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statement:20231003soh

見解・声明など | PDF

声明

辺野古埋立の設計概要等変更不承認に対する最高裁判決と、政府の代執行に向けた手続を強く批判する。玉城デニー沖縄県知事が「辺野古に基地を造らせない」との姿勢を維持することを期待する。

2023 年 10 月 3 日
日本科学者会議沖縄支部
日本科学者会議平和問題研究委員会

沖縄県名護市で強行されている辺野古新基地建設事業において、沖縄防衛局による設計概要等変更承認申請に対して、玉城デニー知事は、2021 年 11 月 25 日、これを不承認処分とした。これに対して、沖縄防衛局は行政不服審査法に基づいて国土交通大臣に審査請求を行ったところ、国土交通大臣は、2022 年 4 月 8 日に不承認処分を取り消す裁決を行った(以下「裁決」という。)。また、国土交通大臣は、本件裁決と同日に、地方自治法に基づき、沖縄県知事に設計概要等変更承認申請を承認するよう是正の勧告し、同年 4 月 28 日に指示(以下「是正の指示」という。)を行った。

最高裁第1小法廷は、2023 年9月4日に、「是正の指示」の取り消しを求める関与取消訴訟(地方自治法 251 条の5第1項1号に基づく訴訟)において、行政不服審査法 52 条の定める裁決の拘束力を根拠にして、本件是正の指示が公有水面埋立法上適法かという最も重要な争点について、沖縄県が主張することを禁じ、その結果、裁判所として実体的判断することを回避しながら、沖縄県の上告を棄却した。今回の最高裁判所の判断には、大きく2つの問題がある。

1つは、本来別個の制度であるはずの行政不服審査法上の裁決と地方自治法上の「是正の指示関与」を不当に連結する点を肯定したことである。本件最高裁判決は、結果的に、関与取消訴訟の存在意義を行政不服審査法の争訟(本件裁決の拘束力)に従属させることとするものであり、また、地方公共団体の長の地位の自主独立性や国と自治体の対等平等性を否定することになる。これは国の関与の強化にあたり、また、地方自治体と国との紛争において、紛争の一方の当事者であり行政不服審査法上の裁決権限をもつ大臣に実質的解決権を委ねたものと言うほかない。さらに、地方自治法の関与の最小限原則にも違反し、「地方自治体と国とは対等の関係である」とした 1999 年の第一次地方分権改革における地方自治法改正の趣旨をも没却させるものであった。

もう1つの問題は、最高裁判所が「当事者間の法的紛争を、法を適用して最終的に解決する」という司法権の本来の役割を放棄したことである。

沖縄県は、本件不承認処分をするにあたって、大浦湾海底に存在する軟弱地盤上で工事することの危険性に鑑みて、専門家の意見も取り入れつつ、慎重に沖縄県として責任をもって判断したものであった。これに対して、福岡高裁那覇支部判決では、「(沖縄県知事の不承認判断は)特段の事情がないにもかかわらず、港湾基準・同解説の記述する性能照査の手法等を超えてより厳格な判断を行うものであり、考慮すべきではない事項を過剰に考慮したもの」とした。もしも同判決のような司法判断が定着すれば、国が示した基準よりも高いハードルを設けると違法になるということになり、そうすると、地方自治体として、地域ごとの特性、さらには地域固有の文化や自然環境の尊重すらも認められなくなるのである。沖縄県民と沖縄県の目線からすれば、もしも低い基準で承認したとすれば、護岸の脆弱性のゆえに小規模な地震動においてさえも護岸が崩壊し、その結果大浦湾沿岸域に津波が発生する結果、多大な犠牲者が発生するおそれなしとしないのである。また、もしも工事中に地震等が発生した場合、工事に従事する者に対する死亡事故等の発生すらも危惧 されるのである。今回の最高裁には、上記の安全性を軽視する福岡高裁那覇支部判決を見直して、沖縄防衛局が沖縄県知事に出願していた設計概要等変更申請が、公有水面埋立法4条1項1号でいう「国土利用上適正且合理的ナルコト」、および同2号でいう「其ノ埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト」という要件を充足しているかどうかを、実体的に審査することが期待されていた。しかし、最高裁は、公有水面埋立法を適用することをせずに、行政不服審査法 52 条の定める裁決の拘束力を根拠に、裁判所としての実体的判断すること(実質的な紛争解決)を回避しながら、沖縄県の上告を棄却した。これは最高裁判所の存在理由が問われているといってよい。

9月4日最高裁判所による実体的審理の回避は、護岸の脆弱性、災害発生の危険という、安全性・国民の生命にかかわることがらが顧慮されず放置されたことを意味する。このことのみをもっても、住民の生命財産、自然環境の保全に責任を負うべき自治体の長として、県知事は承認手続を行うことができない。それにもかかわらず、9月4日最高裁判決を主要な理由として、国土交通大臣は、設計概要等変更承認を「当該普通地方公共団体に代わつて行う」、「代執行」手続に入った。とくに、まず第1段階として、9月 19 日付けで、9月 27 日を承認の期限とする「勧告」をした。 その後玉城デニー知事は、9月 27 日付けで「精査した上で対応を検討する必要がある」こと等から「勧告の期限までに承認を行うことは困難である」との回答をした。ところがその翌日である9 月 28 日、国土交通大臣は、10 月4日を期限として承認をするように、代執行手続の第2段階である「指示」をした。そしてこの手続は、第3段階として福岡高等裁判所に対する「承認を行うべきことを命ずる旨の裁判を請求」を行う。その後高等裁判所での判決後、1週間の上告期間のあと、最高裁判所での審査に入ることになる。

この一連の代執行手続のなかで、国土交通大臣は、沖縄県知事が承認を行わないことが、国土交通大臣による代執行以外の方法によってその是正を図ることが困難であり、かつ、それを放置することにより著しく公益を害することを明示しなければならないことを、私たちは指摘する。

さらに、地方自治法における代執行裁判の先例ともなる最高裁判決(砂川事件・職務執行命令訴訟最高裁判決〔1960 年 6 月 17 日〕および代理署名訴訟最高裁判決〔1996 年8月 28 日〕)では、裁判所は実質的審理をすることになっており、このことは、沖縄県があらためて、国に対して地方自治権の保障を求めることの正当性を、司法を通じて主張できるということを意味する。そして、そこではあらためて、福岡高裁において本件沖縄防衛局による設計概要等変更申請が、公有水面埋立法4条1項所定の 1 号と2号の要件を充足しているかどうかについて、実体判断されてしかるべきである。

日本科学者会議沖縄支部および日本科学者会議平和問題研究委員会は、玉城デニー沖縄県知事が最高裁判決や国の関与の不当性を見極め、県民の代表として、「辺野古に基地を造らせない」との姿勢を維持することを期待する。また、政府が辺野古新基地建設を断念し、代執行手続を直ちにやめるよう、改めて求める。そして、裁判所が、その本来の役割に立ち返り、日本国憲法に基づく法治国家として、平和、人権、自治、そして環境に配慮した判断をするよう、期待するものである。

以上

statement/20231003soh.txt · 最終更新: 2023/11/14 13:18 by mikasatoshiya

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