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見解・声明など | PDF

声明

福島第1原発事故汚染水(ALPS処理水)の海洋放出の即時中止を求める

2023年9月11日、日本科学者会議近畿地区会議

政府と東電は、8月24日に東電福島第1原発事故の汚染水(ALPS処理水)の海洋放出を開始した。

これは、2015 年8月 24 日の福島県漁連への「漁業関係者を含む関係者への丁寧な説明等必要な取り組みを行うこととしており、こうしたプロセスや関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」との政府約束を平然と踏みにじるものであり、福島原発事故以降の12年間の非常に困難な状況のもとであっても、生業復興に向けて県漁連をはじめとした福島県民の筆舌に尽くしがたいさまざまな苦労と努力によって、ようやく現実的に一筋の光明を見出そうとしている時に、その復興に向けて築かれつつある土台を一挙に足元から崩す行為である。このような岸田政権の県民無視の姿勢は絶対に許すことはできない。

ALPS(多核種除去設備)処理とは、原発事故でメルトダウンした原子炉下部のデブリ(溶融核燃料)と接触し汚染した冷却水、地下水、雨水などを凝集・沈殿・沪過処理するものであり、浮遊粒子(SS)に含まれた放射性核種を一定量除去できるが、水として存在しているトリチウムはALPSでは処理できない。また、ヨウ素129、ストロンチウム90、セシウム137、プルトニウム239、カドミウム113など62種類に及ぶ放射性核種を100%除去できるものではないため明確に放射性汚染水である。しかし、政府と東電は、「処理水」が「汚染水」ではないとして、汚染水との表現を避けて処理水と言っているが、「処理汚染水」と言うべきである。

原子力利用を推進するIAEA(国際原子力機関)報告書は、「ALPS処理水の海洋放出計画のトリチウム濃度が国際安全基準に合致している」とするが、「海洋放出決定に係るプロセスを推奨・支持するものではない」としており、政府の海洋放出を支持したわけではない。

ALPS処理水には、トリチウム以外の多数の放射性核種が含まれており、希釈しても放射性物質の総量は変わらず、50年以上前の公害多発時代に明確に否定された希釈放出方式が総量規制方式に変えられた教訓を捨て去るものである。また、汚染水の海洋放出は、放射性廃棄物などの海洋投棄を禁止しているロンドン条約の1996年議定書に違反するものである。

メチル水銀を含む工場排水を海洋放出した結果、食物連鎖により魚介類に高濃度の水銀が蓄積し、それを食べた人々に深刻な健康被害を引き起こした水俣病を経験した私たちは、放射能に汚染された魚介類が広く海洋を回遊して、人体に入り、国際環境問題となることを危惧する。

このことから、汚染水の海洋放出ではなく、5年前(2018年8月))の時点においても公聴会では、石油備蓄などで実績のある大型タンクでの長期保管との意見が多く出され、それを受けたALPS小委員会(8月9日)でも、意見の大勢は海洋放出容認でなく、当面、保管を継続するとの方向だった。そもそもタンクでのALPS 処理水保管の目的は海洋放出を避けるためなのだから。また、原子力市民委員会は、大型タンク長期保管とあわせて汚染水のモルタル固化による永久処分(既に米国サバンナリバー核施設において実施)についても「ALPS 処理水取扱いへの見解」(2019年10月3日)として提案している。この現実的な二つの方法について、政府は十分に議論することなく、海洋放出に一路突き進んできた。

この二つの方法に加えて、根本的な対策として必要なのは、汚染水発生の根本的原因である原子炉建屋に日々流れ込んでいる地下水を遮断することである。汚染水発生の原因を止めることを何よりも重視しなければならない。原子炉建屋周辺の失敗した凍土壁だけでなく、敷地境界全体に遮水壁を設置して大量に流入する地下水を削減することが汚染水の抜本的な削減につながる。イタイイタイ病の原因物質のカドミウムの最大汚染源であった神岡鉱山六郎亜鉛製錬工場の高濃度地下水汚染対策として、工場に流入する地下水を徹底的に削減するとともに、残る汚染地下水を揚水処理する方式で成功した(別紙1)。

この点について、地学団体研究会は、福島第一原発地質・地下水問題団体研究グループで調査研究を実施し、『福島第一原発の汚染水はなぜ増え続けるのか―地質・地下水から見た汚染水の発生と削減対策』を2022年に出版した。そこで提案された原子炉建屋への地下水流入を抜本的に削減する「広域遮水壁」は、処理水の海洋放出をしなくても済む抜本的対策として国内外から注目されている(別紙2)。

政府と東電は、処理水の海洋放出は廃炉までの30年間と言っているが、廃炉作業における必須の作業である推定997トンにも及ぶデブリ取り出しは、あろうことか現在1グラムも取り出せておらず、廃炉の見通しは全く立っていない状態である。30年との数値は、机上の空論に等しいと言わざるを得ない。デブリ取り出しの有効な方法が見つからなければ、半世紀や1世紀もの期間をも考慮せざるを得なくなり、このようになった場合、地球規模での海洋の放射能汚染につながりかねない。

以上のことから、私たちは汚染水の抜本的な削減と汚染水の海洋放出の即時中止を強く求めるものである。

以上

別紙1 別紙2

statement/20230913_kinki_statement.txt · 最終更新: 2023/09/13 21:27 by mikasatoshiya

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