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談話

日本学術会議の法人化に向けた法整備に反対する

2025年1月17日 日本科学者会議事務局長 竹内 智

日本学術会議は、これまで一貫してアカデミーとしての独立した立場から様々な見解の表明、助言、勧告等を行ってきた。また、真理の探究による科学研究の成果が平和のために奉仕すべきものであるとの立場から、軍事研究には加担しないことを表明してきた。その日本学術会議に対して、2020年10月、菅首相(当時)が新たに推薦された会員の一部の任命を拒否した。それ以降、政府はその組織形態や運営方針について露骨な介入を続けてきている。

2023年8月に政府が設置した「日本学術会議の在り方に関する有識者懇談会」も、当初から、新会員の任命拒否という日本学術会議の独立性を大きく毀損する行為については何一つ反省することなく、日本学術会議の独立性を確保するためには、国とは別の法人格を持つ組織へと転換することが不可欠だという逆転した論理を展開した。そして、昨年12月20日付で決定した最終報告書「世界最高のナショナルアカデミーを目指して~日本学術会議の在り方に関する有識者懇談会最終報告書」で、日本学術会議法人化の方針を明確にした。これを受けてこの問題を所管する坂井学内閣府特命担当相は同日の閣議後の記者会見で、政府としてこの報告書を受け取ったことを明らかにし、「速やかに法制化の作業を進めたい」と述べた。

この報告書は、法人化に伴う組織の運営や会員選考に対する国の側からの介入強化に対する日本学術会議側からの数々の懸念に何ら答えることなく、「国による財政的支援とガバナンスへのコミットメントとはトレードオフの関係にある」との基本認識に立っている。そしてこのような認識から主務大臣が任命する委員からなる「レヴュー委員会(評価委員会)」や同じく主務大臣が任命する「監事」を通じた国による日本学術会議の運営に対する直接的な介入の仕組みの導入を目論んでいる。さらに、「少数の科学者だけが内輪の論理で独りよがりになってしまうのではないかという懸念を生じさせないため」として、産業界等からの外部の委員を含む「運営助言委員会」「選考助言委員会」の設置等を求めており、法人設置の際の新会員の選出に際しても、日本学術会議の自律的な運営を保証する役割を担っている「コ・オプテーション」方式の適用を制約する方針を示している。

今回の有識者懇談会報告書は、政府から独立したアカデミーとしての日本学術会議の性格を根本的に否定するものでしかない。日本科学者会議は、今回の有識者懇談会報告書とそれに基づく法人化に向けた法整備の動きを絶対に認めることはできない。今後広く市民及び科学者と連帯して、あらゆる個人・団体と共に日本学術会議法制化反対の運動を作っていく決意である。

法制化の発端となったのは新会員の任命拒否であった。それに反対の声を上げた全ての研究者、大学人、市民が、今まさに日本学術会議の独立性・自立性を守るため、再び立ち上がることが求められている。これは同時に、日本の民主主義と平和を守る行動でもある。戦争へ向かっていった歴史を思い起こし、法制化阻止の声を上げることを緊急に訴えるものである。