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2024年
2024年10月号<特集>大学教員・研究所職員の雇用と労働」全般について
大学,小学校,研究機関等における雇用,労働条件の劣悪な現状がよく理解できた.ただ,このような事態を生じさせてきた,貧弱な日本の教育財政・施策について,1本論説がほしかった.他の号で特集されてきたかも知れないが,こうした簡潔な論説が併読できれば,本号の訴求力がより深まったのではなかろうか. (鹿児島支部・岡田猛)
孫が大学進学をするタイミングのこの特集を目にした.大学教育の実情・問題点を知ることができ,市民読者にも有意義な特集であった. (沖縄支部・富本盛彦)
2024年10月号金井保之「理化学研究所における雇用と研究 ―使い捨てられる研究者・技術者」を読んで
科学研究は,行う前から結果がわかっているものではない.結果がわかっていたり,予想が可能であったりすれば,科学研究をする意義は大きくしぼんでしまう.どうなるか予想できないのが科学研究である. そうであるなら,時間で簡単に区切ってしまうような科学研究は本物ではないはずである.任期制は,科学研究を阻害するものである. (三重支部・菊谷秀臣)
2024年10月号川中浩史「産業技術総合研究所の雇用と人材育成 ―科学技術立国を目指すイノベーション」を読んで
産総研での取り組みは注目すべき面がいろいろある.とりわけ不安定雇用の弊害を除去するために常勤の正規職員として採用されるということだが,これは極めて大切に思われた. 研究者が研究成果を上げるためには,金・暇・自由,そして安定が求められる.ただ資金が潤っているというだけで研究成果は上がらない.今後の産総研の発展を見守りたい. (三重支部・菊谷秀臣)
2024年10月号「若手たちの沈黙 ―若手女性研究者としての経験から」を読んで
古い私たちの世代が若手研究者のころは,集まって,言いたいことを言っていましたが,だんだんタコツボ化とか言われるようになり,分断や孤立が進んできたのかと思いました.私の勤務していた条件の悪い私大で残っている若い研究者は,上のいうことにじっと耐え忍んで,生き抜いているように感じます.「おわりに」にあるように,若手研究者の方々が手を取り合って,問題解決に向っていって欲しいと思います. (岐阜支部・太田和子)
2024年6月号特集「環境アセスメントはどうあるべきか」を読んで
京都支部では毎月1回,『日本の科学者』の読書会を行なっている.7月23日実施の読書会で以下の感想が出された. 小島論文:この読書会では,p. 3 の「図1 環境影響評価法に基づく手続き」について議論がされた.準備書や評価書への説明会において,住民側から強い意見が出た場合,その意見がどのように反映されるのか,また,フィードバックの過程は描かれていないが,例えば,事業者や自治体とは異なる第三者機関に評価を委ねるようなシステムはないのかが疑問点として挙げられた.また,他の諸国でのアセスメントはどのように行われているか,世界標準のアセスメントはどのようなものかという質問があった. 桜井論文:沖縄問題への国民・研究者・メディアの関心の向け方と問題性の理解,共感的行動への不信・不満がきこえます.・上間陽子氏の(教育学者・沖縄在住・在職)「・・・この国は私たちを守らない.そしてあなたは今日も沈黙している」(京都新聞24.7.17)の記事もあるが,胸が痛いです. 夏原論文:夢洲は可燃性ガスの噴出だけでなく,地震による津波対策の不十分さなど,不特定多数の人を招くには,安全性に問題のある土地ではないか.原状回復に30年かかる事業を実施するほどの意義があるのか.環境影響だけでなく,経済性やインターネット時代における開催意義など,どこから見ても開催はおかしい.海外の環境アセスメントの事例の調査の必要がある. (京都支部・左近拓男)
2024年6月号特集論文夏原由博「2025大阪・関西万博の環境アセスメント」を読んで
著者は,万博のテーマ「いのち輝く未来社会」との対比で,会場となった夢洲の環境アセスメントの経緯と問題点について解説した.(1)大阪湾の生物環境の重要性とその軽視,(2)夢洲選定とその環境アセスメントの法律要件遵守の杜撰さ,(3)夢洲再生に向けた方策の3点について,大変分かりやすく書かれている.(1)では,大阪湾の埋立の歴史まで遡って,夢洲一帯が希少鳥類にとっていかに重要な水辺を提供していたかが述べられている.(2)では,安倍政権下で政治と経済優先で強引に万博会場が決められた経緯とそのためにアセスメントの手続きがないがしろになった様子がよく描かれている.(3)では,著者が会長を務める大阪自然環境保全協会が,独自に夢洲の生物を調査したうえで,独自の環境影響評価準備書を作成した内容が説得力を与えている.単に批判するだけでなく,環境負荷をできる限り軽減し,万博終了後の夢洲再生プランまで提案している点が好ましく感じた. (京都支部・前田耕治)
