JSA学術情報ニュース

No.36 2002年9月3日発行

日本科学者会議学術体制部

 (TEL)03-3812-1472

            (注:このニュースではホームページを「HP」と表記しています)

1.        大学関係

1)石井衆議院議員、工藤高等教育局長を質す

 7月3日の衆議院文部科学委員会で、石井郁子衆議院議員が工藤高等教育局長に、国立大学の独立行政法人化の管理運営のモデル作りを文部科学省主導で行っているのではないかと質した。その中で、局長や大臣の知らないところで、文部科学省の人事課が法人化後の国立大学における事務組織の検討のための会合を招集しているということが明るみに出された。(石井衆議院議員HP http://ac-net.

org/dgh/kokkai/02/703-shu-monbukagaku-ishii.html

 

2)教育熱心な大学、予算を優先配分-文科省方針

 文部科学省は8日、2003年度から教育活動の改善や充実に取り組む国公私立大学を公募し、外部の委員会の選定を経て予算を優先配分する「特色ある教育活動支援プログラム」(仮称)を創設する方針を決めた。同省は、「大学の役割は研究と教育。教育で頑張っている大学も評価すべきだ」と判断した。(時事通信社8月8日付)

 

3)アドミッション・オフィス入試が21大73学部に拡大 

 国公立大の来年度入試で、アドミッション・オフィス(AO)入試を行う大学が21大学73学部に増えると、文部科学省が23日発表した。一方、大学入試センター試験で5教科以上を課すのは2学部増えて、134大学416学部で、全学部の75%に達する。(朝日新聞8月23日付)

 

4)大学院定員を1153人増 社会人の再教育などに対応

 文部科学省は29日、来年度の国立大大学院の入学定員について、社会人の再教育や専門的な職業人養成への要請が高まっていることから、自然科学系分野を中心に1153人増やすと発表した。修士・博士両課程合計で51188人となる。

 4年制大学の入学定員は150人増の97187人。秋田大や九州大など4大学の医療技術短期大学部を4年制に改組した分だけの増となった。短大は560人減の970人。

 大学の再編・統合では、2003年10月に福井大と福井医科大など10組20大学が統合する。

 米国のビジネススクールをモデルとし高度な実務能力を身に付ける専門大学院では、九州大に産業マネジメント専攻を新設。一橋大も定員を14人増員する。

 一橋大と名古屋工業大の大学院は知的財産関連の教育を行う専攻を新設。名古屋工業大は、技術系社会人を対象としたより実務的な1年コースを専攻内に設ける。

 大阪教育大は、昨年6月に発生した付属池田小での校内児童殺傷事件を受け、長期的なメンタルケアの体制を充実させるとともに、子どもの心のケアや学校の危機管理システムに関する研究を行う「学校危機メンタルサポートセンター」を設置する。(共同通信8月29日付)

 

5)私大の1割、定員70%未満 今春の新入生

 今春の新入生の数が入学定員の70%にも満たなかった四年制私立大が、過去最多の50校と全体の約10%に達したことが29日、日本私立学校振興・共済事業団の調査で分かった。

 新入生の数が入学定員を割り込む「定員割れ」私大は143校で全体の28.3%。前年度より1.9ポイント改善したが、私大をめぐる状況が依然厳しいことを示した。

 調査は、今春学生募集をしたほとんど全校に当たる4年制私立大506校と、私立短大434校を対象に実施。このうち大学は入学定員約42万人に対し、志願者は約307万人、合格者約94万人。実際の入学者は約48万人だった。志願者は2年連続の増加で、前年度より6%増加。2004年の法科大学院(ロースクール)開校などが影響して法学や経済学系の志願倍率上昇が目立った。一方、短大は入学定員約12万人に対し、志願者約20万人で、合格者は約14万人だった。入学定員を割り込んだ短大は全体の48.4%に当たる210校。前年度より36校減少した。(共同通信8月29日付)

 

2. 総合科学技術会議

1)第14回評価専門調査会が8月8日に開催される

 平成14年度に、総合科学技術会議が実施する国家的に重要な研究開発の評価について、「府省等で実施された評価方法・結果の評価について」および「府省評価にかかわらず総合科学技術会議が自ら実施する評価について」が検討された。(総合科学技術会議HP http://www8.cao.go.jp/cstp/

