法はそういう観点で提案されたもの。

(1)外出

 ○天気予報、特に風の予報に注意し、福島原発の方から風が吹いている日は出来るだけ外出をさける。
放射線量の高い場合には、
 ○外出時はマスクを着用し、帽子をかぶる。
 ○帰宅後は露出していた顔、手足を良く水洗いする。シャワーも有効。
 ○毛羽だった衣類は出来るだけ避け、平滑な布地(ナイロン、レザー等)の服を着る
 ○フードの縁の毛皮部分は外して着用する。
 ○雨の日は、出来るだけビニール製の傘やレインコートを着て、帰宅したら戸外で脱ぎ、水道水で洗う。
 ○雨、特に降り始めの雨は、汚染物質を多く含んでいるので濡れないように努力する。
 ○雨の日でなくても、外出から帰ったら、先ず一番外側に着ていた上着やズボンなどを脱ぎ、洗濯機で水洗いする。
 ○洗濯物は乾燥機か室内で乾燥させる。

(2)周辺環境

 ①子どもの通学や通園・運動―放射線の強い通学・通園路、校庭・園庭、砂場などは、放射線量を確かめ、心配される濃度であれば、‘天地返し’(表面を剥ぎ、穴をほって下土と上土を入れ替えること。土壌の遮蔽効果を利用するもの)をする。
 ②この措置をしたのち、風が福島原発方向から吹いていない日は、可能であれば線量計にて確認後、戸外で遊ばせる。
 ③プール―まず水を入れ替え、放射線を測定して、安全を確かめた上で使う。終わったら、シートをかぶせて、放射線による汚染を防ぐ。
 ③個人住宅でも心配な場合は、水で屋根や壁・樋などを洗浄して堆積物を流し、庭は‘天地返し’で放射能を減らす。

(3)食物への対応

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 厚労省は上表のような暫定基準値を決めているが、放射線を減らす方法を(財)原子力環境整備センター「食品の調理・加工による放射性核種の除去率」(1994)から抜粋する。

コメ:精米するとストロンチウム90は約80~90%が、セシウム137は65%除去され、さらにとぐ(水洗)ことで、いずれも50%が除去される。
:製粉するとセシウム137,ストロンチウム90などは20~50%が除去される。
野菜:「焼く、揚げる」より、「ゆでこぼす、煮る、漬ける」で調理すると、大幅に除去される。キュウリ、ナスは、水洗するだけでストロンチウム90の50~60%が、葉菜のホウレンソウ、シュンギク等は煮沸処理(あくぬき)でセシウム、ヨウ素などの50~80%が除去される。小さいキュウリの酢漬け(ピクルス)では放射性降下物の90%が除去される。鞘を取った豆類は比較的安全。
牛乳:放射性物質はバターやチーズにはほとんど残らない。しかし、それらを取った後のホエー(乳清という)は乳清飲料やパン・菓子等の添加物に使われる。そこに大部分残るので、特に子供用ホエーは使用制限が必要である。
:冷凍肉を解凍したときに出る肉汁は捨てる。酢と水(1対2)の漬汁に肉1,漬汁3の割で2日漬けると放射能の90%が除去される。ただし、漬汁は捨てる。肉と水1対1の冷水処理と、塩を水の1%入れて肉と水1対1の煮沸処理をするとセシウム137は約50%除去される。ただし、オーブンでの処理では10~28%しか除去されない。
淡水魚:ボイルするとセシウム137の約50%が除去され、オーブンで焼くとせいぜい20%程度。塩漬けでは40%前後、酢漬けでは50%前後除去される。
海水魚:内臓を除くだけで70~80%除去される。ルーム貝は沸騰したお湯で10分茹でるとほとんど除去出来る。
味噌、醤油:2年間以上寝かすので、当分は心配いらない。

 一方、日本放射線安全管理学会による「放射性ヨウ素等対策に関する研究成果報告」が2011年5月17日に発表された。メンバーに農学や食品関係の方は見られず、工学系の研究者ばかりだが、この中で参考になることを以下に記す。
・野菜への放射性物質の付着には2通りある。
 ほこりのような乾性沈着:スポット的に付着して、比較的洗浄などで除去しやすい。
 雨のような湿性沈着:全面的に付着し、除去しにくい。
・化学的洗浄(洗剤、酢などの意)の方法では、還元剤の使用が最も効果が認められた。還元剤の代表はチオ硫酸ナトリウム(金魚水槽の塩素抜き)1%溶液(茶さじ軽く1杯を500mlの水に溶かした位)、3分程度ではレタスの鮮度は落ちなかった(実験は24時間浸漬)。
*以下は、これまでに基本的な事項として述べたこと
 原木栽培の椎茸や山菜は、濃縮されやすい。子どもには、しばらく避けたい
 野菜の種類・産地などを変化させること
 結球するキャベツ、白菜などの外葉は、2~3枚捨てる
 野菜は、よく洗う。漬け洗いにも心がける
 野菜のキズついた部分は、丁寧に除く(重要)
 葉物はお湯でゆで、電子レンジでゆでるのは避ける
 ゆでこぼすことも有効

(4)飲料水・水道水への対応

 東京都の水道水は、5月4日以降はヨウ素、セシウム2種の不検出(0.2Bq/kg以下)が続いている。この状態であれば、心配はないであろう。また深井戸は、問題がない。
 ヨウ素131に汚染された場合の水道水対策は、以下である。
○汲み置き、冷蔵庫でも冷凍庫でもよい--ヨウ素の半減期は8日間だから1日程度おいて おいてもかなり減衰する。
○沸騰させ、雑菌をなくした後の汲み置きはさらに有効--冷蔵庫なら4日くらいまでもつ ので、ヨウ素131はほとんどなくなっている。

--本文は、記述の文献の引用を中心として情報提供いたしました。情勢は刻々と変化し、状況によって対応も変化する場合もあることをご了解ください--  (以上)

放射能汚染された野菜畑の処置について(緊急提案)(生井兵治)

(筑波大学元教授・植物遺伝育種学)

