「身体・死体(その一部を含む)の利用における被験者保護の論理」(身体とは全身、臓器、組織、細胞、遺伝子などを、利用とは医療用、研究用など。保存形態は、標本保存、バンクなど。)
本研究では、被験者の尊厳、権利擁護およびその保障のための理論を明確にする。尊厳や権利の具体的内容、インフォームドコンセントの具体的あり方などが研究の中心となる。
○テーマ:「生命と医の倫理を現在に問う」 ○会期:2013年3月26日(水)11:00〜18:00 ○会場:東京医科大学 総合情報棟 講義・演習室 ○日程: 3月26日(水) 11:00〜18:00 11:00〜12:00 尾崎恭一(埼玉学園大学) 「日本のハンセン病政策と光田健輔」 12:00〜13:30 研究委員会打ち合わせ会議(昼食をとりながら) *東北メディカルメガバンク市民ワークショップ *今後の活動について --20総学、声明文 13:30〜14:30 末永恵子(福島医科大学) 「『創造的復興論』批判」 14:30〜15:30 水戸部秀利(宮城厚生協会理事長) 「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針の見直し について(東北メディカル・メガバンクとの関連から)」 15:30〜16:30 黒須三惠(東京医科大学) 「臨床研究の諸問題」 16:30〜17:30 宗川吉汪(生命生物人間研究事務所) 「小保方論文に見られる近年の生命科学研究の頽廃現象」 ○主催:JSA生命と医の倫理研究委員会
「生命と医の倫理研究委員会」が主宰する標記研究会が3月29,30日,「医学研究における法的,倫理的問題」をテーマに 開催され,6報告がされた.
iPS細胞とその利用について,生物学・医学的視点から解説があり,リプログラミングの意味付けやiPS細胞作成のため に導入される発ガン遺伝子の問題などが議論となった.
「東北メディカル・メガバンク」について報告があり,被災者という援助を受ける側の心理につけ込んで,彼らから遺伝 子研究のために血液を採取するなどの問題が指摘された.マスコミに殆ど取り上げられていないので,本誌に寄稿し広 く会員がその問題性を知る機会とするために,「生命と医の倫理研究委員会」としても取組むこととなった.
上記2報告に関連して,再生医学や遺伝子研究に関する政府の研究指針について報告がされた.ヒトゲノム・遺伝子解 析研究に関する倫理指針が本年2月に改訂され,従来は他の研究施設に情報を提供する場合は連結不可能匿名化が条件 であったが,この4月から血液等の提供者の病歴などの個人情報が知り得る連結可能な匿名化となり,第三者への漏洩 などが指摘された.
臨床研究のあり方を検討する上で,過去の教訓から学ぶことは少なくない.日中戦争での731部隊関係者等の京都大学 医学部における博士論文を検証する報告があった.また,2010年に明らかとなった,米国政府機関がグラナダで戦後直 後の1940年代後半に行った梅毒等の性病に関する非人道的人体実験についての報告もなされた.米国では政府レベルで 調査が実施され既に報告書が公表されているが,わが国では関連する資料の閲覧も限られているので保存資料の全てを 公開する必要があると指摘された.
次回の研究会は例年どおり8月に開催し,これまでの成果をまとめて出版するための研究報告会として位置づけること になった.(黒須三恵)
「各種委員会が発表した見解・声明等」ページの声明文ファイルへのリンク(pdf)
本研究委員会は,昨年17総学・分科会「高齢者の医療・介護・福祉制度を考える」を保健・医療・福祉問題研究委員会と合同で開催 した.2009年8月「第6回ヒューマン・エシックス研究会」を開催し,7月に国会で十分な審議もされずに改定された「臓器の移植に関す る法律」を検討した.次のような問題が指摘された.
