2023年1月に召集された通常国会で、政府は日本学術会議の法人化を前提として、会員の選考や会の運営に対する外部からの介入を可能とする日本学術会議法改正案の提出を図ったが、日本学術会議及び日本科学者会議を含む多くの学術団体等各方面からの反対により、最終的には断念に追い込まれた。
にもかかわらず、政府は同年8月末には内閣府に「日本学術会議の在り方に関する有識者懇談会」を設置し、その中間報告(12月21日)を受けて、翌22日に松村祥史内閣府特命担当相が「日本学術会議の法人化に向けて」なる文書を発出して、引き続き内閣府において法人化に向けた具体的な検討を進めるとの意向を表明した。
その後、同「有識者懇談会」の下に「組織・制度ワーキング・グループ」および「会員選考等ワーキング・グループ」が設けられ、2024年4月15日以降、すでに数度にわたってワーキング・グループの会合が開催されている。このような動きに対して、4月23日に日本学術会議は、第191回総会において声明『政府決定「日本学術会議の法人化に向けて(令和5年12月22日)」に対する懸念について~国民と世界に貢献するアカデミーとして~』を採択した。この声明の中で日本学術会議は、今後議論を進める際に充たされるべき条件として、(1)政府からの十分な財政的支援、(2)組織・制度面での政府からの自律性・独立性の担保、(3)高度の専門性を備えた優れた科学者を会員に選考するためのコ・オプテーション方式の維持と会員による会長の選出及び会員選考方法の日本学術会議による自律的・独立的決定の3点をあげている。
担当大臣が示している現在の政府案には、(1)会員選考に当たって外部の有識者からなる「選考助言委員会(仮称)」を置くこと、(2)会の運営の重要事項について意見を述べる「運営助言委員会(仮称)」を置き、その委員の過半数を会員・連携会員以外の者が占めるようにすること、(3)主務大臣が任命する外部の有識者で構成される「日本学術会議評価委員会(仮称)」を置き、会としての業務執行、組織及び運営等の総合的な状況について、中期的な計画の期間ごとに評価を行う、等の内容が含まれている。その内容は、日本学術会議の会員の選考においても、また会の運営においても、その自律性・独立性を大きく損なうものであることは明らかであり、日本学術会議が求めている今後の議論の前提条件とも、かけ離れたものとなっている。
そもそも日本学術会議は、科学者の戦争協力や権力者におもねる態度などへの強い反省に基づいて設立された「わが国の科学者の内外に対する代表機関」(日本学術会議法2条)であり、「わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命」とする団体である(同法前文)。学問研究は客観的真実を追求するものであり、そのためには既存の理論や所与の社会の実態等に対しても、批判的・懐疑的な立場から検討・検証を行わねばならない。それゆえ日本学術会議は、外部からの干渉を排除し、「独立して」科学に関する重要事項を審議し、その実現を図ること、及び科学に関する研究の連絡を図り、その能率を向上させることを職務として行う(同法3条)とされており、その自律性・独立性の侵害は絶対に認められない。安保三文書の改定以降、最近では殺傷兵器の共同開発、輸出条件の緩和やセキュリティ・クリアランス法の制定などにも見られるように、政府の政策は、戦争の準備を進め、科学技術の軍事利用を拡大しようとする方向にあり、政府案はその流れを後押しするものである。日本の科学の自主的・民主的発展につとめ、その普及をはかることを目的とする日本科学者会議としては、日本学術会議の存在意義を根底から否定するこのような政府案の撤回を強く求めるものである。
以上、決議する。