5月18日、国際卓越研究大学法(国際卓越研究大学の研究及び研究成果の活用のための体制の強化に関する法律)が成立した。本法律は、学術・高等教育全体を振興するのではなく、ごく少数(6校程度)の大学の「研究及び研究成果の活用のための体制」を強化し「世界トップクラス」の大学を急造しようとする、科学技術・イノベーション政策の一環である。
国際卓越研究大学のしくみは、まず政府が科学技術・イノベーション計画と整合する「基本方針」を策定し、国際卓越研究大学を「認定」する。「認定」された国際卓越研究大学の設置者(大学ではない)に「計画」を策定させ、その進捗状況を「監視」し、ときに「援助」を行うというものである。これら一連のプロセスの随所において、文部科学大臣には総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)からの意見聴取や内閣総理大臣・財務大臣らとの協議が義務づけられている。このようなしくみにより、政権は大学に対して公然と、かつ強力に圧力をかけ、「改革」を行わせることが可能となる。
政府はこれまで、国際卓越研究大学に対して10兆円規模の大学ファンドから助成を行うと喧伝してきた。しかし、大学に対する助成は株式の運用益が一定額を超えた場合に限られるため確実ではない。一方、国際卓越研究大学に「年3%の事業成長」の目標を課すとしている。大学は「稼ぐため」に、授業料の値上げ、収入増につながらない分野の切り捨て、他大学との統合を含めた組織再編、果ては軍事研究への応募など手段を選ばなくなるだろう。政府は国際卓越研究大学となる国立大学法人には経営方針の決定や学長を選考する権限を持つ「最高意思決定機関」を置く方針である。構成員の過半数(もしくは半数)を学外者が占めるとされるこの組織が研究・教育の現場の意思を反映した経営方針を立てることができるかは心許ない。
国際卓越研究大学が始動すれば、「稼げる大学」とそうでない大学との格差、「稼げる分野」とそうでない分野との格差が拡大する。金銭的な価値基準による学問分野の選別、序列化が進行することは避けられない。また、学術研究と高等教育の機会の格差が地域間で拡大することも懸念される。さらに、「稼げる大学」となるための「ガバナンス改革」が標準とされ、自治により学問の自由を擁護するという大学の使命を果たすことはいっそう困難になるだろう。
国際卓越研究大学の認定が開始されるのは今秋以降、支援開始は早くて2024年度以降とされる。いまならまだ引き返すことは可能である。全国の大学関係者は国際卓越研究大学に与してはならない。そして、大学の研究・教育の発展を妨げてきた政策の誤りを正し、大学に対する公財政支出の増額や学術・高等教育の発展に資する政策の実現に向けた共同へと足を踏み出すべきである。