 東日本大震災とそれに伴う福島第一原発事故の激甚な被害に対する関係各位のご努力に敬意を表します。
 東北地方・関東地方の多くの農地で、放射能汚染が発生し、葉物野菜を中心に、摂取や出荷を停止する措置がとられた地域・作物も多くあります。
 これから、この地域では播種の時期を迎えると思いますが、今作付けされているホウレンソウなどを、基準値を上回り出荷停止になった、基準値は下回ったが風評被害で売れない等の理由で、出荷できなくなったからといって、トラクターで畑を鋤き込むことは危険です。
 畑に降ってきた放射性物質は、水に溶けて吸収され作物の根・茎・葉と地上部の表面に集中しています。また、畑地の土壌の表面にも放射性のチリが集中しています。これを鋤き込んでしまうと、畑の土壌全体に放射能汚染を広げてしまい、除去が困難になります。さらには、作業の際に上がるほこりには同濃度の放射能が含まれるため、農家の人の身体に取り込まれて内部被曝を引き起こす危険があります。
 畑の作物は、いましばらくそのままにしましょう。ホウレンソウなどがせっかく精一杯に身体を広げて土壌の放射能汚染を防いでくれているのです。そして、土壌に吸収された放射能は、土壌水分と一緒に野菜たちに吸収されます。
 ですから、開花・結実するまで育てて置き、その後で完全な防御装備を纏ったしかるべき人たちにこれらの植物を収穫してもらい、放射性産業廃棄物として処理してもらうことが、最善でしょう。
 そもそも、土壌中の有害物質の除去方法として、植物の力を借りる方法が有効であることは、すでに公知の事実なのです。例えば、アブラナ科植物、とくにセイヨウナタネなどは、昔から世界的に干拓地の塩類除去に最適(平気で育ちながら吸収する)とされ、オランダなどで干拓地に最初に植える作物はナタネということになっています。そして、今日では、諸種の土壌汚染を植物で修復すること(ファイトレメディエーション Phytoremediation)の研究が、学問的(育種学を含む)にも技術的にも進んでいます。なお、いま特に問題となっている、セシウムやヨウ素は、それぞれナトリウム、塩素(食塩の成分ですね)と化学的によく似た性質を持っています。
 そこで、当面の緊急措置として、以下のことを周知徹底するよう提案します。

1.今後のことを考えると、出荷できない畑の「鋤込み」はしない。
2.土壌汚染が続くので、土壌の表面の作物をそのままにして作物で土壌を守った方が土壌汚染は少なくなる(土壌に浸透した放射能は、植物に吸収される)。また、表土は動かさない方がよい。
3.いったん土壌が放射能汚染されると、放射性ヨウ素は短いが、セシウム137は半減するのに30年、ほぼなくなるまでには300年かかる。
4.放射能拡散汚染がやんだ時点で、作物だけを特別な方法で汚染物質として処理する。
5.場合によっては、今後、放射性物質を吸収しやすい作物を播種して青刈りするなど、専門家の助言に従った措置を講じて、「表面の作物で土壌を汚染から守る」という防護策をすすめることがいちばん良い。

野菜の放射能測定値は「よく洗ったあとの測定値です」(生井兵治)

厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課 の3月18日付事務連絡により
野菜の放射能測定値は「よく洗ったあとの測定値」です
――家庭で洗っても、もう減らせない!!
生井兵治(前『日本の科学者』編集委員長)

 厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課は、 「『緊急時における食品の放射能測定マニュアル』に基づく検査における留意事項について」 (http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000014tr1-img/2r98520000015is5.pdf) を急遽発しました。

 「野菜等の試料の前処理に際しては、付着している土、埃等に由来する検出を防ぐため、これらを洗浄除去し、検査に供すること。なお、土、埃等の洗浄除去作業においては、汚染防止の観点から流水で実施するなど十分注意すること。」

 テレビ等の報道で、「洗えば安全。なんら問題ない」との解説がしばしばなされています。しかし、発表された野菜の放射線量は「流水で」「洗浄除去し」てから検査された測定値ですから、その産地の野菜を購入した市民が、自宅で洗って食べた場合、測定された放射性物質(放射性ヨウ素やセシウムなど)が洗い流せているものと考えることはできません。ただし、洗わないで食べれば、表面に付着した放射性物質を取り込むことになるので、測定された放射線量よりはるかに多量の放射性物質を取り込んでしまう恐れがあります。
 マスコミにおけるこうした解説は、「幻の安全」を振りまく流言蜚語の類として厳に批判されるべきです。情報とその伝達手段を握っている政府、東京電力、報道機関にあっては、正しい情報の速やかな公開が喫緊の使命であり、情報操作ともいうべき、不正確な情報の提供・情報の不開示の現状を直ちに改めるべきです。枝野官房長官が詳しい情報や展望を示さず、住民に「自主避難」を要請するなどは、言語道断の極みです。
 ちなみに、私は遺伝育種学者の端くれであり、原子力の専門家ではありませんが、放射線突然変異育種という範疇についても講義といくらかの研究をしてきましたので、当該分野についても、それなりの書物と知識を持っています。
 放射性ヨウ素131(甲状腺に吸収されやすく発がん性が高い)の半減期は約8日ですが、セシウム137では30年であり、千分の1になるには300年もかかります。このような放射性物質を付着または吸収した野菜などを食すれば、体内でヨウ素やセシウムの原子が放射線を発します。摂取された放射性物質は次第に尿などから体外に排出されていきますが、放射性物質を選んで排出する仕組みはありませんから、排出されるまでには相当の時間がかかり(生物学的半減期といいます)、これらから放射される放射線による内部被曝が問題になります。

放射線被曝の影響について(沢田昭二)

2011/03/24(Thu)

急性放射線障害と晩発性障害、確定的影響と確率的影響

 急性放射線障害と晩発性障害は、障害の発症時期による表現であり、一般的に急性症状は被曝して1、2週間後程度から数ヶ月以内に発症するもので、さらにやや遅れて発症する亜急性などもあります。晩発性障害は数年以後に発症するものです。また、一定線量の被曝をすれば誰でも必ず発症する症状を「確定的」と言う一方、被曝しても必ずしも発症しないが、発症率が被曝線量とともに増加するという場合に「確率的」といいます。一般的に急性症状は確定的に発症し、癌などの晩発性障害は確率的に発症しますが、白内障のように、どちらに属するかを議論している障害もあります。
 確定的影響も、放射線感受性には大きな個人差があります。動物実験でも確かめられ、ゼロに近い極低線量被曝では修正が必要ですが、個人差は体重や身長の分布のように正規分布によって表されます。放射線影響が専門の研究者でも理解がまだ不十分な人が多い現状です。私が裁判の意見書で正規分布を使うと、確定的影響を確率的影響と誤解していると反論の意見書を提出し、今回の原発事故でTV などに出てくる著名な研究者が意見書の共著者として名を連ねていることは驚きです。
 確定的影響では、特定の個人をとってみて、被曝線量が増加して、ある線量に達すると必ず症状が現れますが、発症する線量に個人差があります。確定的影響にはかつて「しきい値線量」があり、この線量以下では確定的症状は発症しないと考えられていました。しかし、この「しきい値線量」が分布していることがわかり、症状の発症率が5%あるいは10%となる線量を「しきい値線量」とすることもあります。ところが、私の意見書に反論した原発事故でTV などに出てくる研究者は、この線量以下では健康影響は全くないと述べていますが、放射線感受性が分布しているために、僅かではあるが発症する人がいることを理解しようとしていません。

