ユーザ用ツール

サイト用ツール


statement:20240312jsaok

見解・声明など | PDF

声明

政府による辺野古埋立変更承認の代執行と「辺野古代執行訴訟」の最高裁による上告不受理は、沖縄県民を切り捨て、日本の法治主義と地方自治を破壊する暴挙であり、厳に抗議する

名護市辺野古の埋立変更承認申請を巡る代執行訴訟で、昨(2023)年12月20日、福岡高裁那覇支部は国土交通大臣による代執行を認める判決(以下、高裁判決)を下した。この判決は、代執行訴訟においても司法は実質審理をしない先例を創ったことに加え、人権と民主主義の砦といわれる司法の根本的な役割において禍根を残す内容である。ところが、最高裁第一小法廷は、2024年2月29日、沖縄県の上告を不受理とする決定をし、これにより高裁判決が確定した。

代執行訴訟における裁判の争点は、(1)玉城知事が変更承認しないことが公有水面埋立法に違反するか、(2)他の方法で是正は困難か、(3)放置すれば著しい公益侵害が明らかか、の3点である。

高裁判決は、争点(1)について、沖縄県が、2023年9月4日に出された国の関与(是正の指示)取消請求訴訟最高裁判決に従わないことは公有水面埋立法に違反すると述べている。だが、9月4日最高裁判決は、知事は「行政不服審査法52条の拘束力に違反している」(=是正の指示に従う義務がある)とは言っているが、知事の下した判断が公水法の各規定に反するとは一切認定していない。これを、国側は「論理のすり替え」で、どの法令に反するかを都合良く解釈して代執行訴訟を提起していた。裁判所は国側の立証不備として国側の請求を棄却すべきであったが、高裁判決は国の主張を追認した。

争点(2)については、高裁は、県と国は一方的な主張を言い合うことしかできないと一方的に判断し、沖縄県は国の申請を承認しない意思が明確かつ強固なのだから対話の余地はないと見なして、国側が対話を尽くしていないとの県の主張を退けた。対話とは本来、相互承認を前提とし、相互に熟議するなかで、第三案が生み出される可能性を持つべきものであるが、このことを見ようとせず、「結論ありき」の論理を組み立てたのである。

さらに、争点(3)について、変更が承認されずこのまま放置された場合には、本件埋立事業の進捗が更に遅延し、人の生命、身体に大きく関わる普天間飛行場の危険性の除去の実現がされずまたは大幅に遅延するから、これを放置することは社会公共の利益を侵害すると判断した。また、沖縄戦や戦後の米軍統治などの歴史的経緯から「県民の心情は十分理解できる」が、これは「法律論として考慮し得るものとは言い難い」と退けた。しかし、新基地の米軍への提供には国側主張でも12年もかかり、その間、政府は普天間飛行場の運用を停止せず、その危険を放置することから、政府の主張には論理矛盾がある。また、辺野古と周辺には集落も保育園や小中学校、高等専門学校などもあることから、新基地は普天間飛行場の危険性や騒音被害を辺野古に肩代わりさせるだけである。さらに、米軍統治下から今に至るまで住民に犠牲を強要する構造が80年近く続いており、この人権侵害の構造の是正をこそ司法に求めていることを、高裁判決は感情論として退けたのである。司法の責任回避はここに極まる。

以上のように、高裁判決には多くの深刻な問題点があり、とりわけ、辺野古裁判の本質が軍事基地に起因する人権侵害の司法による救済であることを、裁判所が敢えて無視しているのである。

玉城デニー沖縄県知事は、住民のいのちと生活に責任をもつ知事の責務として、高裁判決の承認命令に従わず、12月27日、最高裁に上告したことから、国土交通相は翌28日午前、1999年改正地方自治法で初となる「代執行」で、玉城デニー知事に代わって沖縄防衛局の設計変更申請を承認し、2024年1月10日には大浦湾側の工事を開始した。