2024年4月号 藤井正希「多文化共生社会と平和主義(憲法9条)の関連性に関する研究―群馬県に住む外国人労働者を通して考える」を読んで
今後日本も移民を受け入れていく国になるべきだという方向性には賛成します.しかし,日本人に対するアンケートにもあるように,国民がそれを受け入れられる体制を作っていくのが大変だと思います.これまでのように安い労働力として使っていくという受け入れ方では問題が起こってくると思います. 海外協力に行った経験では,JICAの職員は,国際協力を通して平和貢献していくという意識を強く持っていることを感じました. (岐阜支部・太田和子)
少子高齢化,労働力問題が深刻で日本の人口が減少していることが外国人の労働力を必要としていることは事実です.そしてこの傾向はますます強まることでしょう.そうなれば,当然多文化の許容ということになります.私たちが外国人と平和な関係になるのはこれからも重要な課題です. このための9条の役割が大きいことを本論文は指摘しています.それなら9条はこういうことにどう関連しているのでしょうか.私は著者が言おうとしていることが外国人に対する尊敬の念ではないかと思われてなりません. 尊敬の念なくして,外国人の外国人労働者に対する問題点の解決はなされないでしょう. (三重支部・菊谷秀臣)
2024年3月号特集「遺伝子操作の生物学とその社会的実装」を読んで
京都支部では毎月『日本の科学者』の読書会を開催している.4月例会が4月23日に開催され6名が参加した.以下,読書会での議論の様子を紹介する. 久米鏡花氏の論文 “生物のもつ力を活用した遺伝情報の操作技術”では,遺伝子操作の基礎についてわかりやすく解説している.最近の進展で様々な手法が急速に確立してきていることが分かる.遺伝子組み換えの技術の発展の流れとゲノム編集との関連はどうなのか.今後の発展にも期待したい. 楠見健介氏の論文“植物・作物を対象とした遺伝子操作”によると,天然の場合でも突然変異は起こるが,食物となる穀物や果実でゲノム編集によってどの程度突然変異の確率が変わるか数値的・統計的な解析も欲しい.今回の話は高校生の息子に聞きながら理解しようとしたが,なかなか奥が深い.高校レベルの生物でも,ゲノムのテーマは,かなりやっているようだ. 椿真一氏の論文 “遺伝子組換え農作物の拡大の問題とオルタナティブ”では,質疑の論点として,(1)遺伝子組換えと残留農薬の危険性の区別,(2)GM食品の安全性の科学的,医学的判断と政府・消費者庁の規制の根拠の関係,(3)食品表示制度の義務表示と任意表示の基準の妥当性,の各点が提起された.参加者からは,遺伝子組換え自身が食品として直接は影響しないが,長い年月による影響は未知の部分があるという意見が出された. (坂本宏・京都支部)
私は遺伝子操作が作物に与える影響について以前より関心を持っていたが,なぜか他の課題のため永らく忘れていた.今回の特集が私にその警告を示しているように思い少し勉強した.私の専門分野から遠く理解がすすまなかったが,「図形雑学」の援助で少し前進したのでここで報告する.遺伝子操作といっても私の関心は遺伝子操作組み換え農作物だが,それが人類に与える悪い影響が意識の根底にあり漠然とした不安がいまだにつづいている.多くの報告者もこの問題を意識的に追求していてほっとした.しかし決定的な事象はいまだ登場していなく,むしろ研究が大きく変化し今では大学の卒論にも登場するといった勢いのようである.問題が顕在化してももはや食い止めることは不可能な情勢のようである.この技術はアメリカを中心に進められているが,非遺伝子組み換えトウモロコシを確保するJA全農の取り組みなどが希望を与える取り組みではと思う.また医学への取り組みも進んでいるようで難病の解決などに応用できれば少しは前向きにとらえられるように思われる.科学技術の発展が人類の幸せとどうかかわるのか,核兵器の問題と同種の課題をもたらしているように思う. (垣内伸彦・愛知支部)
2024年3月号 伊佐智子「日本における人工生殖技術(ART)の実状とその社会的意義―公平な評価の必要性と適切な少子化問題解決策」を読んで
