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決議 科学的検証と法治主義を無視し、地方自治を踏みにじって推進される辺野古新基地建設はただちに中止されるべきである

沖縄県は2021年11月25日、防衛省沖縄防衛局が行った辺野古新基地建設にかかる公有水面埋立事業設計変更承認出願に対して、「不承認」との処分をし、通知した。この処分は、(1)公有水面埋立法所定の要件に照らして、「埋立土砂等の採取・運搬及び投入において、埋立てに関する工事の施行区域内及び周辺の状況に対応して、生活環境への悪影響、水質の悪化、有害物質の拡散、にごりの拡散、水産生物等への悪影響、粉塵・飛砂・悪臭、害虫、大気汚染、騒音、振動、植生・動物への悪影響、自然景観への悪影響、文化財天然記念物等への悪影響、交通障害等の防止その他環境保全に十分配慮した対策(埋立て工法の選定、作業機器の選定、埋立土等の運搬の手段及び経路の選定、土取場跡地の保全、その他)がとられているか」に適合しない、(2)「埋立地の護岸の構造が、例えば、少なくとも海岸護岸築造基準に適合している等、災害防止に十分配慮されているか」につき、「軟弱地盤の最深部が位置するB-27地点において」も港湾法第56条の2の2の規定に基づき国土交通省が定めた港湾の施設に関する技術上の基準の細目を定める告示に沿った力学的試験を行なっていない、等を根拠とするものであった。沖縄県のこの処分は、法に適い、科学的合理性を有する、行政として極めて当然の判断である。

辺野古新基地建設について、政府は、2015年の翁長雄志知事による埋立承認取消処分以来、一貫して、沖縄県民の民意を無視し、あるいは押し切って、科学的な根拠に基づかない、かつ最終的にいくらの費用がかかるか、またいつ完成するのかも、そもそも技術的に完成可能かさえ明らかではない埋立工事を強行している。2019年の沖縄県民投票の直後には、あえて新区画への土砂投入を強行し、民意を黙殺した。そして、沖縄県知事の行う処分に対しては、防衛省沖縄防衛局があたかも私人であるかのように、同じ内閣の一員である所管大臣に行政不服審査請求をし、大臣が知事の処分を覆すという無法な手続を繰り返してきた。さらに、2021年度補正予算に801億円もの埋立費を計上する暴挙をなし、与党の賛成で国会を通過させた。

そして、裁判所も県民の権利侵害が疑われるにもかかわらず、沖縄県を当事者とした裁判において、一貫してその内容に踏み込むことなく訴えをしりぞけ続けてきた。門前払いできないときには、2016年12月20日最高裁判決が示したように、仲井眞前知事の承認処分に「特段不合理な点があることはうかがわれない」と判断しつつ、翁長知事(当時)の判断に対する審査は敢えて回避することで「違法ではない承認を取り消した翁長知事の判断は違法である」と結論するなど、地方自治の前提を掘り崩す不当な判断さえもしてきた。

このように一連の辺野古新基地建設をめぐる沖縄県と国との法的争いの最大の特徴は、政府も、そして司法も、国と地方の紛争解決の手段を規定した地方自治法上の制度をまったく機能させることなく、ひたすら政府の主張を貫徹させようとしてきたことにある。その結果、国民・住民の権利侵害、形式的理由による判断回避が積み上げられている。ここでは特に直近の2例を批判する。

一例目は福岡高等裁判所那覇支部による沖縄県の訴えの棄却である.上記の設計変更不承認処分直後の2021年12月15日、辺野古新基地のための公有水面埋立承認処分に対する2018年8月31日の「撤回」処分に対して沖縄防衛局長が起こした行政不服審査請求に対する国土交通大臣の「取消裁決」の取消しを、沖縄県が求めた裁判において、福岡高等裁判所那覇支部は、沖縄県の原告適格を否定し、訴えそのものを却下した。この判決では、国は一般私人と異なる「固有の資格」をもつから審査請求の対象外だとする沖縄県の主張を退けて、沖縄防衛局は「私人と同等の保護を受ける権利」をもつとした、関与取消訴訟*における最高裁判決(2019年3月26日)の言い回しを用いつつ、一方で沖縄県に対しては、地方自治体には一般私人と同等に裁決取消を求める裁判を起こす権利はないという、公平さを欠き矛盾を含む判断をしている。

問題点はそれだけではない。本件裁決取消訴訟は、玉城知事が、県民に対する権利侵害への救済を求めて、沖縄県が公有水面埋立承認撤回処分に対する行政不服審査の裁決庁である国土交通大臣を相手取って、窮余の策として敢えて「公権力対公権力」の法的争いについての司法判断をあおいだものである。それに対して裁判所は淡々と原告適格を否定する判決をした。すなわち、地方自治体と国との間に法解釈の違いが発生し、地域住民に不利益が及んでいたとしても、裁判所はその権利侵害の有無およびその適否を判断しないと宣言したに等しいのがこの判決である。玉城現知事が本件訴訟の口頭弁論で意見陳述したように、本件裁判は「地方自治の理念や尊厳を守る覚悟」を問うものだった。本件訴訟の本質である、国の行為で侵害される地域住民の権利の救済に裁判所が向き合わないならば、法治主義は実現されない。裁判所は、司法権の存在意義を自己否定したにほかならない。

二例目は、2021年7月6日の埋立工事区域内のサンゴの移植許可についての最高裁判決である。本件では、大浦湾側を埋め立てるからこそ必要となるサンゴ類の移植が申請され、県は軟弱地盤の存在など大浦湾側の埋立実施が困難であるとの根拠にもとづいて移植を不許可としたのである。ところが、判決はこのことについて検討せず、ただ「沖縄防衛局は、公有水面埋立法上、本件埋立事業のうち本件軟弱区域外における埋立てに関する工事である本件護岸工事を適法に実施し得る地位を有していた」ことを根拠に、沖縄県がその許可をしないのは違法であると判断した。しかし、宇賀克也裁判官の反対意見でもそのような形式判断は「『木を見て森を見ず』の弊に陥り、特別採捕許可の制度が設けられた趣旨に反する結果を招かざるを得ない」と指摘されている。このように、辺野古新基地建設をめぐる一連の裁判は、そこで本来争われるべき沖縄県民の生活や権利、自然環境の保全、あるいはそれらを地方自治の観点から守る地方公共団体としての沖縄県の権限の所在やその行使の当否を争うものとはまったくなりえていない。そのことに対する裁判所の責任は重大である。

日本科学者会議は、自然科学、社会科学、そして人文科学の総合的な観点から、総合学術研究集会等においてこの問題を検討し、また『日本の科学者』に研究成果を掲載してきた。そして、そこで得られた知見に基づいて、第52回定期大会(2021年6月)では、決議「米軍辺野古新基地建設はあらゆる点で破綻しており、事業を即時中止すべきである」を採択した。日本科学者会議は、科学的検証と法治主義を尊重する立場から、あらためて、辺野古新基地建設工事の中止を強く政府に求め、また、行政権のチェックと国民の権利救済のために司法権を行使することを裁判所に求めるものである。

2022年2月25日
日本科学者会議幹事会

* 関与取消訴訟とは、沖縄県名護市辺野古における米軍新基地建設に伴う辺野古埋め立ての承認撤回を取り消した国土交通相の裁決は「違法な国の関与」だとして、沖縄県が訴えた訴訟を言う。