抗議声明
2022年12月23日
日本科学者会議原子力問題研究委員会
運転開始から40年以上を超えて稼働している関西電力美浜原発3号機について、老朽化のリスクに加え、特に敷地近傍に活断層があるなど、地震に対する安全性に問題があるほか、避難計画にも不備があるとして、福井、滋賀、京都3府県の住民らが申し立てていた運転差し止めの仮処分について、大阪地方裁判所第1民事部(井上直哉裁判長、三宅知三郎裁判官、太田多恵裁判官)は住民らの申し立てを却下した。
住民側が、特に強く主張していた美浜原発3号機の震源敷地近傍(東側約1キロメートル)にある「白木-丹生断層」の問題で、敷地近傍とは何キロメートルかについて、関電は250メートルだと主張した。原子力規制委員会も近傍とは1キロメートルと言いながら、「白木-丹生断層」を「特別な考慮」が必要な断層とは認めていない。だが、原子力規制委員会の上記見解(近傍とは1キロ)を前提としても、同断層が敷地近傍の活断層であることは明らかである。ところが、裁判所は、新規制基準を定めるときに解釈指針を示すような明確な議論をしておらず、その距離は決まっていないとし、それよりも短い距離を想定していた議論もされていたことから、規制委員会が「震源が敷地に極めて近い場合」に該当すると判断せず、関電が同断層を「特別な考慮」が必要な活断層にあたると判断しなかったことが不合理だとは言えないとして、申立人の主張を退けた。
この判断の間違いは、裁判所が、伊方最高裁判決で示された趣旨の判断枠組みを最初に述べ、関電側が不合理な点がないことを主張・疎明する必要があると言いながら、震源敷地近傍の活断層を「特別な考慮」をしなかったことについて、関電の評価を不合理とはいえないと判示していることである。仮に新規制基準を定めた時点で明確な議論をしていなかったとしても(それ自体が不合理であるが)、その後、ほかならぬ原子力規制委員会自身によって近傍とは1キロという見解が示された以上、その見解に反することは、明らかに不合理である。完全に論理が矛盾している。
美浜原発3号機の近傍にある日本原子力発電の敦賀原発は、規制委員会ですら近傍に活断層である「浦底断層」があることを認めている。「白木-丹生断層」も同じ敦賀半島にあり、それらの平均活動間隔は3千年であるため、地質学上、決して無視できるものではない。美浜原発3号機が活断層により影響を受ける度合いは、敦賀原発と同視できるものであって、およそ科学的知見を無視したと言わざるを得ない。
避難計画の問題について、避難計画に実効性がないと主張したのに対し、そもそも深層防護の第5層の問題だけで差し止めるのはおかしいとして、東海第二原発の水戸地裁の判決に真っ向から反する決定である。1層から4層までが安全だったとしても、避難計画ができていない、もしくは実効性がなければ、具体的危険性があるから止めるべきが、深層防護の思想であり、これは世界共通の考え方である。しかし、それを否定して1層から4層までの危険性が立証されなければ、第5層だけで論じることはできないと判示している。前段否定、後段否定の考え方にまったく反した論理で、結論ありきの決定である。さらに、裁判所は「避難計画に不備があるとも認められない」と判示している。原発が密集している若狭地域で、同時多発的な原発事故を想定すれば、美浜町民が「なぜ原発のあるおおい町に避難しなければならないのか」など疑問をもっていること、また避難道路が脆弱であることや、避難する際に住民が無用な被ばくをせずに安全に避難できない計画であることなど、住民の生命が脅かされ人格権が侵害されることは明らかである。裁判所はこれらの問題をまったく検討していない。
老朽化の問題では、炉内で発生する中性子の照射によって、原子炉圧力容器が脆くなる中性子照射脆化など設備の劣化が進み、事故の恐れが飛躍的に高まることを主張したが、関電は、劣化状況を適切に把握し、改修を加えた上で新規制基準に適合とされており、高経年化に問題はないと主張。裁判所は「関電による経年劣化対策に問題はない」と判示した。ここでも、関電の主張をそのまま受け入れている。
裁判所は、規制基準の合理性、適合判断の合理性を審査しなればならない。それは形式的に審査するのではなく、実質的に国民の生命、財産と暮らしに関する問題であるから、司法は実質的に立ち入って審査しなければいけない。しかし、今回の決定は、総論ではそれを踏襲しているが、実際の内容は、ことごとく規制委員会の主張を認めた上で、関電の判断に不合理な点はないと判示している。結果、裁判所は、司法の役割を放棄していると言わざるを得ない。当委員会は、この決定に強く抗議するとともに、原子力規制委員会に、最低限、自らの見解と整合する審査を行うよう強く求めるものである。