脱毛発症率と被曝線量の関係

 典型的な急性症状である脱毛の発症の被曝線量との関係を、広島と長崎にトルーマン大統領の指示で設立された原爆傷害調査委員会(Atomic Bomb Casualty Commission,ABCC)が1950 年頃に数万人規模の被爆者を調査して脱毛発症率を調べた結果に基づいて求めると以下のようになります。半致死線量の4 シーベルト以上の被爆者は1950 年まで生き残った人が少ないので、ABCC の調査結果には高線量の領域で問題があるので、3 シーベルト以下の発症率から正規分布を求めました。正規分布の期待値、すなわち50%の人が発症する被曝線量は2.75 シーベルト、発症する線量のばらつきを表す標準偏差は0.79 シーベルトとなりました。この正規分布をN(2.75 Sv, 0.79 Sv)と表します。
 この正規分布では、低線量の1 シーベルトで脱毛を発症する人は1.37%、2 シーベルトで17.2%、3 シーベルトで62.3%、5シーベルトで99.8%の発症と100%発症に近づきます。この正規分布では0 シーベルトで発症率は厳密に0 にならないので、0 に近い極低線量では修正を要します。被爆者の調査からも、一般的にも極低線量被曝の影響を引出すことは難しいので、正規分布にもっともらしい修正を行って推定すると、0.3 シーベルト、すなわち、300 ミリシーベルトでは0.03%~0.07%、すなわち1 万人が被曝して3 人ないし7 人の人が発症することになります。しかし、これほどのまれな発症は発見が難しくなると考えられますので、福島原発事故による被曝影響の検出は、白血球減少症のように発症の検出をしやすいもので早期発見に努めるべきだと思います。

外部被曝と内部被曝

 もう一つの問題は、外部被曝と内部被曝とでは症状発症に至る機序がまったく異なることを無視した説明です。野菜に付着したり、水に含まれた放射性物質を体内に摂取した場合の内部被曝の影響を、CT やX 線を浴びた被曝と比較する説明が行われていますが、体内に摂取した放射性物質が主に影響を与えるベータ線とX 線とはまったく異なる影響を与えることを無視した乱暴な説明です。X 線やガンマ線は透過力が強く、エネルギーにもよりますが、人体を通り抜けるくらいの透過力です。ところがベータ線は体内では数センチメートルでエネルギーを失ってストップします。この違いは、放射線が伝搬する時に通過物質の分子や原子の電子にエネルギーを与え、その電子が原子や分子から飛び出す「電離作用」を疎らに行うか、密に行うかの電離密度の違いによります。
 於保源作医師の広島被爆者の急性症状発症率調査では、原爆の初期放射線による外部被曝が主要な影響を与えた近距離では、下痢発症率は、脱毛や紫斑に比べてかなり小さいのに対し、初期放射線が到達しないで放射性降下物による内部被曝が主要な被曝を与える遠距離被爆者の間では脱毛や紫斑の数倍の発症率となっています。この下痢の発症率は、初期放射線による下痢発症率は脱毛に比べて高線量の被曝領域で大きくなる半発症線量の大きい正規分布 N(3.03 Sv, 0.87 Sv) を用い、放射性降下物による被曝の下痢の発症の場合は脱毛に比べて小さい被曝線量から発症率が大きくなる半発症線量の小さい正規分布 N(1.98 Sv, 0.57 Sv) を用いると、脱毛、紫斑、下痢という異なる急性症状の発症率を共通した初期放射線と放射性降下物による被曝線量によって説明できます。このことは外部被曝と内部被曝による下痢の発症の機序の違いによって説明できます。
 放射線による下痢の発症は薄い腸壁の損傷によります。外部被曝の場合には透過力の強いガンマ線だけが腸壁に到達できます。しかし、到達したガンマ線は薄い腸壁にまばらな電離作用を行って通過するので、かなりの高線量のガンマ線でなければ腸壁は傷害を受けないので下痢は始まらない。これに対し、放射性物質を飲食で取込むと、腸壁に放射性微粒子が付着して、主にベータ線によって腸壁に密度の高い電離作用をおこなって腸壁に傷害を与えて下痢を発症させます。このように外部被曝と内部被曝では、下痢だけでなく、発症の機序は一般的に異なるので安易な比較は許されない。

晩発的障害

 癌あるいは悪性新生物などの晩発性障害の大部分は確率的影響です。しかし、一般に晩発性障害の原因には、放射線被曝以外にも様々な原因があるので、障害の起因性を急性症状のように放射線被曝であると特定することは困難で、全く放射線被曝をしていない人々の集団の発症率と比較して被ばく影響を求めることになります。特定個人の晩発性障害の放射線起因性を推定しようとすれば、その個人の被曝する前後の健康状態の変化を含め、過去からのさまざまな健康状態や他の疾病の経緯を総合して判定することになります。
 被曝線量と晩発性障害の発症との関係を、具体的に広島大学原爆放射線医科学研究所の広島県居住の被爆者の悪性新生物による死亡率を広島県民と比較した論文「昭和43~47 年における広島県内居住被爆者の死因別死亡統計」(広大原医研年報22 号;235-255,1981 )から、直爆被爆者の悪性新生物による1年間死亡率を用いて求めます。この論文の、直 爆1 km 以内、1 km~1.5 km、1.5 km~2 km、2 km~6 km の各区分と被曝していない広島県民の悪性新生物による1 年間の死亡率は、それぞれ 0.504 %、0.454 %、0.347 %、0.374 %、0.186 %となっています。これらの死亡率と非被曝の広島県民の死亡率 0.186 % との差、すなわち、1 年間で悪性新生物による死亡率の増加と、初めに述べたABCC の脱毛発症率から求めた初期放射線と放射性降下物による合計被曝線量の 3.88 Sv、2.24 Sv、1.56 Sv、0.85 Sv、0 Sv が、比例関係にあるとすると、1Sv の放射線被曝によって0.82 %~0.22 %の増加、間を取って約 0.15 % 増加することがわかります。
 低線量被曝の部分についての悪性新生物による死亡率の増加と被曝線量との関係も、比例関係が維持されると仮定すると、0.1Sv の被曝では0.015 %の死亡増になり、10 mSv = 0.01 Sv の被曝では 0.0015 %の死亡増、すなわち100 万人が10 mSv 被曝すると悪性新生物によって死亡する人が約15 人増えることになります。
 以上が典型的な確率的影響の悪性新生物の増加と被曝線量の関係です。晩発性障害に対しても個人差が大きく分布していると考えられますが、こうした分布も含めた結果として、発症率や死亡率の増加が被曝線量に比例することになっています。

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福島原発事故による被ばくについて(沢田昭二)

 内部被ばくや外部被曝を含めて、現在の報道は「しきい値論」に基づいて、何ミリシーベルトだから安全だとか、直ちに問題にはならないと言っています。放射線影響は1、2週間後に急性症状が現れ、晩発性障害は何年も経て発症します。また、放射線影響は急性症状も晩発性障害も放射線影響は個人差と年齢差が大きいことを踏まえるべきだと思います。たとえば、脱毛では0.04シーベルト(40 ミリシーベルト)で0.03%の人が発症し、0.4 シーベルト(400 ミリシーベルト)で0.15%の人(10 万人被ばくすると150 人)が発症します。1 シーベルトで約1.3%,1.5 シーベルトで5.7%の人が発症します。最近ではこの辺り(発症率5~10%)の人が発症する線量をしきい値と呼ぶことがあります。こうしたことを周知させてもらい、被ばくすることを避けるように訴えて欲しいと思います。専門家の意見を聞いて250 ミリシーベルトでは白血球減少症状がでないから作業員の作業被ばく線量を引き上げたとのことであるが、しきい値論に立っての判断が続いている。 作業員に被曝影響が出てもしきい値以下だから放射線影響ではないと切り捨てることになると心配です。

