見解・声明など | PDF

日本科学者会議は、安倍晋三元総理大臣の国葬儀強行に反対します。

― 現在の日本では、国葬は日本国憲法違反です! ―

2022年9月21日 日本科学者会議幹事会

私たち日本科学者会議は、憲法遵守の科学者運動を行う立場から、国民の皆様に、日本国憲法に基づき、国民一人ひとりの内心の自由の尊重、法の下の平等、財政民主主義の遵守のため、政府による国葬の強行に反対することを表明します。

岸田内閣は7月22日、①憲政史上最長の総理大臣在職期間、②内政・外交の業績、③国際社会からの高い評価、④選挙期間中の蛮行による逝去を理由に、本年9月27日に安倍晋三氏の国葬を行うことを閣議決定しました。しかし、安倍氏殺害の経緯とともに旧統一教会と閣僚及び多数の自民党国会議員らとの深い関係が明らかになるにつれて国葬実施に対する国民の疑念・反対が大きくなっています。そのため、政府は8月26日、国民に弔意表明を強制するものではないことを示すためとして、各府省や関係機関に弔旗掲揚や黙禱などの弔意表明を求める閣議了解は行わないことを決めました。その後9月8日の国会での岸田首相の釈明も憲法違反との指摘に対して説得力を欠いたまま、依然として国葬を強行しようとしています。

政府が、国や地方公共団体の諸機関や国民に対して、半旗掲揚や黙祷などの弔意表明を強制しようとすまいと、同調を求めようと求めまいと、政府が「国の公式行事」として参列者に弔意表明の機会を与える国葬を催すことはそれだけで、それに賛同できない人の心情を踏みにじるものです。これは憲法第19条が保障する内心の自由を侵害する行為です。法的根拠のない国費支出も財政民主主義の破壊です。

そもそも、日本には政府が特定の人物の葬儀を国の儀式として実施することを定めた法律はありません。今回、政府は、内閣府設置法を根拠に内閣には国葬を行うことを決定する権限があると主張しています。しかし、この法律は内閣府の仕事の範囲を決め、中央省庁間の役割分担を明確にするための法律です。もしも政府の言い分が通れば、政府や中央省庁は法律がなくてもなんでも決められ、どんなことでも行えることになってしまいます。1967年当時の政府は、吉田茂氏の国葬を批判の中で強行しました。しかし、その後も国葬の実施に関する法律は制定されませんでした。これは国民が国葬を行わないことを選択してきたことを意味しますし、元首相に対してであっても国葬を行うことは憲法第14条の法の下の平等などにも違反します。国民の意思を無視して国葬を強行することは、政府自身が「法の支配・法治主義」を破壊する行為であり憲法無視の蛮行です。

国葬をする理由として挙げられている各項目についても、世論は賛否両論、判断保留と大きく分かれています。安倍氏の政治と政治手法について、国民の中に多くの疑念があることも事実です。森友・加計学園疑惑、「桜を見る会」疑惑など、内閣総理大臣在任中に提起された疑惑はうやむやにされたままです。さらに、安倍氏殺害の動機は、安倍氏の政治的言動を封じることではありませんでした。無論、言論封殺は理由のいかんにかかわらず絶対に許されるものではありません。そもそも、民主主義社会においては、特定の政治家の言動に対して国民の意見が肯定と批判に分かれることは当然のことです。だからこそ、どのような政治家であれ、国として、したがって国民全体の弔意を示すための儀式を行うという考え方は、民主主義社会に適合しません。加えて、成長過程にある子どもたちに一面的な評価を植え付けてしまう危険性があり、到底許されるものではありません。

以上