憲法問題特別研究委員会

お知らせ

シリーズ・シンポジウム(2010年3月20日)

日本国憲法の21世紀的意義を探る その6
「今日の環境問題と『環境権』論の課題」
主催:日本科学者会議・憲法問題特別研究委員会

今日,環境問題は環境権論として,もしくは国家と国民の環境保全義務として,二大政党の改憲構想の中でも何度か取り上げられてきました. 環境権そのものは,70年代初頭の四大公害訴訟を嚆矢として主として憲法と民法の立場から主張されてきたのものですが,現在の地球温暖化によるグローバルな環境被害を前にするときより大きな視点から捉え直し,権利論として発展させることが求められています. このような問題意識からシンポジウムを行いたいと考えております.是非積極的にご参加ください.

日 時:2010年3月20日(土) 13:30〜17:00
会 場:明治大学駿河台キャンパス,リバティ・タワー 1073番教室
報告者:歌川 学氏(産業技術総合研究所・JSA公害環境問題研究委員会)
      「地球温暖化の被害・対策の課題」
     神戸秀彦氏(新潟大学,民法・環境法)
      「『その後』の『環境権』論と『今後』の帰趨 --法律学の立場から」
参加費: 無料

会員でなくても,どなたでも参加できます.(チラシ

お問い合わせは下記まで. 日本科学者会議全国事務局 Tel:03-3812-1472, fax:03-3813-2363, E-mail:mailアットマークjsa.gr.jp

最近の活動

シンポジウム「日本国憲法の21世紀的意義を探る」 (『日本の科学者』2010年6月号より)

 憲法問題特別研究委員会主催のシンポジウム「日本国憲法の21世紀的意義を探る」は第6回を迎え, 今回は「今日の環境問題と『環境権』論の課題」と題して, 2010年3月20日に明治大学駿河台キャンパスにおいて, 歌川 学氏(産業技術総合研究所),神戸秀彦氏(新潟大学) をゲストスピーカーに迎え,約20名の参加のもと,開催された.
 まず,「地球温暖化の被害・対策の課題」と題された歌川報告では, プロジェクターによる詳細なパネルとデータが示され, 現在,中国をはじめとする新興工業化国によるCO2の排出割合は増加しているものの, 排出量の約半分は先進国が占め,累積では8割が先進国に集中している事実, そしてその多くが発電所と鉄鋼など素材工場に発生源が特定している状況が示された. またこれまでに産業革命以前から地球湿度は約0.8度上昇, 今後100年で最大6.4度の上昇が見込まれるとし,再生可能エネルギーへの転換, そしてそれをミクロ社会の構想に留まらず, 総体としての持続可能な社会への構想とどうつなげていくべきかが実証的に報告された. 次の神戸報告「環境権・日本国憲法・環境判例をどうみるか」では, 権利としての環境権の意義が,憲法原理をふまえ国内法制 (環境基本法,環境影響基本法等)と国際法および国際会議における基本文書に拠りつつ, 単にそれを**救済を**とする市民法上権利に留めず, 国家,社会に義務を課す主観的公権,公的義務として実定化することの重要性が, 「予防原則」「未然防止原則」,「共同原則」,「原因者負担原則」 を共通枠組みとすることの必要性をふまえて理論的に語られた. これらの中の多くは今日リオ原則に留まらず,環境憲章として (フランス2005年の憲法改正),また国家の事前配慮義務論として(ドイツ) 立法・司法の行動原理となっていることにも留意が必要となろう.  (横田 力)

(『日本の科学者』Vol.45 No.6(2010年6月)「科学者つうしん」より)

シンポジウム「勤労の権利と雇用」(『日本の科学者』2009年12月より)

 日本科学者会議憲法問題特別研究委員会主催で,「日本国憲法の21世紀的意義を探る」と題するシンポジウムがシリーズで行われてきた.その5として「勤労の権利と雇用」のテーマで,2009年9月26日(土)に明治大学駿河台キャンパスにおいてシンポジウムが行われた.今回は,日本国憲法における勤労の権利は,どのような社会構想を前提にしているのか探ることを目的とした.そのために,勤労のなかでも雇用労働に焦点を合わせることとなった.参加者は17,8人であった.

 勤労の権利に関する憲法の規範を明らかにするという趣旨で,憲法学の北川善英氏(横浜国立大学)から「日本国憲法はどのように『労働』を捉えているか」と題する報告が行われた.まず「労働」や「労働契約」などの基本概念を確認したうえで,憲法による 労働の捉え方についてヨーロッパ諸国の憲法と日本国憲法の比較が行われた.フランス人権史を素材として,生存権と労働権・団結権とは直接的な関係はないと結論づけられた. 使用者側の営業の自由と所有権の対極に労働者側の労働権・団結権が承認されたことが強調された.1980年代を分水嶺とする現代日本における雇用労働の変容と,戦後憲法学における労働権論の展開が整理された.そこから,個人の尊重や職業選択の自由との関係で労働権論を展開することが課題として示された.

 雇用をめぐる社会の実態に関する報告として,社会哲学・現代社会論の後藤道夫氏(都留文科大学)から「雇用基準と失業補償の大幅な後退と勤労の権利」のテーマで,豊富な統計資料を使いつつ報告がなされた. 「フルタイム・期限なしで生計費を満たしつつ雇用される権利」の観念を基礎において,構造改革による雇用基準の大幅な後退の事実が多角的に指摘された. 低処遇正規男性も急増し,事実上の半奴隷制が行われていると言われた.さらに補償なし失業者が急増し,「半失業=半就業」の状態が放置されているとされた. ヨーロッパでは失業率が高いが貧困率が低いのに対して,日本では逆に失業率が低いが貧困率が高いことも指摘された.

 討論のなかで規制と自由の関係が議論になった.自由の契機を踏まえて,労働権が捉えられるべきことが言われた.また規制によって使用者の自由は制限されるが,労働者の自由は問題によって異なるが,一般的に制限されるものではないとする見解も示された.

 また現代資本主義と福祉国家の関係が論点になり,そのなかで戦争と福祉国家の関係が問題にされた.かつては総力戦に国民を動員するために,福祉国家が進展した面があった. しかし現在のグローバル資本主義では大国間の総力戦は起こらず,その意味で統治にとって福祉国家が必要とされなくなった.また国民国家が経済を統御することが困難になり,福祉国家の基盤が崩れてきた. このような状況の下で,新しい福祉国家への取り組みの必要性が指摘された. (浦田一郎)

(『日本の科学者』Vol.44 No.12(2009年12月)「科学者つうしん」より)