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見解・声明など | 20211004jsaact2.pdf

<p style="text-align:right">2021年10月4日</p>

エネルギー基本計画案について意見

日本科学者会議中長期気候目標研究委員会 JSA-ACT

世界と日本は気候危機の状況にあり、このままではさらに気候変動の悪影響激化が予想され、我々のくらしの基盤、および産業活動の基盤を脅かす懸念がある。気候変動対策の強化、温室効果ガス排出量の大幅な削減が求められる。パリ協定は産業革命前比の気温上昇2℃未満抑制の全体目標とともに1.5℃を努力目標とした。IPCC気候変動に関する政府間パネル「1.5℃特別報告書」は早ければあと10年で産業革命前比の気温上昇が1.5℃になる可能性があるという切迫した状況にあることを示すとともに、気温上昇1.5℃抑制により、2℃またはそれ以上の気温上昇よりも悪影響を低く抑えられることを示した。また1.5℃抑制のための世界の累積排出量を示し、世界の代表的CO2排出経路として2030年に2010年比45%削減、2050年排出実質ゼロを示した。これは8月発表の第6次報告書でさらに強化されている。人口比排出量が世界平均の2倍の日本をふくむ先進国はより多くの削減をする責任がある。

日本では温室効果ガス排出量の85%をエネルギー起源CO2が占めるため、この10年でのエネルギー起源CO2の大幅な削減と早期に排出ゼロとする対策が求められる。具体的には省エネ・エネルギー効率化によるエネルギー消費量の大幅な削減とエネルギー全体の再生可能エネルギー転換が緊急課題である。

また、2011年3月の東京電力福島第一原発事故で、その危険性、いったん事故をおこせばとりかえしのつかない事態になることが明らかになった。また、原発の放射性廃棄物の超長期の保管についても全く目処がたっておらず、これ以上廃棄物を増やすことは避けなければならない。

日本はエネルギー問題として気候危機回避・気候変動対策と、原子力リスクの回避・全廃対策とを同時に進める必要がある。社会・生産活動に必要なエネルギー需要を満たしながら2030年に60%以上のCO2削減と、原発ゼロが達成可能なこと、2050年に一部新技術も使い省エネ再エネで排出ゼロを実現できることもこれまでの研究で示されている。この10年の対策が極めて重要であり、新技術ではなくすでに商業化された技術による脱石炭、省エネ再エネ普及が必要である。化石燃料輸入費・光熱費削減と省エネ再エネ産業の成長・雇用創出で、日本全体および地域に経済的に大きなメリットをもたらす。産業構造転換をもたらすので労働の公正な移行を行う必要がある。

こうした観点からエネルギー基本計画案を点検すると多くの問題がある。

(1)気候危機回避の前提、抜本的対策強化の欠如

上記に示した気候危機の認識、位置づけが極めて軽い。気候変動対策は先進国日本の責任分担も大きく、日本など先進国が抜本的に目標対策を強化し2030年目標を強化し排出ゼロ年次も2050年より前倒しし、世界の対策も大きく強化し、途上国の排出削減や適応にも協力すべきものである。しかし同計画案は、4つの原則で環境最優先を目標課題にせず、安全性、安定供給、経済性を優先させている。気候変動問題への対応についいて、1.5℃目標や世界の2030年目標強化などにふれずに気候変動対策を自国に有利なルール作り、覇権争い国際的なパワーゲームのようにみなす記述すら見られる。エネルギー基本計画案には根本的な欠陥がある。

(2)この9年の既存技術導入による抜本的対策強化の欠如

気候危機回避ではとりわけ2030年までの9年の対策強化が極めて重要である。しかしこの点で計画案は大きな問題をかかえている。まず目標が低い。日本の2030年目標、2013年比温室効果ガス46%削減(1990年比40%削減)は欧米の1990年比目標より低く、IPCC1.5℃報告が示した2030年の世界のCO2削減と同程度にとどまり、人口比排出量の大きい先進国の責任を果たすには不十分な目標である。60%以上の削減への引き上げが必要である。

次にこの9年の対策は新技術開発では到底間にあわず、既存技術の普及により確実に実施することが不可欠である。しかし、計画案は、新技術開発を極めて重視する一方、省エネ設備・建築普及、再エネ普及など今ある技術を急速かつ大規模・広範囲に普及することには消極的である。