 昨日、愛知の原発問題住民運動センターとして中部電力に申し入れをし、震源域の真上にある浜岡原発はもっと危険なので運転を即時停止してほしいと申し入れました。その時中部電力からも社員が福島原発に数人規模で派遣されており,上記のような注意を伝えるように申し入れをしました。

 放射線がまだ強くない初期段階で、1 号から3 号だけでなく4 号から6 号機まで含めて海水を注入するなどしておれば現在の深刻な事態は避けられたと思います。

 原爆症認定集団訴訟で明らかになった内部被ばくをマスコミも触れるようになりましたが、その深刻さはまだ十分に理解していないようです。とりわけ放射線感受性には大きな個人差があることはほとんど無視されています。敏感な人は10 分の1 でも100 分の1 の線量でも人数は少ないのですが影響が表れる人がでてきます。

名大救急医療センター医師の質問に答えて

 名古屋大学救急医療センターの医師がこれから地震・津波・原発事故の災害避難地域に行くので、反核医師の会において原爆症認定訴訟で明らかになった内部被ばく無視の国や放射線影響研究所の問題について私が報告していたので内部被曝の問題などを質問したいと依頼され、それに答えた内容を以下に再録します。

*****

 おっしゃる通り内部被曝の軽視の発表と報道に憂慮しています。 身体を洗って表面に付着した放射性物質を洗い流せば良いと言わんばかりの説明ですが、身体の表面に付着しておれば呼吸をしていますから当然内部被曝をしています。激しい運動をすればそれだけ沢山取込みますから、湿ったマスクをするなどの工夫をして早く風上に立ち去ることが必要です。
 放射性ヨードやセシウムが検出されていますので,これらを早く排出させるためのヨード剤を飲むなどの処置が求められます。
 飲食を通じて下痢が起こることが考えられます.広島原爆の場合はその日の夕刻から下痢が始まりました。
 しかし、放射線防護の専門家の大部分は、放射線による下痢は大量被曝でなければ起こらないと外部被曝による発想から抜け出していません。JCO 事故に関わった放射線防護の鈴木元氏や明石氏は原爆症認定裁判や長崎の訴訟で主張を続けています。内部被曝をしていることを前提に、現在症状が現れていなくても内部被曝の場合は遅れて発症するので長期間観察する必要があります。 発表では体外に付着したものを認める一方、現在は症状がないとそれで終わりという姿勢は危険だと思います。
 放射線影響は急性症状の場合も個人差がきわめて大きく、広島の原爆被爆者を調べた結果、内部被曝による下痢の発症は期待値(半発症線量)が約2 グレイ、標準偏差約0.6 グレイの正規分布をしていますので(外部被曝の場合の下痢発症は期待値(半発症線量)が約4 グレイ、標準偏差約0.9グレイの正規分布)低線量でも発症しますので、内部被曝の最初の兆候を見ることになります。 脱毛や紫斑はかなり遅れて発症するので検出は難しいと思います。放射線被害について慎重に考えて下さる医師の方の協力はきわめて重要です。しかし、まだ燃料棒が露出している段階で今後の見通しがない状況ですし、ベントといって爆発を避けるため放射性の気体の放出をおこなっているので被曝の増加が心配です。双葉町の住民がすでに160 人被曝をしています、スリーマイル島規模の被曝が起こっています。気をつけて下さい。
(3 月13 日記)

 これまでも原発周辺の住民にヨード剤を用意しておくべきだということを原発問題住民運動連絡センターなどが訴えてきましたし、共産党の志位委員長が政府に求めていたので配布をしているようです。しかし、避難民にきちんとした説明をしているかどうか、枝野官房長官の報告や安全委員会の説明では,こうした注意をすることはまったく無視され、水や野菜などの飲食について注意をしている程度です。
 原発周辺に放射能測定モニターが配置されているものがどのくらい機能しているかが問題です。
 読売新聞に被曝対策どうするという記事があったので添付します。ヨード剤は副作用もあるらしいので適量を飲むとか、海草類を食べるなども考えられます。
 測定結果は外部被曝で、内部被曝の測定はその機序からして難しいと思います。
(3 月14 日記)

 名古屋テレビのインタービュウの後、平和行進実行委員会と愛知県原水協理事会で原発事故に関する質問が相次ぎ、帰宅したのは10 時すぎでした。私の専門は素粒子物理学の理論的研究で、定年退職した翌年から原爆放射線による被ばく影響の研究を始めました。
 初めは初期放射線による誘導放射化物質からの放射線を測定する実験グループの研究会に参加させてもらい、測定結果を体系的にまとめると1986 年原爆放射線量評価体系(DS86)が爆心地から1200m を超えると過小評価になっていることを見出して、1997 年放射線影響研究所で行われた初期放射線の線量評価を見直す日米合同作業グループのworkshop で報告し、放射線影響学会でも報告したことが始まりでした。
 政府を相手取った原爆症認定訴訟においてDS86 の過小評価を意見書として提出し、判決にも引用されて被爆者側の勝利につながりました。裁判に勝利した時、たとえDS86 の初期放射線量を実測値に合わせて是正しても裁判で証言した人たちが爆心地から2.5km 以遠で脱毛を発症していることを説明できないことに気づき、それ以来放射性降下物による被曝影響の研究を被ばく実態に基づいて始めました。
 現在到達した被ばく実態に基づく放射性降下物による被曝影響(これは今回の原発事故の放射線と共通性が高い)の到達点を原爆体験者訴訟で長崎地裁に提出したものを添付します(関心をお持ちの方にはメールで送ります)。
 一方、最高裁での裁判で負けた政府は「原因確率」を導入してさらに厳しい認定基準を設定したので2003 年から被爆者の原爆症認定集団訴訟が始まりました。この裁判で被ばく実態に基づく研究から放射性降下物による被曝が内部被曝によるものであり、放影研や国の放射性降下物による被曝影響は無視できるというのは2 桁も過小評価をした結果であることが明らかになり裁判で証言しました。2004 年に大阪地裁で行った証言のとき、私と同じ日に国側の証人となった人物が小佐古敏荘氏で、昨日政府の人事で福島原発対策の責任者になりました。最悪に人事です。明日の朝刊にこの人事の記事が出るでしょう。
 さて、私は医学的なことについては原爆症認定裁判で学んだこと以上には基礎知識がかけていると思いますが、遅くなりましたが、以下のご質問にお答えできる範囲で答えてみます。

1、現在の危険エリア、即ち、内部被曝が想定されるエリアはどこか。それは放射線量との関連で推測可能か。具体的には、もし退避を検討したり、充分に注意するレベルは、μSv、mSv などどのオーダーか。内部被曝発症の先生の、学識から得られた閾値はだいたいどのあたりか。現在でいうとどこか。東京は安全と言えるのか。

