東海第二原発運転差止等訴訟水戸地裁判決に対する声明
水戸地方裁判所は,本年3月18日,日本原子力発電株式会社に対し,東海第 二原子力発電所(以下「東海原発」という)の原子炉を運転しないよう命じる判 決(以下「本判決」という)を言い渡した.
福島第一原子力発電所事故後,原子力発電所(以下「原発」という)の安全確保に問題があるとして民事訴訟ないし仮処分において運転差止めを認めた事例や行政訴訟で設置許可処分を無効とした事例はこれまで6例あるが,避難計画の不備を理由として原発の運転差止めを命じた判決は初めてであり,その意味で重要な判決といえる.
本判決は,地震動評価など他の論点については住民の主張する科学的知見にも一定の理解を示したものの,被告の採用した知見も不合理とまではいえないとして原告の主張を退けた.その点では伊方原発や大飯原発に関する昨年の広島高裁決定や大阪地裁判決と異なり,一方当事者の科学的知見のみに依拠したものといえ,遺憾なところである.
本判決は,新規制基準が避難計画を含まないことそのものが不合理だとはしなかったものの,原発による過酷事故を完全に防ぐことができないことを理解し,過酷事故による人格権侵害を防ぐには深層防護の第5の防護レベルすなわち過酷事故時における避難などの被害回避策が安全にとって不可欠だとして,それが達成されているかを検討した.同検討においては,全面緊急事態における東海原発から30キロ圏の人口約94万人が無秩序に避難した場合に住民が短時間で避難することが困難なことは明らかであり,実現可能な避難計画及びこれを実行し得る体制が整えられているというにはほど遠いとして,深層防護の第5の防護レベルに欠けるところがあり,人格権侵害の具体的危険があると判示した.本判決は,深層防護の第5の防護レベルが国際的に要求されていることに照らしても,国際基準を重視して原発の運転差止めを認めた判決として,その点では評価に値する.
当委員会は,原子力規制委員会に対し,本判決を受けて事故時の損害評価及び避難計画等を規制基準に盛り込むことを求めるとともに,政府に対して,従来の原子力に依存するエネルギー政策を改め,できる限り速やかに原発を廃止し,これまで原発が立地してきた地域が原発に依存することなく自律的発展ができるよう,必要な支援を行うことを強く求めるものである.
2021年4月1日