(3)主役交代を避け、既存産業による既存設備を用いた供給重視でリスクの大きい新技術に依存

エネルギーの大規模な転換、設備やインフラの大転換のため、それを担う供給側産業や施設、消費側の産業も大きく転換することが予想される。しかし計画案は主役交代を避け、化石燃料供給を行う既存産業が既存設備で供給すること、産業構造固定、設備存続を重視し、新技術開発依存、CCUS依存になっている。

産業構造転換は避けられずまた避ける理由もないので、確実な対策および新規産業・雇用創出、主役交代を認め、既存技術普及、省エネ再エネ脱化石燃料脱原発による対策を進めるべきである。

(4)原発継続、核燃料サイクル継続方針

計画案は、原発について、可能な限り原子力依存を低減と書きながら、2030年電力割合20-22%と規制委員会に適合性審査も出せていない原発まで稼働しないと実現不可能な目標を示し、2050年には必要な容量維持として新増設にも含みをもたせている。核燃料サイクル推進も継続し、小型原子炉開発や高速炉や核融合も含む技術開発を進めるとしている。

福島第一原発事故の教訓をふまえ、また放射性廃棄物の超長期保管の目処もたたないことを踏まえ、原発は直ちに廃止すべきである。核燃料再処理の中止、核燃料サイクル廃止を行い、小型原子炉などの開発、核融合も行わない方針を決定すべきである。

(5)石炭使用継続

気候変動対策で石炭の優先的な使用削減、とりわけ石炭火力発電所全廃は先進国の対策の優先順位の高い対策でありその政策が広がっている。

しかし計画案は脱石炭火発、脱石炭の方針がない。旧型石炭火力は縮小するとしても2030年にも石炭火力割合を19%も確保し、建設中の石炭火力を止める方針もなく、2050年にも石炭火力は一定程度維持する方針である。また電力以外の石炭を減らす方針もない。

石炭火発は2030年までに全廃することを国家目標として定め、そのための廃止目標、CO2原単位規制、排出量取引制度など政策を導入すべきである。

(6)化石燃料依存継続

気候変動対策で、石炭はいうまでもなく、石油、天然ガスも含め、電力だけでなく熱量、運輸燃料も、2050年にむけて脱化石燃料、再エネ転換を行う必要がある。化石燃料継続でCCSUという路線はリスクも大きく、再エネ普及の妨げになり、エネルギー自立ができず、化石燃料輸入費やCCSのための追加費用も発生する。

しかし計画案は、脱化石燃料の方針がないどころか、2050年にも化石燃料使用方針がリスク回避に優れるかのような方針を示している。電力以外の熱や運輸燃料では化石燃料を前提にしたシナリオ案が示された。資源エネルギー政策では、いまだに海外化石燃料資源確保の政策、日本企業の新規化石燃料鉱山拡大支援政策がとられ、気候変動に有害なだけでなく日本企業の座礁資産獲得を進めているとさえ言える。

2050年にむけ石炭を優先的に使用ゼロにするとともに、他の化石燃料もゼロにし、2050年には全て再エネに転換する必要がある。

(7)再エネの位置づけの低さ

日本は莫大な再生可能エネルギー資源に恵まれ、2050年に向け多種の国産再生可能エネルギーでエネルギー自給を余裕をもって達成する可能性がある。

しかし、再エネの位置づけは低い。電力では2030年割合を36〜38%とする目標、2050年は参考として50〜60%という低い値が示されている。普及政策についても、「再エネ基幹電源化」、「再エネ最優先の原則」が入ったものの、具体的な強化政策が弱い。送電線につなげない、待たされる、高い接続料金をとられるという「送電線接続問題」の解決策はノンファーム接続程度で弱く、逆に大型電源を念頭に置いた多くの政策が放置されている。さらに熱利用の再エネ拡大は極めて遅れている。

再エネ政策を抜本的に強化、2030年に再エネ電力を50%以上とすること、2050年には再エネ電力100%、熱利用も再エネ熱に転換しにくい用途は電化し再エネ熱100%とすること、運輸は電化で再エネ電力100%とし再エネ転換100%とすべきである。