最高裁第一小法廷は、2024年2月29日、突然に上告を不受理とする決定をした。これは、最高裁判所自らが日本の地方自治制度を破壊に導いた暴挙と言わざるをえない。

1999年改正地方自治法は、国と自治体の関係を上下関係とした機関委任事務制度を廃止し、両者を対等・協力関係とすることで自治体の自己決定権の拡充を図った。代執行訴訟における最高裁判断は、改正地方自治法施行以来、初めての判断であり、地方自治の在り方にも大きな影響を与えることから、慎重な実質審理が求められ、大法廷審理を行うことが相当であった。機関委任事務制度下で、国が大田昌秀沖縄県知事に対して起こした職務執行命令訴訟(代理署名訴訟)においてさえ、最高裁は大法廷を開いて知事の意見陳述を認め、実質審査の必要性を示していたからである(1996年8月最高裁判決)。そして、そもそも憲法上の司法権の役割は、丁寧な事実認定をして論理的理由付けをした上で結論を導くことである。今回の第一小法廷決定は、最高裁自身の先例にも、憲法上の司法権の役割にも反するものである。

この暴挙は、『琉球新報』が報じたように、サンフランシスコ講和条約によって沖縄が本土と切り離されて米国に占領されるに至った1952年4月28日の「第1の屈辱の日」と並ぶ、沖縄県民と沖縄県の尊厳を踏みにじる暴挙が政府によってなされた「第2の屈辱の日」として、歴史に刻まれるべき重さを持つ。

玉城デニー知事は3月1日の記者会見で、「歴史的重要性や地方自治の本旨、さらには沖縄県民の苦難の歴史と民意をふまえ、憲法が託した法の番人としての正統な判決を最後まで期待していただけに、今回司法が何らの具体的判断も示さずに門前払いをしたことは、きわめて残念」だと述べた。

政府と裁判所の横暴は止めがたいようにも見えるが、しかし、政府の代執行、最高裁の判断回避によって、軟弱地盤や断層の危険性、長期に普天間基地が存続する危険性、基地建設や運用による自然環境や人間生活への影響および膨れ上がる巨額の税金浪費は、どれ一つとして、微塵も解決には進まないのである。そして、地方自治破壊と軍事基地建設強行は、ひとり沖縄の問題ではなく、日本全体の問題である。

また、今回の代執行は、あくまでも2020年4月の沖縄防衛局による設計概要変更承認申請に対して2021年11月25日に沖縄県知事が行った不承認処分に対するものである。沖縄防衛局が今後工事を続ける限り、監督庁である沖縄県は、継続的に事業者・政府と協議・対話を続けることになる。埋立事業計画には今回の変更承認後にもなお大きな無理があり、沖縄防衛局は今後も変更承認申請を繰り返さなければならず、したがって今回の暴挙を重ねることなしには工事は続行しないであろう。政府も裁判所も、主体的にかつ真剣に国民と向き合おうとせずに、本気で復帰前や戦前のように沖縄県民を隷属させ続けるのかが問われる。

私たちは、今回の最高裁決定に至る一連の政府と裁判所の暴挙に対して最も強い抗議を表明する。私たちには、損なわれた地方自治や平和主義をどうやって取り戻していくかについて、沖縄の住民、自治体と手を携えて、さらなる研究と実践にとりくむ使命がある。みずからそれにとりくむとともに、アカデミアに対して日本の平和、法治主義、および地方自治の本来のあり方に対する真剣な議論を開始することを呼びかける。

沖縄は屈しない。辺野古新基地の建設は、持続可能な沖縄の未来と結びつかない。この民意がある限り、政府が辺野古の基地をつくることは不可能である。私たちはこのことに確信を持ち、辺野古埋め立てと軍事強化を中止し、軍事に依存しない外交経済政策の抜本的強化へと日本の進路を転じるよう訴える。

2024年3月12日
日本科学者会議平和問題研究委員会・日本科学者会議沖縄支部

statement/20240312jsaok.txt · 最終更新: 2024/03/21 23:41 by mikasatoshiya

Donate Powered by PHP Valid HTML5 Valid CSS Driven by DokuWiki