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statement:20220511_kumamoto_minamata

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決議 水俣病訴訟における相次ぐ不当判決に抗議する

2022年5月11日
日本科学者会議 熊本支部
日本科学者会議 九州沖縄地区会議

水俣病被害者互助会の未認定患者8人が国・熊本県、チッソに対して損害賠償を求めていた訴訟で、最高裁判所は3月8日、患者側の上告を退ける決定をした。

また、同互助会の7人が水俣病と認定するよう熊本県や鹿児島県に求めていた訴訟で、熊本地方裁判所は3月30日、7人の請求を退ける判決を下した。

水俣病の原因物質であるメチル水銀は、1932年から36年間もの長期間、チッソ水俣工場から不知火海に排出され続け、その後も汚染が持続した。したがって、高度かつ広範な環境汚染とその長期にわたる残留を予測して、メチル水銀曝露を示すための環境調査や、メチル水銀曝露を受けたおそれのある人々の健康調査を、もれなくかつ長期に行うことが、当然必要であった。ところが、行政はそれを怠ってきた。

本来であれば、そのような継続的調査ののちに水俣病の病態が明らかにされる必要があったにも関わらず、国は、調査もすることなく、実際の汚染の被害規模を数十分の一におとしめる昭和52年判断条件を一方的に定め、それをかたくなに振りかざし、水俣病と認められるべき患者を見捨ててきた。

水俣病の現実の被害状況は、実際の患者を診療してきた医師らの臨床疫学的研究から明らかになってきた。それに基づいて、国は、1996年の政治解決、2009~12年の水俣病特措法により、6万人以上の患者を救済せざるを得なくなった。

行政は、自らの調査責任を果たさず、水俣病に対する医学の適用を妨害しただけでなく、これらの実証的な水俣病研究の成果を無視し、ほとんど水俣病研究実績のない日本神経学会理事会に対して水俣病に対する見解の回答を求め、同理事会が医学的根拠も作成プロセスも明示せずに作成した「回答」が裁判所に持ち込まれ、それが今回の一連の判決の根拠とされた。

このような無法な行政は、あってはならないことである。そして、裁判所が、これらの訴訟において、こうした不当極まる国及び地方行政を追認したことは、行政権力をチェックし、人権を守る司法の役割を放棄するものと言わねばならない。

私たちは、長年水俣病に苦しんできた被害者の苦しみを認めない行政と裁判所に対し、強く抗議する。そして、水俣病被害者が一刻も早く最後の一人まで救済されるよう求める。私たちは、科学者団体の立場から、その実現に努めていく決意である。

以上

用語解説

1) 「暴露」

人体がメチル水銀にさらされることを指しますが、ここでは、汚染された魚介類を食べることを通じて、メチル水銀を人体内に取り込んだことを指します。

2) 「昭和52年判断条件」

昭和52年判断条件では水俣病と認められるためには症候の組み合わせが要求され、(1)感覚障害+運動失調、(2)感覚障害+運動失調(疑い)+平衡機能障害(または求心性視野狭窄)、(3)感覚障害+求心性視野狭窄+中枢性障害を示す他の眼科又は耳鼻科の症候、(4)感覚障害+運動失調(疑い)+その他の症候が必要であるとされている。そして、このように感覚障害だけでなく2つ以上の複数の症候の組み合わせを要求されるため、その基準が厳格に過ぎ、水俣病の認定申請をしてもほとんど認定されないことから、多数の水俣病患者は長年にわたって司法に損害賠償請求訴訟という形で救済を求めてきた。(2013年10月25日 九州弁護士会連合会決議より引用)

3) 「日本神経学会理事会の回答」

2018年5月10日、日本神経学会理事会は、国を代表する環境省の意見照会に対して下記の3点を骨子とする「メチル水銀中毒症に係わる神経学的知見に関する意見照会に対する回答」を行い、この「回答」が、国が被告となっている裁判に提出されました。

  1. 神経系疾患の診断は神経学に習熟した神経内科専門医による神経学的診察が必要である。
  2. 中枢神経疾患において症状の変動性はほとんどみられない。
  3. メチル水銀曝露終了後、老化により症状が顕在化するのはせいぜい数ヶ月から数年である。

この回答は「国に沿う見解」と新聞報道され、被害者切り捨てに利用されるものとして批判を浴びましたが、実際に原告が敗訴する結果となりました。この回答に対する医学的批判については、下記のURLに掲載された報告書をご覧下さい。

○ 日本神経学会の回答に対する意見書(2019年10月10日)
https://www.kyouritsu-cl.com/up_file/2001/td04_file1_19233124.pdf

○ 第1回慢性メチル水銀中毒症シンポジウム報告集(2020年8月30日)
https://www.kyouritsu-cl.com/up_file/2011/td04_file1_27173337.pdf

statement/20220511_kumamoto_minamata.txt · 最終更新: 2022/05/13 03:53 by michinobumaeda

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