20km~30km を屋内待機地域にしていますが、風向きで大きく違います。添付した意見書の図1にネバダの核実験の風下地域への放射性物質の流れが示されていますから、これで推察して下さい。私は緊急に地震で破壊された線量測定器と風向計に代って原発周辺に線量測定器と風向計を多数配置してほしいとおもいます。放射線の感受性は個人差が大きいのでこの線量以下では大丈夫という官房長官、保安院、マスコミの報道は正しくないと思います。意見書にも書いたようにかつては「しきい値線量」という表現でこの線量以下では症状が一切発症しないという考え方がありましたが、これは正しくなく、現在では5%ないし10%の人が発症する被曝線量を「しきい値」と言っています。次第に漏れだした放射性物質が増えて現在は原子炉周辺は最高400 ミリシーベルトレベルになっています。上空の自衛隊ヘリコプターで測定しているようですが、おそらく建屋の上部が破壊されたり穴があいている上空での値も何百ミリシーベルトレベルでヘリコプターがホバリングできない状態だとおもいます。

2、現在、内部被曝、外部被曝含め、どれくらいの方が被曝されているか。また沢田先生のもとにはどのような情報が寄せられているか。被曝の現状。想定される症状。

こういう情報を原子力安全委員会が調査し公開すべきだと思いますが、総合する機能が働いているとは言えません。以下で測定結果が見れます。
http://www.mext.go.jp/a_menu/saigaijohou/syousai/1303723.htm

3、今後、医療活動を展開する際、ガイガーカウンターなどが必須か。どこまでは入ってよいか。

原発の近距離(福島県東部)で医療活動されるときは、周辺で測定が行われていて安全性を確認しながら行って下さい。これ医師だけでなく周辺住民のためでもあります。測定装置が簡単に入手できれば時折測定しながらということも考えられます。

4、内部被曝について勉強しようとすると、医者、物理学者では誰から学べば良いか。どういう論文や書物、web sight を読めば良いか。日本人、外国人を含めて。

まだ医学的な研究は不十分です。私が意見書に書いたような方法で得られた被ばく実態に基づく研究が期待されます。原爆症認定集団訴訟で活躍された齋藤紀医師(福島わたり病院で目下原発被災者を診療中)が最適です。浜北診療所の聞間元医師(民医連の委員会の元代表)もやや詳しいと思います。

5、現在の福島原発の帰結はどこにあるのか。今後の展開と、対処策は?現在はすでに制御不能の状態なのか。

a,これ以上の放射性物質の拡散の可能性とその影響
b,臨界状態←論理的に可能性はあるのか。現在、出ている中性子はその予兆なのか。もし核分裂反応を起こした際は、原子爆弾のようになるのか、なるとすれば、ヒロシマ ナガサキと比べて、どのような規模か。6基の原発すべてが臨界状態になるのか。

東京電力の福島第1 原子力発電所、第2 原子力発電所、東北電力の女川原子力発電所が地震と津波の被害を受けましたが、幸い冷却水供給が不能になったのが東電の福島第一原子力発電所だけでした。福島第1 の1 号炉から3 号炉は稼働中でしたが地震で核分裂の連鎖反応が停止した後、冷却水を送るすべての機能が不能になり、濃縮ウラン燃料棒(enriched uranium fuel rod)が水から露出して冷却できず燃料棒の表面を覆っていたジルコニウム(zirconium)金属が融け、水あるいは水蒸気の酸素を奪って酸化し、そのため残った水素が発生して爆発する深刻な事故になってしまいました。点検で運転していなかった4 号機から6 号機までは原子炉から引き抜いた燃料棒を、同じ建屋のプール内に入れて冷却していましたが、連鎖反応がストップしても燃料棒内には大量の放射性物質(核分裂生成物fission products)が蓄積していて、放射線を出し続けており、この放射線のエネルギーで水の温度が上がり4 号炉は水が蒸発して燃料棒が露出して高温になり火事が起こりました。このプールは建屋内にありますが、圧力容器のように外部と遮断されてい ないために水による遮蔽が聞かないで放射性微粒子が大気中に放出されます。そのため原子炉周辺に近づいて冷却水を注入する作業員(ヘリコプターの自衛隊員)は被曝を続けています。もっとも怖れることは、壊れた燃料棒から外に出てきたウラン燃料が原子炉やプールの底に集まり、核分裂の連鎖反応を始めると、莫大なエネルギーが放出されて大爆発(未成熟な原爆の爆発)を起こすとチェルノブイリ事故のようなことになります。そうならないように注水が成功するよう願うばかりです。

6、医療人として、何が出来るか。治療、啓発活動。どういう治療をすれば良いか。 今もっとも被ばくしているのは冷却水を注入しようとして被ばく環境の中で取組んでいる作業員です。個人差がありますがかなり長期間健康管理をして兆候を早期発見して適切な治療をすることだと思います。これまで避難地域にいて身体の外で被曝線量が検出された人も要監視対象とすべきです。

7、例えばマスクで放射性物質の吸入を防ごうと思うと、おそらく、医療用のN95 を着用すべきか。しかし、それでもμメートル以下の微粒子は入ってしまう。マスクをかけることが、発症予防に実効性があるのか、どうか。

微粒子も大きいほど直径の3 乗に比例して放射性原子核を含んでいます。5ミクロンより大きいと鼻毛に引っかかって肺胞まで達しないと言われていますが、ミクロンレベルでは肺胞の壁から血液に入ると言われています。マスクは素の狭い範囲の大きさの放射性微粒子を防ぐだけです。 マスクを濡らすとどのくらい効果がありますか?呼吸をしなければならないので宇宙服並みの装備が不可能となると手の打ちようがなくなります。

8、基本的には、内部被曝と言えども、濃度と疾病罹患率、発症率の間には、正の相関はあるのか。

私の意見書に示されているように被爆距離により多少は被曝線量が変化しますが、いずれも内部被ばくです。被曝線量により正規分布で発症率が増加します。

9、本日福島市内で水道から、ヨウ素とセシウムが検出されたが、この飲水は絶対に避けるべきなのか。低濃度であれば、内部被曝の危険性は薄いと考えられるのか。

水源地がどこかですが、大量の水に含まれて拡散した結果が測定されたのだと思います。水源地周辺には放射能測定装置を配置して監視してほしいと思います。上流の監視を全部というのは難しいとしても知れませんが多数の市民の飲料水ですから、市民の中には放射線感受性の高い方もおられるので、水源地の管理は重要です。

10、今後、大気、土壌、水質の放射性物質による汚染が原発周囲を中心に残ると考えられるが、現在の福島原発それぞれの原発から放出されうる放射線物質の量の想定と、その場合、例えば、ヒロシマ原爆後の、放射線物質や残留放射線、チェルノブイリ後の放射線物質と比べて、さて、この関東圏、あるいは東日本には、人間や生き物が暮らすのが、許容されるレベルにおさまるのか、過去の被曝事例と比べて、どのような環境汚染レベルにおかれると想定されるのか。未来に向かって、それはどの程度まで、改善すると考えられるのか。

