この2年ほど「近代・近代思想の見直し」をテーマに19総学への参加を果たし、また研究会活動を続けてきている。憲法問題を含む今後の日本の政治的、思想的動向を考えるならば、科学や科学者運動の平和的、民主的な発展にとって、本委員会の研究活動とその成果の発表は、これまで以上に重要になると思われる。
テーマ:近代化(近代思想)の再検討 日 時:2011年4月23日(土)14時〜17時 報告者:望月太郎(大阪大学)、島崎 隆(一橋大学) 場 所:京都橘大学 碓井研究室(清風館3階、地下鉄東西線椥辻) 連絡先:委員長・碓井敏正 075-574-4210
テーマ:「ケイタイとウエッブ社会」 日 時:2009年11月21日(土) 13時〜17時 場 所:京大会館(京阪神宮丸太町) 報告者:中国人留学生(慶応大学院生) 北村実(早稲田大学名誉教授、JSA代表幹事) 伊藤武夫(立命館大学) ほか
依然として,上記のテーマで,年に2回報告を行っている.近年,老齢のためか委員を辞める人も出るし,現職のひとは本務がきつくなり,会の活動の日程も取りづらくなっている状況である.
そのなかで,何か活字化できるような体制へと進展するように考えている.2014年12月では,大きくは現在の成長国家(経済成長重視)の問題点,明治以来の日本近代化の歴史におけるひずみの問題,社会福祉事業と社会のゆがみの関係の問題が議論され,他方,スタップ細胞などの科学・技術の問題,断食・ 少食と健康の問題などが議論された.今回,社会問題と科学・技術・健康の問題と二分された感があるが,いずれも日本社会の近代・現代のありかたが 引き起こした社会問題であると考えられる.とくに,スタップ細胞問題の背景には,競争と評価を重視する政府の政策があり,断食・少食が注目されるのも,健康,医療,食といった社会問題があるからである.その意味で,いずれも根が深い問題であり,思想的に深く広く検討していかないと,展望が切り開かれない問題群であると思う.さらに論点をすり合わせて,煮詰めていきたいと考える.いままで提起され,議論されてきたことであるが,以上の問題群の根拠に,広く,ヨーロッパ文化と非ヨーロッパ文化との歴史的差異の問題があって,そこで経済と人権,正義などのありかたに,おのずと違いが出ているという事実がある(文化論的バイアスの問題).現代では,いわゆる多文化主義が提起する問題である.こうした点まで,問題意識が及ぶ必要があると考える.
(島崎 隆)
ここ2年ほど,上記のテーマに取り組んでいる.もちろん最終的には現代社会とそこに生きる人間のあり方を解明しようとするわけだが,そのためには,それ以前の「近代」(ヨーロッパでほぼ17世紀に成立)とは何かを解明する必要がある.現代とは,この近代化=文明開化ののちに現れたものであり,近代に発生した商品貨幣社会,市民社会,近代合理主義などを大きく継承しているが,同時に現代は,前近代的要素や反近代の非合理主義,宗教などを呼び寄せ,さらにそこで非欧米の異文化・多文化も注目されている.
こうした問題意識のなかで,11月の委員会では,三つの報告がなされた. 第一報告では,グローバル化の流れのなかで,いかにして正義の普遍的基準を形成できるのか,多文化的世界のなかで文化的バイアスがそこにどう生ずるのか,などが問題とされた.
第二報告は,最近の福島での原発事故が近代文明による「文明災」と見る梅原猛が,自然と共生する「天台本覚思想」を提起することにたいして,その内容を批判的に検討するものであった.
第三報告は,近現代の西欧と日本におけるクラブ,サロンなどの存在意義について述べ,ヨーロッパのクラブ,サロンに対応するものとして,日本の一揆,座,連などを検討するものであった.
それぞれの報告がより具体的に上記のテーマにいかに関わるのかを究明することがさらなる課題である.
(島崎 隆)
思想・文化研究委員会は,人文系の研究委員会として,長期にわたりその時々の思想的社会的テーマを対象として研究活動を展開してきた.委員が岩手から岡山まで全国的であるのも本委員会の特徴であり,東京だけでなく,京都でも研究会を開いている.