確かに生殖補助医療は少子化対策としては有効ではないと思います.しかし,子供のできにくい夫婦が自分の子どもを持ちたい願いは強くあると思うので,経済的負担を減らすために保険適用することは賛成できます.この論文にもあるように,成功率が低いとか,先天異常が起こりやすいことは,きちんと説明する必要がありますし,そういう情報を発信していかなくてはいけないと思います.若い人たちに生殖可能期間のこととか健康に生活する大切さなどは教育していく必要はあると思います.しかし,社会のために自己実現をあきらめて子どもを産めと強制はできないでしょう.若くても結婚して子どもを育てられる経済的な基盤や制度を整えることが大切ではないかと思います. (太田和子・岐阜支部)
今後の特集について
2024年4月,川勝平太静岡県知事が辞職したことはショックでした.数年前に,リニア問題を知って以降,それまでにため続けていた関連記事を数回にわたり,リニアの工事を阻止して下さっているお礼の意味を込めて,支援の言葉を添えて同氏にお送りしたことがあります. JSAは「どうなる?リニア中央新幹線 ーその必要性,採算性,安全性を科学の目で考えるー」(2016年9月号)「リニア中央新幹線計画の中止を求める」(2022年11月号)によってリニアの非を訴えています.生命倫理感,後世への責任感のある科学者諸氏がそれぞれの専門的視野からのリニア反対論を展開して下さいました.これらに反論できる人はいないでしょう.斯界発の最新情報を結集させたこの2冊に加え,リニア新幹線建設の愚かさを再度,世に訴えて下さい.国土の自然を大破壊し,後世に適正処分不可の膨大な量の廃棄物を押し付けるという意味では不可逆的な悪をもたらす犯罪的所業で,利するのは建設関係者のみの愚策です. 完成時期の延期を余儀なくされ,今こそ,「地球保全と平和追求を旨とする科学者組織」の主張として,既刊の2冊を増刷,宣伝,販売し世に問い直し,JSAの本領を発揮して下さい. (東京支部・中嶋由美子)
2月号 スズキ・ケンジ・ステファン「デンマークにおける自然エネルギー導入への市民参加と教育」を読んで
デンマークではコペンハーゲンのCOP15の折,計画して環境関係の研修を受けさせてもらった.デンマークは,(1970年代の)オイルショック以降,問題に取り組み始め,原発という選択肢もあったが,それは危険だという意見も出て,原発のメリット,デメリットのパンフレットを作成して,国民全員に配布し10年間検討してやめたと聞いた.あわせて,風力発電の実証実験を積み重ねていった.「大事だけれど難しいというような目標を最初からあきらめるというメンタリティはデンマークにはない」というお話であった.日本のように多様な自然エネルギー源がある国ではなくて,デンマークは平らな国なので,水力発電や地熱発電はできない.冬の日照時間もすくない.それでも現在,エネルギーの7割を再エネでつくっている.デンマークにできて,日本にできないのはおかしい. (東京支部・奥田さが子)
1月号特集「発達障害の研究は今─当事者の語りを軸にして」を読んで
発達障害の症状に本人が苦しんでいるけれど,親がその事実を認めようとしない場合は,けっこうあるのではないか.明らかな特性が無くても,グレーゾーンである場合,どう対応すればいいのだろうか.学生でそういった傾向が見られる場合,対応を丁寧にするようにしているが,日々,考える機会を持つことは大事だと思った. 取りあげられていた病院の話で思ったのは,日本は病床数がやたら多いが,人口あたりの医師の数はOECDでは最低レベルらしいということである.看護師もそうだ.とりわけ人口当たりの精神病院の病床数が多いという点も,差別の構造を思わせる.人が見たくないものを見せないようにつめこんでいく.刑務所のように,つめこまれるからこそ,本人の気が滅入ってしまう.拘禁症状のせいで,かえって自立が阻害され,だからこそまた社会に復帰するのが難しくなる.言葉は悪いかもしれないけれど,収容所状態ではないか.医療現場であるからこそ,本人が何を望んでいるかを掴むことが重要で,大事な指摘だからさらっと書かないで,大事だともっと書いて欲しかった. この特集は9月号のインクルーシブ教育からつながっていると思っていて,海外の教育事情を知りたいと思った.海外の事例など,この特集の第二弾で,海外の進んでいるところ,進んでいないところを参考にしたい.日本だけなので,イメージしづらい側面があった.日本の抱える問題であることは分かるけれど,他国と比較し,どのような点が問題なのかを知りたい. (東京支部・土肥有理)
