談話
核兵器禁止条約の即時批准を日本政府に求める -日本被団協のノーベル平和賞受賞によせて-
2024年10月16日 日本科学者会議事務局長 竹内 智
ノルウェー・ノーベル委員会は、2024年のノーベル平和賞を日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)に授与すると10月11日に発表した。核兵器が二度と使用されてはならないという「核のタブー」を広め、核兵器のない世界を目 指すという日本被団協の反核・平和活動が高く評価されたものである。
人間は未来を想像できる能力を持ち合わせている。世界的な核戦争が勃発するならば、莫大な核エネルギーにより多くの市民が犠牲となり、自然や都市の大規模な崩壊と火災によって膨大な量の塵(ちり)と煤(すす)が発生する。それらが地球を覆って太陽光を遮り、そして核の冬が到来することになるだろう。ヒロシマやナガサキにおける被爆の実相を知らずとも、誰もがその惨状を想像し、 最大の環境破壊がもたらされることを認識することができるだろう。
米国の原子力科学者会報(Bulletin of the Atomic Scientists)が毎年発表して いる「終末時計」は、昨年に続き最短の90秒となった。これには、ウクライナ侵攻を続けるロシアによる核兵器使用の脅威、北朝鮮による中長距離弾道ミサイルの度重なる発射、軍事力による実効支配を目論む中国、さらにはロシアと米国間で締結された新戦略兵器削減条約(新START)失効の危機など、人類がかつてないほど核の脅威に晒されていることが背景にある。
このように核戦争が現実味を帯びてきた中においても、日本政府は、これまで米国の「核の傘」によって日本の安全保障が保全されているとして、核兵器禁止条約締約国会議にはオブザーバー参加さえも認めていない。しかも、アジア地域における武力有事を国民に過大に煽ることで、安保法制の承認や軍事費の増大など、「戦争のできる国」を目論んでいる。しかしながら、軍事力や核抑止力の増大は、大国間における武力紛争の危険性を増幅するだけである。唯一の被爆国である日本における政府の役割は、外交指針の一つとして掲げられている「人間の安全保障」を実質化し、紛争国間の仲介役として武力によらない平和の構築に貢献することである。
日本被団協へのノーベル平和賞授与は、長きにわたって艱難辛苦の日々を送らざるを得なかった被爆者と反核・平和活動家にとって、核兵器のない世界の構築に向けた希望の灯となっただけでなく、日本政府が核兵器の廃絶に向けて一歩踏み出すことも促している。一刻も早く核兵器禁止条約の批准に向けて日本政府が行動することを強く求めるものである。