近年の活動についてみると,2008年は『日本の科学者』6月号の特集「現代日本社会の病理」に4人のメンバーが論文を寄稿した.また11月に名古屋大学で開かれた第17回総合学術研究集会では,「個性とコミュニケーション」というテーマで分科会を設定し,3名のメンバーが報告をしたが,予想を上回る参加者(延べ30人ほど)を得て,活発な討論がなされ,この種のテーマに対する関心の高さを改めて示す結果となった.この総学での成果を受けて,本年1月に開かれた東京での委員会で,「コミュニケーションとウェッブ社会」という新たな研究テーマを設定することを決定した.各人がこのテーマに基づいて研究を深め,7月には東京で研究会を開催し,11月末には京都で公開研究会を開く予定である.
ところで,これまで本研究会では節々において,研究成果を本の形で発表してきたが(最近では『道徳を問い直す』水曜社,2003年),今回もこの間の研究成果を出版に結び付ける予定で,現在,書店との調整を行っている.
委員会のメンバーは拡大傾向にあり,専門分野別に見ると哲学,歴史学,文化人類学,経済学,政治学,数学,情報学などさまざまな分野の専門家から構成されているが,心理学や社会学,それに教育学などの分野からの参加者と,大学院生を含む若い研究者の参加を募っている.今後,新たな参加者を得て,さらに活動を活性化していくつもりである. (碓井敏正)
(『日本の科学者』Vol.44 No.4(2009年4月)「科学者つうしん」<委員会コーナー>より)
思想・文化研究委員会は,現代日本社会の精神病理をテーマに本年度の第一回委員会を7月11日開催し,活動方針,研究テーマ,活動計画について相談しました.現代の思想・文化の現状について意見を交換した結果,研究テーマを「現代日本社会の精神病理」にすることにしました.
最近世間の注目を集めた事件には,あきらかに日本社会が病んでいるといわざるをえないような事件が少なくありません.九州で小学生が同級生を刺し殺すというショッキングな事件が起こりましたが,これは病んでいる日本社会を象微するような事件といってよいでしょう.
チャットに悪口を書き込まれたというだけのささいなことで,それまで親しくしていた友達を家から持参した刃物で刺し殺すという事件の背景には,何があったのでしょうか.これ以外にも,これまで想像できなかった類の事件が子供たちの世界で多発しています.これは,現代日本社会の病理がはしなくも子供たちの世界で顕在化したものといってよいでしよう.
そこで,委員会としては,状況の把握・分析,原因の解明に取り組み.解決の方向を模索したいと考え,まずケース・スタディから着手する方針です.そして,事例研究を通して,問題の核心に迫り,対策を探りだしたいと思っています.この問題を突き詰めていくと,人間形成ないし教育の問題に到達せざるをえません.
複雑多岐にわたる現代日本社会がどういう人間を積極的に育成していくのか.たんに現代日本の病理の解明とその批判にとどまるのではなく,日本社会の未来のためにいかなる人間形成を引き受けていくのか,という視点を忘れては,ならないでしょう.
この課題を達成するために,心理学.社会学,教育学を専門とする多数の会員が参加・協働して下さることを期待しています.
『道徳を問い直す−「国民の道徳」批判』を刊行
中学校の公民教科書のパイロット版として出版された西部遭著『国民の道徳』は,同じく歴史教科書のパイロット版として一足先に出版された西尾幹二著『国民の歴史』とともに,「新しい歴史教科書をつくる会」の委嘱によって執筆されたもので,そのはたす役割には軽視できないものがある,と考えて,思想・文化研究委員会として同書の批判に取り組んだ.その成果として,同書への単なる対抗ではなく,あるべき道徳の積極的な提示を主題とする著作『道徳を間い直す』を企画し,委員以外の会員の協力をえて,本年4月に上梓した.
全原稿を版元に渡したあと,先方(水曜社)の経営事情が悪化し,約1年遅延したが,何とか日の目をみることができた.なお,出版に際して,執筆者が相当部数を買い取ることになり,委員以外の執筆者の方に多大の経済的負担をおかけした.
本書の内容と執筆者は以下の通り.
第一部
国民の道徳か,世界市民の道徳か 北村実
国民の道徳から市民の道徳へ 碓井敏土
第二部
西部遭著『国民の道徳』「第3章政治について」を読む 岩間一雄
現代民主主義論からの応答 北村浩
第三部
伝統の解釈かアクチュアルな現実批判か 石井潔
現代道徳論の前提一日本近代史の経験から一 岩井思熊
日本文化とジェンダー一性伝統の操作一 川原ゆかり
自画自賛めくが,ハイレベルの論集と自負している.ご購読を切に期待する.
(定価:1600円十税,注文はTeL03−3812−1472ヘ)