そのため、まず2030年の再エネ電力普及政策、普及の妨げになっている政策を抜本的に改め、まず優先接続政策を導入すべきである。また再エネを原発より優先し、火力の最低出力は例外的にしか認めない、再エネ優先給電政策を導入し、出力抑制は全て補償すべきである。送電線強化も2025年までに域内、地域間とも実施し、2030年の大量導入ができるようにインフラ整備すべきである。

再エネコスト低減策で、入札制、買い取り価格のトップランナー化、小規模太陽光に自家消費義務など、事実上大型のものを優先し地域主体参入に不利な政策をおこない、認定量導入量の低下をまねき、コスト削減をもかえって妨げている。平均的単価による買取制度にもどし、大型のものは安い単価を適用、大量導入によるコスト削減をめざすべきである。

再エネは地域で進める必要がある。地域主体の意思決定参加のもとに自治体が再エネ計画を作り、進める必要がある。大気汚染の場合は都道府県が大気汚染総量削減計画を作るという記述が大気汚染防止法(第3条〜第5条)にある。

再エネの普及に、自然保護、環境対策と一体で進めるという視点がない。経産省だけではなく、環境省もエネルギー基本計画立案に加わるべきである。再エネの乱開発が問題になり、また地域で推進事業者と住民が紛争になっている。乱開発防止には、環境省、自治体および住民参加で、全ての土地に許可地域と禁止地域を定め、許可地域を一定割合必ず定めるゾーン制を導入すべきである。また、地域外資本の大型再エネ発電が地域紛争をおこし、地域発展に寄与できない。この解決のため、再エネ導入に最低地元出資割合を定め、地域主体の参加を求める必要がある。

(8)大型電源優先の電力システム政策

大型電源優先の電力システム政策を抜本的に転換する必要がある。

大型電源を前提にした制度を改め、変動再エネが多くを占めることを前提にした制度に抜本転換する必要がある。大型電源維持につながる容量市場は廃止すべきである。

(9)省エネの位置づけの低さ

省エネの位置づけも低い。1990年以降の省エネの停滞についての認識が弱い。目標においても特に素材製造業の省エネが著しく弱い。機器の効率改善と、断熱基準抜本強化の断熱建築普及でエネルギー消費の大きな削減が可能で、これは再エネ100%転換に大きく寄与する。

産業部門とりわけ素材製造業を重点に省エネを抜本的に強化する。また普及政策を抜本的に強化、素材製造業では脱石炭等とあわせた大口排出源削減義務化政策が必須である。建築では、断熱基準をゼロエミッションビル・ゼロエミッション住宅水準に引き上げ、2025年小口建築規制化を前倒しし、将来は欧州なみ断熱規制を目指すべきである。

(10)意思決定参加

関係業界中心の政策ではなく国民の意思決定参加を抜本的に強化する必要がある。国会の関与、政令省令委任事項を限定し原則として法律に定めること、審議会の利害関係業界委員のとりやめ、国民の意見を直接聞くタウンミーティングの強化などがある。

<以下、原案に対する修正意見>

意見1

P4 気候変動問題への対応

意見

気候変動を世界共通の危機と捉えず、世界全体の排出削減にも触れず国際的取引の一環のように軽く考えており、エネルギー政策の根幹を見誤るものといえる。
122〜142行目「こうした世界的状況も踏まえ」までを削除し以下に修正する。

 気候変動は世界共通の危機であり、エネルギーに関係する緊急かつ最大の問題である。科学的知見を集めたIPCC気候変動に関する政府間パネル報告で、気候変動により、異常気象、生態系悪影響、農業被害、熱中症伝染病拡大など多くの分野で悪影響が予想される。気温上昇抑制で悪影響も小さくすることができると予想されている。パリ協定で工業化前からの気温上昇1.5℃未満抑制が努力目標に位置づけられた。1.5℃未満抑制には、達成確率50%としても、世界の2020年以降のCO2排出量を500億トンに抑え、2050年排出ゼロとする排出経路では2030年段階には2015年比半分以下に減らさなければならない。先進国の日本はさらに大きな削減が求められる。先進国が1990年以降平均でCO2排出量を10%以上削減、欧州で英国、ドイツ、イタリアなどが40%削減しているのに比較し、日本は5%削減に留まり、大きく遅れをとっている。日本も気温上昇を1.5℃未満抑制を目標に位置づけ、これに応える国内CO2排出削減を行う。

