【決議】日本学術会議の会員任命拒否を速やかに撤回し,組織改革を断念することを強く求める
政府は去る4月20日,日本学術会議法改正案の第211国会への提出を見送った.これは,日本学術会議(以下,「学術会議」)が4月18日付の答申「日本学術会議のあり方の見直しについて」で強く批判したように,学術会議の自主性・自律性を脅かす法改正であることから,国内外の科学者のみならず教育研究者さらには多くの学術団体や広範な市民による強い批判を受け,政府が法改正の強行を見送らざるを得なかったものである.
政府が学術会議法の改正に踏み込んだ直接のきっかけは,2020年10月に会員候補者6人の任命を菅首相(当時)が拒否し,学術会議法違反の状態を生み出したことにある.学術会議は政府に対して任命拒否の理由を求め,会員候補者6人の速やかな任命を強く求めたが,政府は学術会議の組織の在り方に問題があるとして論点をすり替え,学術会議の組織改革の検討に入った.これに対して,学問の自由と自律を侵害し違法性が危惧される任命拒否を撤回せよとの声が全国に広まり,学術界のみならず国民からも大きな憤激が巻き起こったのである.それにもかかわらず,学術会議法を改正して政府が介入できる手がかりをつくろうとしている政府・与党の理不尽な行為に,学術会議の毅然とした対応と世論からの厳しい反撃が同法案の国会提出を見送らせたといえる.しかし,今国会への法改正提出の見送りにより問題が解決したわけではない.政府・与党は,学術会議法改正の暁には学術会議を民間法人化する意図を露わにしており,それはナショナルアカデミーとしての学術会議の国際的地位を低下させるだけでなく,学術界の分断や弱体化を来す恐れがあるものである.
そもそも,学術会議は,科学者の戦争協力や権力者におもねる態度などについて強く反省し設立された「わが国の科学者の内外に対する代表機関」(学術会議法2条)であり,「わが国の平和的復興,人類社会の福祉に貢献し,世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命と」する団体である(同法前文).学問研究は客観的真実を追求するものであり,そのためには既存の理論や所与の社会的実態等に対して批判的・懐疑的な立場からも検討・検証を行うことがその生命である.そのため,外部からの干渉を排除し,「独立して」科学に関する重要事項を審議し,その実現を図ること,及び科学に関する研究の連絡を図り,その能率を向上させることを職務として行う(同法3条)とされているのである.
学術会議は4月18日の勧告において,「日本学術会議のあり方を含め,さらに日本の学術体制全般にわたる包括的・抜本的な見直しを行うための開かれた協議の場を設けるべきである」と主張している.これは政府・与党への説明の場ではなく,学術会議と政府間のみにとどまらず広く学術界や市民の参加も可能となる対等平等の立場が保障されるものでなければならない.さらに協議の内容は,学術と政治・産業・市民社会との適切な関係,政府と学術会議との関係性,学術政策の意思決定のあり方など幅広い課題について行われるべきものである.それは,これらが日本の学術の発展にとって不可欠であり,今後の日本の学術体制の方向性を左右すると考えるからである.
日本科学者会議は,日本の科学の自主的・民主的発展につとめ,その普及をはかることを目的としており,学術会議協力学術研究団体として議論の一翼を担うことをあらためて決意するものである.さらに,政府の学術に対する干渉は,学問や言論の自由の束縛を意図しており,ひいては科学技術を戦争の道具へと貶めることに繋がることから,政府による日本学術会議の組織改革については引き続き注視を続け,法案の国会提出を永久に断念することを強く求めるものである.
以上,決議する.
2023年6月11日 日本科学者会議第54回定期大会