理化学研究所の任期制職員の雇止めに反対し撤回を求める声明
労働契約法は2013年の改定で、非正規の有期雇用が通算5年を超えた場合、大学や研究機関の非正規雇用の研究者は特例で10年を超えた場合、労働者が希望すれば無期雇用に転換できるとされた。このため、労働者が無期雇用への転換を申請できる前に雇い止めにされる恐れが指摘されてきた。
5月17日の参議院内閣委員会における共産党・田村智子議員の質問で、国立大学で3099人、国立研究機関で1390人、約4500人の非正規雇用研究者が無期転換逃れのために2022年度末までに雇い止めにされる恐れがあることが判明した。同氏は「研究者の大量の雇い止めの危惧がぬぐえない。日本の研究開発に深刻な打撃を与えかねない」と指摘し、各大学・研究機関に対して適切に指導するよう求めた。小林鷹之・経済安全保障担当相は「研究者が腰を据えて研究に打ち込む環境を整えることが重要だ。研究者の雇用は、労働契約法の趣旨にのっとった運用がなされることが大変重要」と答弁、高橋はるみ・文科政務官も「各大学に改めて無期転換ルールの適切な運用について、周知徹底を図りたい」と述べた。田村氏は「周知徹底だけでは違法・脱法行為を許すことになってしまう。適切に指導として行われることを求める」と念を押した。
理化学研究所(理研)は、埼玉県和光市、横浜市、神戸市などに拠点を置く国立研究開発法人である。同所は2017年末に5年ルールを回避して非正規事務系職員345名の解雇を画策したが、組合との交渉の結果、2018年2月に断念した経過がある。今回は、研究系の非正規所員に対し、2023年3月期限となる直前に無期雇用転換を逃れるため、「上限10年」とされた非正規研究者296名を雇止め(=解雇)の対象とした。その中には研究チーム(ラボ)を率いる責任者(研究室長)60名も含まれ、研究室が閉鎖されることで約300名のスタッフも雇止めになるため、合計で約600名になる。今回の雇い止めにより約60の最先端研究チームが解散の危機に瀕している。理研は研究系所員の約9割が任期制であり、今回の解雇対象者数は理研全職員の8分の1に及び、研究活動に深刻な支障が出ることは明らかである。
現場からは「国内外の大学との共同研究も進行中であり、研究は順調に進んでいる、しかし当局から執拗に実験装置の撤去(撤去・移設に数千万~1億円かかる)や片付け、人の転出を迫られている状況であるが、これまで職員との話し合いは一切ない」、「指導中の院生の実験・学位取得が中断してしまう」、「来年度から3年間の科学研究費が採択されているが、一方的な雇い止めでプロジェクト・研究をすべて中止せざるをえなくなる」等、不安や研究の継続性を危ぶむ声が上がっている。理研労組による3月25日の省庁要請・記者会見で、この研究室長等の悲痛な職場の生の声や理研神戸のMI棟がまるごと解散になることが詳しく説明され、新聞やネット上で大きな反響を呼んでいる。
岸田政権は大学ファンドや経済安全保障政策において科学技術立国を政策の目玉としているが、大学・研究育機関と学問研究・教育を取りまく状況は、政府の政策により、ますます短期的な成果、軍事研究・トップダウンへと傾斜を強めている。一部の大学・研究機関だけに手厚く支援する「選択と集中」の予算制度によるプロジェクト雇用型という時限的な予算が増えている。研究者は雇用維持のため成果が出やすい目先の研究へ向かわざるを得ず、多くの研究者から日本の研究・技術開発の衰退に拍車をかけるとの懸念が表明されている。
雇止め・解雇の嵐が吹き荒れるコロナ禍で、理研のような国の研究機関が法の趣旨を無視して大量雇止めを強行し、悲惨な職場を作り出すことは絶対に許されない。理研の雇止め強行は、広く研究者・教員の雇止め問題と共通し、日本の大学・研究機関等での研究力の衰退につながると同時に、日本全体の労働問題・人権問題でもあることを強く警告し、撤回を求める。
日本科学者会議埼玉支部第48回大会