【声明】国立大学法人への「運営方針会議」設置義務づけに反対する
政府は、10 月 31 日の閣議で一部の国立大学法人に「運営方針会議」設置を義務づける国立 大学法人法改正案を、現在開会中の臨時国会に提出することを決定した。
本「運営方針会議」は、これまで役員会の議決事項であった中期目標・中期計画に関する 事項、及び予算・決算に関する事項についての議決権限を持つだけでなく、このような権限 に基づいて大学の運営方針全体を決定し、また、そのような方針に従って大学が運営されて いるかどうかを監督し、運営が適切に行われていないと認めるときは、学長に対し運営を改 善するために必要な措置を講ずることを求めることができるとされている。さらに、学長の 選考や解任についても、学長選考・監察会議に対して意見を述べる権限も与えられており、 大学の運営全般について、これまでにない強大な権限を持つ組織となっている。
この「運営方針会議」は、学長の他、3名以上の委員で構成するとされているが、その委員 の選考に当たっては、「人格が高潔で、学識が優れ、かつ、大学における教育研究活動を適切 かつ効果的に運営することができる能力を有する者」という、学長と同じ資格要件を満たす 者のうちから学長選考・監察会議との協議を経て、文部科学大臣の承認を得た上で学長が任 命するとされている。この点、学長の任命が「国立大学法人の申出に基づいて、文部科学大 臣が行う」とされているのとは対照的に、「文部科学大臣の承認」が前提とされている点で、 より強い国の関与を認める規定となっている。
これまで、役員会、教育研究評議会、運営協議会などの大学構成員を含む会議において大 学運営の基本方針の策定とその遂行が担われてきたのに対して、これらの既存の会議をはる かに超える権限を持つ会議体が設置され、かつ、その会議体の構成員に国の関与が強まるこ とになれば、大学運営の基本原則である「大学の自治・学問の自由」が大きく損なわれるこ とになるのは明らかである。
さらに、「運営方針会議」の設置を義務づける「特定国立大学法人」は、理事の数が7名以 上の国立大学法人のうち、「収容定員の総数及び教職員の数を考慮して、事業の規模が特に大 きいもの」から政令で定めるとされている。この「特定国立大学法人」には、新聞報道によれ ば当面、「東京大学」、「京都大学」、「大阪大学」、「東北大学」、名古屋大学と岐阜大学を設置す る「東海国立大学機構」の 5 つの法人が想定されているとのことである。このことは、これ まで「合議体」設置が義務づけられるとされてきた「国際卓越研究大学」だけでなく、主要な 大規模国立大学すべてで大学運営への国の強い関与が可能となることを示している。また、 「特定国立大学法人」以外であっても、債券の発行等により多額の民間資金を調達するなど の特別な事情により、法人の運営についての監督体制を強化することを必要とする国立大学法人は、文部科学大臣の承認を得て「運営方針会議」を置き、「準特定国立大学法人」となる ことができるとされていることから、このような組織運営体制が無制約的に拡大する可能性 もあり、一部の国立大学法人のみの問題として看過することはできない。
そもそも大学は、その性格上、伝統的にそれぞれの分野の研究者の専門性に依拠して運営 されてきた。それは、学問がそれぞれの分野で発展してきた経緯を反映するものであった。 ところが、この間の政府による大学政策は、このような専門家による自主的運営に国策を優 先させ、あるいは学術を国の科学技術政策に従属させることで、学術の自主性を全面否定す るものであった。このような、研究者による大学運営の自主性の否定は、大学における研究 の発展を阻害するものであり、ひいては、日本のアカデミズム全体の閉塞をもたらすもので ある。国家権力による大学支配をただちに中止することなしに、学術の健全な発展への道が開かれることはない。
日本科学者会議は、1965 年の創立以来、一貫して日本の科学の自主的・総合的な発展を願 い、科学者としての社会的責任を果たすため、核兵器の廃絶を含む平和・軍縮の課題、環境 を保全し、人間のいのちとくらしを守る課題、大学の自治を守り、科学者の権利・地位を確 立する課題など、さまざまな活動を進めてきた。2004 年の国立大学の法人化以降、政府は学 問の発展に不可欠な大学の自治を形骸化し、運営費交付金を削減し、競争的資金を増額する 「選択と集中」など様々な施策を大学に持ち込んできたが、それらが研究成果の国際的水準 の低下や国民のために寄与できる知識人育成の衰退など、大学の荒廃をもたらしたことは周 知の事実である。大学法人化も含めこれまでの大学改革が政府の瑕疵であることは自明であ るにもかかわらず、政府は「大学の自治・学問の自由」をさらに空洞化する国立大学法人法案を提出してきた。
日本科学者会議はこの法案を絶対に認めることはできない。速やかに本法案を廃案とする よう政府に強く求めるものである。