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声明

大阪高裁による老朽美浜原発3号機運転禁止仮処分の即時抗告棄却決定に抗議する

「超危険な老朽原発だけは止めてほしい」と切に願う福井・滋賀・京都3府県の住民7人らが美浜原発3号機の運転差し止めを求めていた仮処分事件の即時抗告審で、3月15日に大阪高等裁判所(以下、大阪高裁)第11民事部(長谷川浩二裁判長、原司裁判官、大河三奈子裁判官)は、住民らの即時抗告申立を棄却する決定(以下では「決定」)をした。

私たちは、今回の大阪高裁の決定は、次の理由により極めて不当であると判断する:

(1) 老朽化について:大阪高裁は、運転開始から40年以上経過した原発は、過酷な環境下で長期間運転されているにもかかわらず、新規制基準が定める対策に不合理な点はなく、特別点検でも原子炉容器などに欠陥や劣化は認められなかったとする関西電力の主張を鵜呑みにした。同時に、「使用されている材料等設備の高経年劣化が懸念され、膨大な機器や配管で構成される原発の老朽化による重大事故が起きる可能性を否定することはできていないとも述べている。よって「決定」は論理的な自己矛盾を犯していて、不当である。

(2) 震源が原発敷地のごく近傍にある場合の安全性について:抗告人らは、美浜原発敷地と断層との最短距離は、白木?丹生断層との間は概ね500 m、C断層との間は2 kmで本件特別考慮規定の震源が敷地に極めて近い場合に当たるのに、関電と規制委員会がそれに当たらないと判断したのは不合理であると主張した。しかし、大阪高裁決定では、浅部断層も含めた断層全体について適切な震源モデルを設定し、多角的にかつ十分な余裕を考慮して検討を行うものとし、一件記録上、上記各断層につき、地震発生時に大規模な地表変位を発生させ得る断層であることを示す的確な資料は見当たらず、相手方及び原子力規制委員会の判断に不合理な点はないと断じた。

私たちは、敷地近傍の浅部断層の地盤が硬いところで大規模な地表変位を起こす地震が発生すれば、不確実性はあるが、原子力施設に重大な損傷を起こす可能性が高いという科学データ(学術論文など)があれば、安全性を優先して住民の生命と健康を守る立場から、それは一件記録上的確な資料に相当すると考える。よって、大阪高裁の決定は不当である。

(3) 重大事故時の避難について:原発は、それ自体が住民の生命と健康に害を及ぼす危険なものであるから、重大事故が起きた場合の防災と住民の避難対策は完全なものでなければならない。IAEA(国際原子力機関)によれば、その深層防護の第1層から第5層の全てが互いに独立して有効に機能することによって、原発の安全性が確保されるとされている。日本の新規制基準では、IAEA第4層の過酷事故発生時の影響緩和対策が十分でなく、第5層の避難計画が規制の対象にされていない。

1月1日に起こった能登半島地震と津波によって、道路の陥没・亀裂・変形や山崩れや地面の隆起が発生し、住民は半島内に閉じ込められた。もし志賀原発が運転中であれば重大事故が起こり、周辺の住民は避難できず放射線被曝を受けたであろうと想定できる。抗告人らが能登半島地震を踏まえて美浜3号機重大事故時の防災・避難計画が不備であることを訴えたのは、妥当である。しかし、大阪高裁は、新規制基準に合致しているとする関電の主張をそのまま受け入れながら「抗告人らは重大事故が起こるという具体的危険性があるという疎明をしておらず、国の避難計画については不合理がない」と断定し、科学的・合理的な審議も説明もしていない。

このような決定は、新規制基準の不備を無視したもので、極めて反動的で不当である。

私たちは、上記の理由により、大阪高裁が住民らの申し立てた美浜3号機運転禁止仮処分の即時抗告を棄却するとした決定を受け入れることができず、強く抗議する。

2024年3月22日
日本科学者会議原子力問題研究委員会