東京電力(株)社長 殿
経済産業大臣 殿
原子力規制庁長官 殿
【声明】性急な汚染処理水の海洋放出処分方針に反対する
政府は、東京電力福島第一原子力発電所(以下、第1発電所)に蓄積されている汚染処理水の処分について、海洋放出の方針を決定しようとしている。
日本科学者会議は、以下の理由により性急な汚染処理水の海洋放出方針に反対する。
1. 放射性物質を扱う多くの施設では、単に濃度限度を満たせばよいとして放射性物質を管理しているだけではなく、出来るだけ放出しないことに多大な努力をしている。第1発電所に蓄積されている汚染処理水について、放射能濃度を薄めれば海洋放出してよいとする方針は地元のみならず国際的な海洋汚染防止の観点を無視した乱暴な考えである。
第1発電所は、「3・11事故」によってすでに大量の放射性物質を周辺環境に放出しており、いまだに広い地域で顕著な環境汚染とその深刻な影響が継続している。この問題を解決しないで、場当たり的な汚染処理水の海洋放出の議論だけを採り上げるべきではない。
2. 現在の貯蔵タンク容量のことのみで、海洋放出の決定を急ぐのは海洋放出ありきとする安易なコスト優先の政策でしかなく、断固反対である。そもそも汚染水、汚染処理水、長期にわたって保存されている貯蔵タンク内の汚染処理水の状態、長期使用にかかって ALPS の装置劣化を含む処理能力などのデータが開示されていないことは大きな不信感のもとになっており、開示をつよく要求するものである。
建設計画がなくなった 7、8号機原発用地をはじめ敷地を確保すれば、タンクの増設はできる。汚染水の増加量が、東電公表の約150トン/日ならば、年間6万トン分のタンクの増設を行えば足りる。その間、汚染水発生を減らす方策を諸分野の研究者の知恵を組織して検討し、実施することで、必要なタンクの増設ペースを減らす努力をすべきである。
3. つまり、一日150トン規模の汚染水発生を抑制する対策を立てなければタンク増設の限界を理由に海洋放出やむなしへと誘導することになる。海洋放出ありきの狙いがここにあると言わざるを得ない。
一方、トリチウムに限れば、その半減期は約12.32年なので、放射能は、13年保管するだけで半減し、26年保管すれば約1/4になる。汚染処理水の放出処分を遅らせれば、汚染処理水の保管量は増えるが、除去しきれていない放射性核種のうち比較的寿命の短い放射性核種の総保管量やトリチウム保管量は、ある時点から減少に転じるはずで、長期陸上保管が現実的といえる。
4. 2011年の第1発電所の事故は、福島の近海漁業はいうに及ばず、国際的にも大きな影響を与えてきている。事故によって特に福島の漁業は大きな被害を受けており、いまだに回復していない。トリチウムをはじめ除去しきれていない放射性核種を含む汚染処理水の海洋放出は、消費者などの漁獲物に対する放射能汚染の懸念から、復興途中の漁業に再び打撃を与えかねない。単に風評被害対策を行う以上の配慮が必要である。また、有機結合型トリチウムをはじめ除去しきれていない放射性核種の環境影響、生物影響など、海洋放出が引き起こす自然界の挙動に関わる科学的研究が十分でないと懸念する声もあることにも配慮すべきである。
5.海洋放出された場合の消費者サイドによる食品購入回避の影響は、日本の漁業全体に及ぶ可能性がある。漁業関係者の同意が得られるめどなしに海洋放出の方針を決定すべきではない。
また、海洋放出については、ロンドン条約/議定書締約国会議 2019 に見られるように、東アジア諸国を含む外国からの懸念があることを十分考慮すべきである。
2020年12月24日
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