広島や長崎も何十年もすめなくなると言われました。しかし、8月に原爆が投下され、9 月と10月に台風が襲い、台風の大雨などで放射性物質が流されて台風の後は急性症状の発症が急減しました。これがチェルノブイリ事故の周辺地域の乾燥地帯との違いです。 放射繊維よる人体影響は、体内に取込んだ放射性原子核固有の物理学的半減期(たとえばセシウム137 は30 年)、体内に摂取して新陳代謝等を通じて体外に排出して半分になる生物学的半減期、それに環境中から飲食を通じて取り入れる量に関わって、雨風で減少していく環境半減期の3つの半減期で考えなくてはなりません。セシウムの場合生物学的(生理的)半減期は約100 日、長崎の西山地域は環境半減期が約7 年だったとされています。環境半減期は斜面とか湿地とか場所で大きく異なると思います。

11.今回想定させる核種は、主にヨウ素とセシウムだと思いますが、これらの内部被曝に関して、どの程度の低線量で被曝の可能性があるのか、CT より低線量だ、というようなプロパガンダのような解説が跋扈しております今日、具体的に皆に説明する基準があれば、と思っております。

核分裂生成物には数百種類の核種(原子番号と質量数、あるいは原子核を構成する陽子数と中性子数で決まる)が放出され、気体として広がりやすいのがヨウ素です。CT などによる被ばく(X線外部被曝)と内部被ばくを比較するのは科学的ではありません。たとえばヨードは体内に入り血液ないしリンパ液で体内を循環して甲状腺に蓄積して甲状腺機能の亢進症などを引き起こし、また甲状腺がんなどを引き起こします。がんなどの晩発性障害の発症は被曝線量に比例するので、どれだけ被ばくしても良いとか悪いとか言えません。
 急性症状も晩発性障害もいずれも放射線を浴びなければあびないほどよいわけです。
(3 月17 日記)

東日本大地震・大津波と福島原発事故について(増田善信)

はじめに

多くの犠牲者のご冥福を祈るとともに、被災者の皆様の一日も早い復興を願っています。 強い放射線の中で、「決死的な」放水作業に当たった消防士や警察官、自衛隊員によって危機的な状態からの脱出が出来たように見えますが、まだまだ予断は許さないと思います。その消防士の一人が「自分たちは放射能にたいする専門的知識があるので、その危険がよくわかり、非常に緊張を強いられた作業だった」と記者会見で述べていました。今こそ、原発や放射線に対する正しい知識を持つことが要求されていますが、正しい知識が広く行き渡っていないことを良いことに、適当なごまかしの会見を開く東京電力や原子力安全・保安院などはもってのほかです。安全・保安院は福島第1原発に常駐させていた7 名の職員をさっさと退避させたといいます。本当なら許せないと思います。

原発事故の問題には冷静に対処することが求められています。東電や安全・保安院のように、「安全だ、安全だ」というのは確かに間違いです。すでにロシアは日本駐在の大使館員の一時帰国を決め、アメリカ、韓国は在留の人の80キロ圏からの退避を勧告しています。しかし、同時に具体的な対処方法をいわないで「危険だ、危険だ」と煽るのも間違いです。私たち日本人は逃げていくわけにはいかないのです。私たちが提起している「おそれて、こわがらず」の態度を堅持して、どんな場合でも被害を最小限に食い止めて生き抜かねばならないのです。

そこで、今回の原発事故について私見をまとめてみました。既に他の数人の人に伝えた内容も含まれていますので、重複する部分もありますが、それに最近の事実を加えてまとめたものです。 ご批判頂きたいと思います。

1,「放射線の強さは距離の2乗で減る」の間違い

某紙の「放射性物質どう防ぐ」という記事の中に、「放射線 距離の2乗に反比例」という解説がイラスト付で掲載されていました。しかし、これは不十分というより、間違って取られるおそれがあると思います。

放射線の被害を考える場合は、核分裂物質ウランやプルトニウムなどが核分裂をするときに出す放射線と、核分裂生成物(ウランやプルトニウムが核分裂した結果他の元素に代わって放射線を出すもの)が出す放射線の2種類を考える必要があります。距離の2乗に反比例して弱くなるのは前者で、核分裂している場所から約2キロでほとんどゼロになります。原爆が爆発した直後の被爆者が受けた放射線やJCO事故で作業員3人中2人を死亡させ、工場の周辺の人500人くらいに影響した放射線です。 一方、後者は今回の原子炉事故でも既に周辺で測定され、遠く東京でも測定されたと言われている放射線で、福島県産の牛乳、茨城県産のホウレンソに含まれていることが確認されています。すなわち、放射性微粒子による放射線で、最も有名なのがチェルノブイリ事故で周辺に撒き散らされたものです。 この放射線は距離とは無関係で、放射性微粒子が風で流され、雨や雪と一緒に降ってきて地域を汚染します。この場合は、放射性微粒子がくっついたり落下したりしたチリや衣服などが問題になり、呼吸や水・食糧で体内に採り入れると内部被曝を起こしますから、外出時は帽子を被り、マスクをするとか、ぬれタオルで口を塞ぐなどし、出来るだけ体を洗う。特に髪の毛を良く洗う、着ていた衣服は直ぐ水洗いする。葉菜類や果物は良く洗ってから食べる必要があります。

ところが、前記の新聞もそうですが、この二つをごっちゃにしている人が多いのです。この新聞も放射性ヨウ素やセシウム、ストロンチュウムの話の後に、放射線の強さが2キロで1キロの4分の1になると書き、イラストまで示しています。放射性微粒子はその時の風によって何処へでも運ばれ、雨や雪と一緒になると、遠く離れたところでも強い放射性物質で汚染された地域をつくります。ところが「距離の2乗で減る」と書くと、「原発から2キロ離れれば大丈夫」という間違ったメッセージに受け取られかねません。

セシウム、ストロンチュウムなど放射性元素は、もちろん、その元素の種類によって、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、中性子線のうちのどれかを出し、その放射線自体は距離の2乗で少なくなりますが、問題はそれら放射性微粒子が、皮膚などについたり、体内に入って内部被曝をすることです。そしてその時は主としてアルファ線とベータ線が問題になるのです。 内部被曝とは、空気、飲料水、食物などで口から入った微量な放射性物質が、体内で放射線を出し続けて細胞に害を与える結果、がんや白血病などの病気をもたらす現象です。内部被曝で最も問題になるのがアルファ線です。アルファ線は1mm 位の紙でも防げるものですが、体内では1mm の間に何億という細胞が詰っています。従って、この細胞がアルファ線によってダメージを与えられる可能性があるのです。 しかし、この内部被曝もそうですが、弱い放射線の問題は、放射線を吸い込んだ人全部が病気になるわけではないのです。すなわち、たまたま放射性微粒子を吸い込むのであり、たまたまその微粒子の1個が肺の先端や、腸壁などにくっつくのであり、くっついた人全部が発病するわけではなりません。すべてのことが、確率的に起るのですから、それほど心配する必要はありません。