1月号特集 漆葉成彦「精神科医療機関における発達障害診療の課題―過剰診断と過小診断について」を読んで
いままで何となく捉えていた「発達障害」について歴史や分類・症状などを詳しく解説してあり興味深く読んだ.しかも,「発達障害に特有の生物学的指標が未だ見つかっておらず,定型発達と発達障害を明確に区分することは困難」ということを知り驚いた. (太田和子・岐阜支部)
1月号特集 伊田勝憲「発達障害等の排除と包摂をめぐる課題―「通常の学級」における学習面での困難に着目して」を読んで
9月号のインクルーシブ教育の特集でも,問題のある児童は特別支援学級に排除されてしまうことが問題になっていたが,色々な統計を使ってその実態を追っているところが興味深かった.しかし,本論文では推察になっていたので,困難ではあろうが,追跡調査のような形で実態調査ができると良いと思った. (太田和子・岐阜支部)
1月号特集 近藤真理子「大学における学生支援から発達障害を捉えなおす」を読んで
大学全入時代ということかもしれないが,それほどまでして大学に行かなければならないのだろうか.高校も大学も義務教育ではないはずで,勉強が嫌いなのになぜ大学へ行くのだろうか.といっても,発達障害であったら大学へ行かないのが良いと言っているわけではない.大学は何のためにあるのかを根本から問い直すことも大切ではないかと思った. (菊谷秀臣・三重支部)
私の通う大学には,多国籍の学生が多く在籍している.キャンパス内で外国籍の学生の言葉の違いや文化の違いを実感することがしばしばある.この様な時に,文化や価値観の多様性を認めていくことが重要だと感じる. 私が大学で発達障害の人と接する上でも,多様性を認めるという点では同様な心構えが必要だと思う.具体的には,相手のペースに合わせる,ある程度の間(ま)を取り,情報を理解する時間を作るよう心がけるなどである. 私は他者の不得意な部分を見るのではなく,その人が得意なことに目を向けて関わり,その人のよさを見つけることを心がけてきた.他者を否定せず認めること,相手と関わる距離感を考えて接してきた. 発達障害の人は,全てのことが苦手でできないわけではない.苦手なことをサポートして,良いところを伸ばしていくという接し方が重要である. 私自身大学での学びを通して,発達障害も一つの個性だと捉えるようになった.全てを障害というものにしてしまわず,その人の個性として認めることによって,生きやすく優しい社会になると思う. 発達障害者への配慮と多文化共生の考え方には多くの共通点があることに気付くことができた.他者とは違う部分を持つ私も,一つの個性として共生していこうと思った. (福島大・大阪)
1月号特集 奥田雅史「当事者の声から考える発達障害当事者の就業―まさし・みお・さき・ゆうじの声から」を読んで
発達障害者については,その程度がどのくらいかを考える必要があるのではないだろうか.発達障害という認識があまり広がっていなかった時には,なんとか問題を抱えながらも社会生活を送ってきた人もあったであろう.この論文でも指摘されているように,「適材適所でうまく使ってもらえると定型発達の人よりも成果をだせることも少なくない」に注目したい.発達障害をただ障害とみなすのではなく,ある面これは個性なのだととらえ,適材適所におかれるような工夫も必要かと思う. (菊谷秀臣・三重支部)
1月号特集 山田恭子「自閉症の作業療法臨床」を読んで
作業療法の大切さがよくわかる論文であった.こういうきめ細かい作業を通して人間として成長できることを願うばかりである. (菊谷秀臣・三重支部)
1月号特集 米澤好史「愛着障害と発達障害の違いと関係―愛着障害支援の立場から」を読んで
この論文で初めて愛着障害という概念を知った.論文にもあるように,発達障害との違いを見分けることが大切になるであろう.論文では,愛着障害を「関係性の障害」と「感情発達の障害」ととらえている.これは生まれつきではなく,後天的なものだという.ということは,子どもの愛着障害が環境によって形成されたことを意味する.それではこれに対してどう支援すればよいのか,それは子どもに受け入れ装置を作りながらの支援をすることであると論文は続けて述べている.これは大切な視点ではないかと思った.最後の,「傾聴」は効果がないばかりか感情混乱を引き起こすという記述が意外なことだという印象を受けた.この事について少し説明が欲しいと感じた. (菊谷秀臣・三重支部)