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声明

能登半島地震を踏まえて全ての原発を運転停止すべきである

2024年1月1日に発生した能登半島地震(M7.6、震度7、地震動加速度最大2828ガル)と津波により、家屋の倒壊、道路の寸断・陥没、山崩れが起こり、食糧・エネルギー・上下水・通信・福利厚生・文化芸術などのインフラおよび伝統的な地場産業や漁業や里山農業などの生業が破壊された。能登半島の中で孤立した集落の住民たちは、国と自治体による支援・救助が遅れたため、生きるのに困難な生活を強いられている。私たちは、亡くなられた方々に哀悼の意を表し、被災者に心よりお見舞いを申し上げる。

また、かねてより地質学者らは能登半島で大地震が起き、地盤の隆起が起きると想定してきたが、今回実際に、原発が存在する志賀町でも4mの隆起と津波の遡上が起きた。被災状況の全容が明らかになるまでにはまだ時間がかかるだろうが、とりわけ、現在のところ志賀原発に絞って情報収集したところ、次のことが明らかにされている。

(1) 志賀原発1号機と2号機は、2011年3月の東日本大震災以降、現在に至るまで定期点検により運転停止中である。 (2) 北陸電力は、取水槽の水位が3m変動し、津波が志賀原発に及ぼした影響を調査中である。原発の敷地は海抜11mの高さにあり、さらに4mの防潮堤が設置されていたため浸水被害はなかった。また、1号機補機の防潮壁の一部に沈下と傾きが確認されたが、補修中である。 (3) 志賀原発敷地内にある外部電源変圧器から23,400リットル(ドラム缶117本相当)の絶縁油が漏れ出た。排水溝の出口付近の海面に少量の油が流出した。変圧器の故障で外部電源5回線のうち2回線が使えなくなった。 (4) 使用済み燃料プールから冷却水の一部(326リットル)がスロッシング(強い地震動による揺動)により溢れ出た。冷却ポンプが一時止まったが、再起動した。 (5) 志賀原発から30km圏以内にあるモニタリングポスト117カ所のうち18カ所で停電と通信障害のためデータ収集ができなくなった。 (6) 1号機原子炉建屋地下2階震度5強、399.3 ガル(3方向の合成)が観測された。(なお、志賀原発における最大加速度は基準地震動を超えたと言われているが、そのデータは見つからない。)

私たちは、能登半島における被害状況(上記冒頭)とマスコミ報道の志賀原発における事象(1)~(6)を踏まえると、志賀原発が放射性物質の大量放出を伴う重大事故を起こした場合、強い地震が加われば、能登半島とその周辺に住む住民は屋外避難だけではなく、屋内退避も困難になる。IAEA深層防護の第5レベルでいう緊急時避難について原子力規制委員会の新規制基準に含まれていないことは重大な欠陥であることが判明した。福井県などで重大事故時を想定した避難訓練は、全く実効性がないと考えられる。

1995年に兵庫県南部地震を起こした断層と今回の能登半島地震を起こした断層の間に位置する福井県若狭湾沿岸にも大きな断層がある。現在(2024年1月22日)、福井県にある関西電力の原発のうち5機(大飯原発3、4号機、高浜原発3、4号機、美浜原発3号機)が運転中である。また、九州電力の原発4機と四国電力の原発1機も運転中である。

今回の震源地域といわれる珠洲市にかつて、北陸、中部、関西の三つの電力会社が共同で原発の建設を計画していた「珠洲原発」は、地元住民の間で建設に対し賛否が分かれ、住民の反対運動と電力自由化による競争激化などもあり、2003年12月、3社は計画の凍結を表明した。「地震大国」の日本では原発はやめるしかない。

私たちは、日本が原子力発電から決別すべきとの立場であるが、さしあたりこれら10機の原発の運転を直ちに停止すべきであると考える。

2024年1月22日
日本科学者会議原子力問題研究委員会