原発問題については、危険性を煽るような主張を垂れ流すのは止めるべきです。放射性物質には「恐れて、怖がるな」という態度で接すべきです。ただ恐怖だけを煽っては生きてはいけません。 放射性物質は非常に危険なものであることは事実です。従って、その危険性を訴え、病気治療のようなやむを得ない場合は別として、出来るだけ近寄らない。すなわち「恐れる」のです。しかし、同時に微量な放射線の人体への影響は「確率的なもの」です。放射性物質に触れたり当たったりした人の全部が病気になるわけではありません。病気になる人は確率的ですから「怖がるな」です。

従って、「確率を上げるようなことはやってはならない」というのが鉄則ですが、「放射線に当たった人全部が死ぬわけではない」のです。確かに、今回の事故は深刻です。しかし、ある人のように「日本から逃げ出す以外にない」というだけでは解決になりません。ただ危険性を煽る人たちは具体的な解決策を提案しないままで、危険性だけを強調しています。マスコミは「安全だ、安全だ」という人と「危険だ、危険だ」という人だけを採り上げ、私たちのように、危険性を訴えると同時に、どうすれば被害を最小限にすることが出来るかを強調する人はほとんど呼ばれません。ところが「民主的」といわれる人の中では危険性だけをうたえる人がチャホヤチャホヤされ勝ちです。しかし、これでは本当の解決にはならないと思います。

2,ヨウ素剤問題について

弱い放射能の問題で、最も重要な問題は放射性ヨウ素131とヨウ素剤の問題です。私はチェルノブイリへ3回も調査に行ったので、この問題を深刻に考えています。チェルノブイリでは、原発事故そのものを2日間も公表しなかった上、事故が起ってもヨウ素剤を飲ませなかった、特に子供に飲ませなかったので、多くの子供が甲状腺のがんになり、その後白血病の患者を多発させました。この教訓からIAEAでも原発事故の場合のヨウ素剤の使用を推薦しています。 ところが日本では、「原発は危険だ」という印象を与え、原発の推進に影響すると称し、日本政府も電力会社もその配布に反対し続けて、原発から20キロ圏だけにしか配布してきませんでした。そこでここでは、酸性雨調査研究会の訴えを採録しておきます。

日本人は海草をたくさん食べるので、甲状腺に既に多くのヨウ素を貯めている人が比較的に多いが、乳幼児、特に乳児は、放射性ヨウ素の侵入に無防備です。ヨウ素剤を早めに飲ませて、放射性ヨウ素131の侵入を防ぐべきです。放射性ヨウ素131は半減期が8日ですから、放射性ヨウ素131が多くでたという情報があったら、直ぐ飲ませれば甲状腺がんや甲状腺疾患を防ぐことが出来ます。 何時飲ませるかは、放射能の拡散状況を勘案して、国や自治体で決めるべきですが、先ず前もって配布しておく必要があります。そのことを関東から以東の全自治体で要求させるべきだと思います。原発の周辺20キロ圏の人たちや、米軍などはヨウ素剤を服用しており、アメリカでは日本からの放射性粒子の飛来に備えて、ヨウ素剤が売り切れているそうです。

ところが、NHKなどは「ヨウ素剤を飲ませろなどと危機感をあおる人がいるが、ヨウ素剤は効果がない」とか、「副作用があるので却って害がある」などといっています。しかし、放射性ヨウ素131は甲状腺に吸収されやすく、甲状腺異常や甲状腺がんをつくりやすい元素です。もし前もって、ヨウ素剤を飲ませておけば、放射性ヨウ素131が来ても体内に蓄積されず、排出されてしまい、甲状腺の病気を引き起こす確率を下げられるのです。

ヨウ素剤は医師の監視下で飲ませるべきだという人がいますが、すでに、原発から半径20キロ圏の市町村には、各家庭、或いは保健所、医院や病院に配布してあり、自治体の指示で直ぐ飲むことになっています。

ヨウ素剤は錠剤で、1歳以上であれば大人も子供も1日2錠、1歳未満は1錠です。甲状腺、腎不全の人やヨウ素アレルギーが明らかな人、妊娠中の人、新生児は医師の指示に従って服用します。また、この程度の微量なヨウ素でも発疹や発熱など軽度の副作用を起こす人がいます。その場合は医師の指示を仰ぐ必要があります。

原子炉は今なお最悪の状態を脱し切れていません。ヨウ素剤の配布はこの1両日が勝負ではないかと思います。飲ませる時期は専門家の意見に従う必要があると思いますが、前もって配布しておくことが必要で、もし不要になってもそれは幸運だったということだと思います。

3,シーベルト

さて、放射線による被爆の問題でも混乱が起っています。シーベルト/時間とシーベルトの関係です。シーベルトとは、放射線が人体に与える影響の度合いを表す単位ですが、シーベルト/時間とシーベルトの関係は、速度と距離と同じです。亀でも長時間かければそこそこの距離を歩くように、弱い放射線でも長く曝されているとかなりな放射線を浴びることになり、かなりな影響があります。シーベルト/時間は瞬間的な放射線の強さであり、シーベルトは全体の積算された放射線の量です。健康にはこの積算された量が問題になるのです。

今度の福島第1の事故でも、2号機の正門付近で500mSv/h(ミリシーベルト/時間)という強い放射線を測定したと言われていますが、ここで2時間いると1000mSv になり、原発などの作業員は別として、一般の人はこれ以上の被曝は好ましくないと言う量になるのです。 一方、ほうれん草の放射線が、160μSv/h(マイクロシーベルト/時間)とすると、6250時間ほうれん草を食べ続けると、1000mSv になります。そんなにほうれん草を食べ続ける人はいないと思いますが、しっかり洗って食べれば、ほとんど放射線を出すチリはなくなっていますから、ほとんど心配はないのです。 (JSA 注: 3 月19 日、茨城県産ほうれん草から検出された放射線量は、1kg 当たり最大15020 ベクレルで、「実効線量係数」 (http://www.remnet.jp/lecture/b05_01/4_1.html などを参照)を用いて換算すると、そのほうれん草を1kg食べると、今後50年で330.4μSvの被曝になるレベルでした。)

従ってここで、私たち酸性雨調査研究会が提案している、放射線を出すチリなどから身を守る方法を採録しておきます。ただし、主として東京を対象にしていますので、他の地域の人は風向きは、その地方で、放射線のチリの発生源になっている原発の方向からの風向きに直して適用してください。

<天候について>

  • 東京では、外出は出来るだけ風が南よりか、西よりの日を選ぶ。 特に雨天の日は、福島原発の方からの北よりの風の確率が高いため、雨模様の日は出来るだけ外出をさける
  • 雨にあたるのも避けたい。特に降り始めの雨は、汚染物質を含んでいるので、避ける努力をする

<服装>

  • 外出時は、放射性のチリをすわないために、マスクを着用する
  • 髪の毛は放射性のチリが溜まりやすいので、外出時には出来るだけ帽子をかぶる
  • 放射性のチリを付着させないため、出来るだけ毛羽だった衣類は避け、平滑な布地の服を着る(ナイロン、レザーなど)
  • さらに出来るだけビニール製の傘やレインコートを着て、帰宅したら戸外で脱ぎ、水道水で洗う。余りにも汚染されていると思ったら、処分するのも可
  • 雨天でない日でも、外出から帰ったら、先ず一番外側に着ていた上着やズボンなどを脱ぎ、洗濯機で水洗いする
  • 帰宅後は露出していた顔、手足を良く水洗いする。シャワーも有効