(1) 脳死を一般に人の死としたが,死の概念の強制にならないか.従来は,臓器提供に限って脳死を人の死とした.(2) 年齢制限を撤廃 し小児の脳死を認めたが,脳死判定は確実か.児童虐待による脳死を見逃すことはないか.また,親がわが子(児童)の臓器提供を決 めることができるのか.(3) 提供拒否の意思表示がない限り,本人の同意なく家族の意思で臓器提供可能となった.従来は,提供希望者 の意思表示が求められた.(4) 親族へ優先提供が認められたが,公平性からの逸脱ではないか.従来は,臓器提供先は医学的判断のみで 決定された.(5) これまでの脳死者からの臓器移植事例を検証して問題点を洗い出すべきである.(6) 救急医療体制は整備されているか (特に小児救急医療).(7) 移植医は率先して自身の臓器提供の意思を表明すべきではないか.などなど,難問山積である.
これらの問題を整理して,『日本の科学者』に発表すると共に,2010年7月の改定法施行までの間に厚労省の検討委員会等に問題提起 していく予定である.脳死・臓器移植は,人の死や臓器をどう考えるのかという死生観・身体観に関わる大きな課題である.生命倫理 に関心ある方の当委員会への参加と皆さんからのご意見を期待する. (黒須三惠)
15総学への取り組みなど生命倫理研究委員会
生命倫埋研究委員会は,2000年5月に初会合をもちました.当初は各省庁が作成する様々な先端医療技術に関するガイドライン案に対し,パブリック・コメント(意見書)を提示するという取り組みを主な活動内容としてきました.
2年程前からは,遺伝子解析や再生医学を利用したバイオビジネスの急激な成長による<いのちの商品化>が懸念される状況に対して,「市場の論埋」に対抗しうるグランド・セオリーをもった生命倫埋のあり方を追究しています.2004年3月には医療経済を専門とする本会会員に講演「医療の市場化は何をもたらすか一米国の現状から」をお願いし,今後は当研究委員会に委員として加わっていただき経済の観点からも研究を深めることになりました.
医療現場における臨床倫理的課題も取り組んでいます.具体的には米国を中心とする従来の生命医学倫埋に見られた,患者を「完成した自律的主体」であると前提し,白己決定や自巳責任を「押し付ける」ような行き過ぎた自律至上主義に陥る傾向に対して,「自律性能力の育成的サポート(=患者のアドボカシー)」を可能とする医療システムのあり方を探求しています.
これらの成果については,本年11月に開催される15総学で発表することにしています.初めての試みですが「医療と薬害問題研究委員会」との交流をかねた共同企画による発表を検討しています.当研究委員会の委員は関東,中部,関西,九州と各地に分散しているため共同研究に困難がありました.そこで,研究活動を促進させるため研究会を立ち上げ,研究交流を図ると共に研究成果を公表していく予定です.生命倫理研究委員会
「市場の論理」に対抗しうるグランド・セオリーを有した生命倫理の構築をめざし
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生命倫理研究委員会は、これまで各省庁が作成する様々な先端医療技術に関するガイドライン案に対して、パブリック・コメント(意見書)を提示するという取り組みを主な活動内容としてきました。しかし、新しい先端医療技術が登場するたびに、いわば「場当たり的なガイドライン作り」という形で対処するだけで良いのか?という問題意識から、去る8月26日と27日の2日間にわたって文京シビックセンターにて、研究合宿を開催しました。そこで、ヒトゲノム解析の進展に伴って生命概念そのものが揺らぎ、またそれと並行してバイオビジネス(遺伝子産業)が急激な成長を見せている中で、今後ますます生命の倫理が「市場の論理」に絡め取られ、<いのちの商品化>が進むことが予測される状況において、そのような資本の論理に翻弄された市場原理の拡大に対抗しうるグランド・セオリーをもった生命倫理のあり方を、環境問題も視野に入れつつ学問的に明らかにしていくことを、今後の委員会活動の大きな柱のひとつとして確認し、取り組みはじめています。また臨床倫理的課題としては、米国を中心とする従来の生命医学倫理に見られた、患者を「完成した自律的主体」であると前提し、自己決定や自己責任を「押し付ける」ような行き過ぎた自律至上主義に陥る傾向に対して、「自律性能力の育成的サポート(=患者のアドボカシー)」を可能とする医療システムのあり方を探求することにも取り組み始めています。これらの成果については、近い将来バイオエシックス・シンポジウム等を委員会として主催するといった形で、公開・公表していくことも検討しています。