東京電力は、福島第一原発の敷地内に貯留されている放射能汚染水の海洋放出を実施するため、放出用の海底トンネル計画を進めている。政府は汚染水について「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」と約束していた。それを反故にされたかたちの福島県漁業協同組合連合会などの関係者は、海洋放出に反対の姿勢を崩していない。
2022年5月現在、事故原子炉内に放置されたままの燃料デブリの核分裂反応に伴う発熱を抑え込むために大量の冷却水が使われている。その冷却水は通常の原発冷却水と違い、直接核燃料デブリに触れた、世界中のどこの原発施設でも経験のない、危険きわまりない汚染水である。
原発周辺には複数の地下水脈がある。原子炉建屋への地下水流入および周辺への汚染水対策として、これまでにフェーシング、サブドレンからの水抜き、陸側遮水壁(凍土壁)、海側遮水壁など種々試されてきたが、依然として原発外部への汚染水流失はコントロールできていない。東京電力ホールディングスのホームページには、「複数の設備で放射性物質の濃度を低減する浄化処理を行い、リスク低減を行った上で、敷地内のタンクに保管している」とあるが、それは事実に反する。東電は原発施設の管理を全うできなくなっているのである。
処理水を希釈して海洋放出すれば問題なし、という考え方は成り立たない。ALPS(多核種除去設備)は、セシウムやストロンチウムなど62種類の放射性物質を除去できるとされているが、トリチウムを除去することはできない。それが海洋に放出されると一部はOBT(有機結合型トリチウム)となり、食物連鎖を通して海草や魚介類などに生態濃縮され、それらは食物として人の体内に取り込まれる。経産省資源エネルギー庁のホームページには、「トリチウムが放出するβ線はエネルギーが弱いため、空気中を約5mmしか進むことができず、紙1枚あればさえぎることが可能」と記載されている。このような論法が内部被爆には通用しない暴論であることは、今や世界の常識である。トリチウムを含む原発冷却水が、これまで世界中の原発から流されてきたというのは、安全だからでなく、放出しないと原発を稼働できないからなのである。
以上のように現状を認識している我々としては、福島第一原発放射能汚染水の海洋放出へ向けた工事に強く抗議するとともに、汚染水の海洋放出方針そのものに断乎として反対する。
同時に、政府の責任で、住民や漁業関係者を交えて、日本をはじめ世界の科学者の英知を集め、将来的に有望な解決策を探ることが急務であると考える。 そしてなにより、このような事故原発の汚染水処理の問題から考えても原子力発電の危険性は明らかである。私たちは日本政府に対して原子力発電そのものを止め、エネルギー政策の根本を問い直すことを強く求める。