149行目「ことを国民一人一人が認識する必要がある。」を削除する。

意見2

P5 日本のエネルギー需給構造の抱える課題の克服

意見

気候変動対応、市場が脱炭素に向かう中での省エネ再エネの遅れ、原発事故など重要な課題を認識せず、エネルギー政策の根幹を見誤るものといえる。
155〜173行目を削除し、以下に修正する。

 気候危機回避にむけ、脱炭素、省エネと再生可能エネルギー拡大が急務になる中、日本のエネルギー需給は対応が遅れている。とりわけこの10年、2030年までの削減対策を確実に行うことが急務である。
 前述の通り先進国が平均10%以上、欧州連合が約40%削減の中で、日本のCO2削減率は5%に留まった。電力では、石炭火力発電量が1990年比で約3倍に増加、2019年度の電力に占める割合が3割以上を占め、対策で割合が急減しているアメリカ、ドイツを上回る。再生可能エネルギー電力割合は2019年に約18%で、欧州の40%、OECD平均の25%などを下回る。一次エネルギー全体でも石炭割合が高く、再生可能エネルギー割合は低い。この10年、2030年までの排出削減対策が急務で、省エネとともに電力分野で石炭全廃、再生可能エネルギーの大幅な拡大が必須である。熱利用でも石炭を不可欠用途に限定しエネルギー転換をすること、再生可能エネルギーの拡大をすることが必須である。運輸燃料も脱石油へ電化と再生可能エネルギー電力転換が急務である。いずれも抜本的な政策強化が必要である。
 市場も脱炭素にむけ、再エネ100%目標の企業が増加、サプライチェーン全体の再エネを目指す企業も増加している。日本で再エネが得られなければ、国際的サプライチェーンから閉め出される懸念があり、生産・サービスの輸出の極端な減少、海外流出を招く。
 2011年3月に日本は原発事故をおこし、犠牲者を出し、多くの被害者がまだ故郷に帰れない状態が続く。これまでの原発拡大・大型電源を優先した政策により再生可能エネルギー普及が遅れた。今後は原子力は可能な限り抑制との方針から、即時ゼロに転換する。
 気候危機回避、気温上昇1.5℃未満抑制ためのエネルギー起源CO2削減を、日本は省エネと再生可能エネルギー100%への拡大で行う。

意見3

P5 第六次エネルギー基本計画の構造と2050年目標と2030年度目標の関係

意見

最重要課題の気候変動の取り組みが甘く、既存産業の維持、そのための開発リスクをともなう新技術開発に賭けているが、このことは確実な排出削減にとって不確実性を増し、問題である。
180〜200行目を削除し以下に修正する。

 2050年には省エネと再エネによるエネルギー起源CO2排出ゼロを目指す。原子力、化石燃料、化石燃料起源の水素アンモニアは使用しない。新技術利用は開発リスクを伴う。素材系製造業の高温熱利用と、船舶航空燃料では必須としてもその他の分野では特段必要ないことから、この分野も含め、脱石炭や省エネ、再エネ普及など既存優良技術の普及を重視する。
 2030年にエネルギー起源CO2排出量の60%以上削減を目指し、それを確実に達成するため、既存の優良技術の普及を行う。電力では石炭と原子力は2030年までに停止し以後使用しない。新技術開発は2030年対策は使わず、新たな水素アンモニアも不要である。
 2030年までの既存技術普及のため、対策の強化が急務であり、その実現のために抜本的な政策強化を行う。

意見4

該当箇所P 11 第五次エネルギー基本計画策定時からの情勢変化

意見

気候変動は単なる関心の高まりの問題ではなくエネルギー政策の根幹かつ最重要課題であるが、色々ある問題の一つ程度の軽い位置づけで、基本的方針に問題がある。
327〜331行目を削除し以下に修正する。

 気候変動問題は深刻さを増し、気候変動に関する政府間パネルが1.5℃未満抑制のための排出許容量を2018年以降ゼロにするまでの量として420〜570Gt- CO2を示し、世界のCO2排出経路として2030年に2010年比45%削減、2050年ゼロを示した。IPCC第6次報告書ではさらに強化されている。世界の削減対策規模と速度も明確になった。パリ協定も実施段階に入る。日本のエネルギー政策もこうした課題を踏まえて脱炭素にむけ進める。
statement/20211004jsaact2.1635149717.txt.gz · 最終更新: 2021/10/25 17:15 by michinobumaeda

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