関係者各位
構成員の選考の基準も方法も明示されないで岸田首相が開催した会議、「国力としての防衛力を総合的 に考える有識者会議」なるものが、11月22日に自分宛つまり岸田首相宛にまるで一人芝居のような「報告書」を出した。そこでは「我が国を取り巻く厳しい安全保障環境を乗り切るために国力を総合し、あらゆる政策手段を組み合わせて対応していく」ことを前提として、インド・太平洋のパワーバランスが大き く変化し周辺国の核ミサイル能力の質・量ともの急速な増強に対応し、防衛力の抜本的強化が不可欠だ と提言した。そして防衛省のいう防衛力の抜本的強化の7つの柱として、①スタンド・オフ防衛能力、②総合ミサイル防空能力、③無人アセット防衛能力、④領域横断作戦能力、⑤指揮統制・情報関連機能、⑥機動展開能力、⑦持続性・強靭性を追認し、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有と増強を抑止力とし、継戦能力の維持を挙げ、自民党・政府の大軍拡路線を後押しした。また国全体で総合的に取り組む新たな国家安全保障戦略3文書の提起を促した。
これを受けて、政府は3文書「国家安全保障戦略(NSS)、国家防衛戦略(NDS現大綱)、防衛力整備計画(現中期防)」の策定を進め、12月9日には骨子案の全容が報道され、16日には閣議決定の予定という。その内容は、上記報告書をなぞるように国家防衛戦略(おおむね10年)で「統合防空ミサイル防衛能力」として7つの柱が位置づけられており、中期防に代わる「防衛力整備計画」は、10年後をみすえて来年度から5年間の予算規模を43兆円とするよう、すでに岸田首相が指示している。
スタンド・オフ・ミサイルとして新型国産ミサイルの12式地対艦誘導弾能力向上型(百数十キロ射程を1,000キロに改良し、地発・艦発・空発に対応)を大量生産・配備するとし、約5兆円が見積もられているが、生産・配備には時間がかかるため、米国製の巡航ミサイル「トマホーク」(1発3億円)を500発購入するという報道も見られる。
敵基地攻撃能力は「日本に対して弾道ミサイルなどによる攻撃が行われた場合、‘武力行使の三要件’に 基づき、そのような攻撃を防ぐのにやむを得ない必要最小限度の自衛の措置として相手の領域において有効な反撃をくわえることを可能とするスタンド・オフ防衛能力等を活用した自衛の能力」(『朝日新聞』 12.10)と定義されているという。
しかし、政府はこれまで、他国から攻撃を受けた時、現行憲法のもとで可能なのは専守防衛(必要最小限度の対応による反撃、自衛の措置)のみとする立場を貫いてきたはずであり、そしてこのことを自衛隊は憲法9条2項に規定する「戦力」ではないとしてきた根拠でもあった。専守防衛の範囲内と強弁しても、従来の解釈を180度転換することは明らかであり、憲法違反の敵基地攻撃能力を柱とする3文書を、国会に何ら諮ることなく閣議決定することは断じて許されるものではなく、違憲行為そのものである。
この異常な軍拡方針に対して、私たちは緊急に次のことを求める。
(1)政府解釈をくつがえし、明らかに憲法に違反する3文書の閣議決定を止めよ。
(2)国会の審議を経ず政府が専断的に軍事政策を決定することは許されない。国権の最高機関たる国会を関与させず国民の命と暮らしを左右する軍事政策を政府が専断的に決定して行く暴挙を改めよ。
(3)増税、復興特別所得税の「活用」、建設国債の発行方針は許さない。
膨れ上がる軍事予算の財源を増税や国債でまかなう方針を政府が示している。岸田首相は12月10日に防衛費増額で不足する財源を賄うため与党に増税、しかも復興特別所得税の「活用」の検討さえ指 示したことは到底許されない暴挙といえる。福島ではいまだ復興道半ばという声が渦巻いている状況で、これは棄民政策にほかならないし、納税者を欺くものである。国家予算における防衛費の異常な拡大は、医療、社会保険や教育をはじめ広く市民の暮らしを圧迫することは必然である。閣内・与党から さえも批判の声が出るや、政府は12月13日には、自衛隊の施設整備費の一部に、建設国債を活用する方針を決めたと報じられている。防衛費に建設国債を含む国債を活用しないことは政府与党の一貫した方針であり、その転換はまったく説明のつかない暴挙である
(4)戦争を招く道に必ず陥る軍事への国力の総動員は止めよ。
NATO規模と称して防衛費を5年間でGDP2%にアップし、「国力を総合しあらゆる政策手段を組み合わせて対応していく」ことは、日本の国策全体を大転換することになる。それは米国の軍事・外交・経済的要求をかなえるものであるとともに、安全保障技術すなわち軍事技術の研究開発の推進や港湾・空港・電力・エネルギー・水道・通信・金融などの公共インフラ、行政サービスを経済安保法の実施のもとで防衛力整備と整合性を持たせていく施策などに結びついており、軍事への国力の総動員は撤回せよ。
(5)琉球列島の基地建設・部隊強化、海上保安庁と自衛隊の「連携」など急激なミサイル基地化は今や戦争の導火線ともなりうる危険性があり、直ちに中止することを強く求める。
かくして大軍拡により近隣諸国に脅威を与え、国際協調主義による外交努力をかなぐり捨てた力と力の愚策となることは火を見るより明らかである。
加えて兵器の研究開発はまさに「知の暴力」である。この暴力に科学者・技術者を動員することに反対するとともに、合わせて兵器開発を推進する大軍拡政策は「いつか来た道」への回帰であり許すことができない。満身の力をこめてこの大軍拡に反対するものである。
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