<食物・飲用水>

  • 野菜、特に葉野菜の洗浄は念入りに(桶にためた水に何回か水を替え漬け洗い、その後流水で流す)
  • ゆで野菜は、必ずお湯でゆでてその湯は流し、電子レンジでの調理はさける
  • 出来るだけ水道水を飲み、井戸水や(東京ではないでしょうが)池や川の水は避ける。 水道水はろ過などの点で、最も汚染物質が除去されやすいと考える。

4,今後の問題点

外部電力が復旧して、原子炉と燃料プールへの注水が出来ることを祈っています。しかし、率直に言って、地震と津波の影響で、内部の配線や配管、特に配管に亀裂が起っていて十分な注水が出来ないのではないかと心配しています。

(1)再臨界のおそれ

燃料棒は約4mの長さを持っていますが、1,2、3号機の原子炉内の水位は、それぞれ180cm、140cm、195cmだと言われていますし、燃料プールでも燃料棒が水の上に露出しています。燃料棒は水の中であれば崩壊熱が冷やされますが、露出していると崩壊熱で燃料棒が溶けるおそれがあります。それで今一生懸命になって燃料プールに水をかけているのですが、原子炉の中はこの事故の始めは注水されていました。しかし、どういう理由か十分注水されず、上の数値のように露出している部分があります。 この部分が崩壊熱で溶けるのが一番怖いのです。被覆菅のジュルコニウムが水と反応して水素を出すほか、もし燃料のウランが融けて部分的にある濃度以上になると臨界に達するからです。 JCO事故は、濃縮ウランをつくる過程で、バケツを使って混ぜているとき0.1ミリグラムという微量なウランが臨界に達し、あのような大きな事故になったのです。JCOと同じようなことが起らないことを願っています。そのためにも、一刻も早い注水が待たれます。

(2)チャイナシンドローム

電力供給が回復されず、今まで通り燃料棒が露出したままであると、燃料棒が融けるようになる。 融けると重い金属であるので原子炉の底や、燃料プールの底に溜まる。その場合、今まで空気中に露出していたので、かなり高温になっているおり、残っていた水を蒸発させ、さらに露出部分が増え、悪くすると一挙に水が無くなるおそれがある。 すると、スリーマイル島と同じような事故につながる可能性がある。いわゆるチャイナシンドロームである。高熱の燃料棒の塊が原子炉の鋼鉄の壁を融かすおそれがある。スリーマイル島では15cmの厚さの原子炉の壁が融けて5cmになっていたといわれている。放射能を出す熱塊だから、ある程度熱が下がっても、後始末が大変で、スリーマイル島では確か3年後に原子炉の上部を明け、この熱塊を取り出して廃炉にしたと聞いている。 とくにこの可能性の高いのが3号炉ではないかと思う。なぜかというと、3号炉はプルサーマルと称して、ウランとプルトニウムの混合燃料を使っているからである。この燃料はウランだけを使用した燃料に比べて融点が低いので、より早く燃料棒が溶け出す可能性がある。

(3)最低3年、悪くすると50年間は注水

このような事態にならないようにするためには、まず一刻も早く注水系を回復させ、水を原子炉や燃料プールを満タンにして、燃料棒が露出しないようにすることである。しかも、その注水は燃料棒が冷えるまでだったら50年も、ある程度冷えて、危険でも処理出来るまでの3年間は注水を続けなければならないのである。 4,5,6号機は定期点検中で、特の4号機は原子炉の中には燃料棒がないのかも知れないが、5,6号機はまだ燃料棒が残っている。しかし、4号機は燃料プールの水位が下がっているので、使用中の1,2,3号機はもちろん、定期点検中だった4,5,6号機を含めて福島第1の全部の原子炉をこのように長時間注水し続けることを覚悟しなければならないと思う。人が近づかないように全体を土で覆って、冷却水だけを送り続けるのである。

(4)冷却水は漏っていないのか

3,4号機の燃料プールの問題が浮上して、1,2号機の原子炉にいくら水を注入しても水位が上がらないことはほとんどニュースから消えてしまっていますが、私は水を注水して水位が上がらず、燃料棒がむき出しになっている1,2,3号機の原子炉の水漏れが心配です。

何処かで漏っているのではないかと思います。恐らく強烈な地震の震動で、何処かにひびが入っているとか、配管にずれが生じているのではないかと思います。もちろん、専門家が既に対応しているのか知りませんが、水位を見れば、どの付近で漏っているか分かると思います。原子炉にしろ、原子炉格納容器にしろ、漏っている場所が容器の下の方ならば、やや重い小さな物体、例えば、空軍が飛行機を敵の電波から見えなくする「チャフ」のようなものを入れて注入し、水位の上の方ならば軽い錫箔のようなものを注入し、漏れ口を塞ぐことが先決です。早く漏れ口を塞がないと本当に大変な事態になりますし、廃炉にした後でも上述のように冷却水を注入し続けねばなりませんから、何としても水漏れを塞ぐことが必要です。

5,計画停電は、工場や大きな事務所の休日を輪番制に

計画停電が実施されています。一番国民が困っているのは電車の運休や計画停電の日時の不定なことです。電車はライフラインと同じです。これを止めるのは問題です。そこで、電車や家庭などの停電をやらなくても電力需給が賄える方策を提案します。

最も電気を使用するのは生産工場です。また、大きなオフィスです。ビルが高層化しエレベーターが増えたためと、OA器機が増えたためです。私は電気新聞から毎日の最高使用電力量を読み取り2007年度1年分のグラフをつくってみました。すると鋸の歯のようなギザギザが出来るのです。それは土曜、日曜は工場が休むので、最高使用電力が小さくなるからです。お盆の頃はテレビで高校野球を見るから電気が多く使われるといわれています。しかし、お盆の3,4日は4,5月頃の最高使用電力ぐらいです。工場が休んでいるからで、如何に工場の電力使用量が多きかが分かります。

そこで、工場と大口のオフィスの休日(土、日に相当する)を順繰りにとって、操業日を平均化することを提案します。恐らくこれで日中の電気のピークは抑えられ、計画停電は必要なくなると思います。

気候ネットの調査によると(2009)、2007年度の温室効果ガスの総排出量の約50%をたった166個の大口の工場とオフィスが排出しています。これは温室効果ガスの排出量で、電気の使用量ではありませんが、ほぼ電気の使用量と比例すると思います。またこの中には、今最も要求されている電気事業が含まれていますので、大口の工場とオフィスの電気の使用量は25%くらいかも知れませんが、大口の工場とオフィスが大量の電気を使用しているのは事実です。 そこの休日を順繰りにとらせる方式をぜひ実現させたいものだと思っています。

(2011・3・21)

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