 

2)第20回生命倫理専門調査会の開催

 標記の調査会が「ヒト受精胚の生命の萌芽としての取扱いの在り方について」という題で8月29日に開催予定。(総合科学技術会議HP http://www8.cao.go.jp/cstp/

 

3. 独立行政法人化問題関連

独立行政法人反対首都圏ネットワーク事務局が国立大学法人法制定阻止のために全国共同行動を呼びかける

) 鮮明になった国立大学独法化の本質

 1999年、国立大学の独立行政法人化(独法化)が現実的問題として浮上して以来、その危険な内実については既に多くの具体的分析がなされてきた。ここでは、この間いっそう鮮明になった独法化の本質とその行きつく先を3点にわたって指摘する。

・危機に立つ日本資本主義延命策としての産業政策

 独法化については、「各大学の自由な個性的発展のため」などというおためごかしの根拠づけはもはや通用しない。その本質が、大学を新産業創出の場、産業競争力の飛躍的向上力付与の場として活用しようという日本資本主義の起死回生策であることは、今や明白となっている。その策を貫くものは新自由主義と言う特定の思想である。だが、この思想によって推進されているアメリカ資本主義といわゆるグローバリゼーションの実態が何であるかということは、エンロンに続いて7月21日経営破綻したワールドコムがはっきりと示している。新自由主義への批判は著名な経済学者群によっても近年急速に強まっている(例えば、神野直彦『人間回復の経済学』、J.E.スティグリッツ『世界を不幸にしたグローバリゼーションの正体』)。現実によっても、理論によっても破綻が明白になりつつある新自由主義が、小泉「構造改革」の下、大学にすがって危機を脱出し、国際競争に生き残ろうとする白昼夢、これが国立大学独法化である。その本質は、端的にいって知の商品化である。

・産官学融合=トップダウンの経営・強力な官僚統制

 独法化された大学の基本構造は、「産官学融合」という名のもとに進められるトップダウンの経営・強力な官僚統制である。

 第1に、教授会・評議会の権限を極小化することによって、教員から大学運営権が剥奪される。企業と官僚の「学外者」によるトップダウン経営が実現される。

 第2に、教員身分保障の剥奪によって、研究と教育の内発的自律的展開の可能性が奪われる。社会からの要請という名の下に、あるいはもっと露骨に利潤追求へ傾斜して、研究と教育の内容が外在的に決定される。

 第3に、組織の基本構造は、期限を切ったプロジェクト研究中心の組織の寄せ集めである。これに対応する雇用の在り方としては、教員には任期制や裁量労働(請負労働)制などが広範に導入される。職員は、少数のフルタイム労働者と大多数は柔軟雇用の非正規労働者によって構成される。そして人事考課による個々人の支配が進められる。いつでも人を雇え、首を切ることのできる経営権の自由のために、非公務員化が導入されたのである。

・比類なき官僚統制と企業的経営手法の矛盾は不可避

 中期目標-中期計画-評価-運営費交付金というシステムは、官僚統制の極みである。最初の「第1次6カ年計画」段階で、この官僚主義のシステムは、破綻しよう。官僚統制が優越すれば、「6カ年計画」の達成が至上目的となる。企業的経営が優越すれば、官僚計画は桎梏になる。

 そもそも当初から我々が批判してきたように、独行法制度自体が、公権力行使の国民サービスの機関を、その機関の特性に適合した質の高い行政サービス提供と効率的運営を可能とするものに転換するための制度設計がされていない。加えて、公権力行使機関への適用を本来企図しながら、それが挫折し、それとは無縁な研究機関、博物館、美術館などを主たる対象にしてしまった。そして、国立大学に至っては、これに「営利の精神」が無理矢理注入されたのである。もとより、「営利の精神に満たされた官僚機構」など、成り立ち得る筈がない。独行法の制度的破綻は既に約束されたようなものである。

 だが数年先の破綻が明らかとはいえ、その間に国立大学はズタズタに引き裂かれ、一時の思いつきに玩ばれ、社会の知的在処であるべき姿は一掃されてしまう。許すべからざる蛮行と愚挙である。

2) 国大協指導部の屈服と文科省の強権的綱渡り  

4.19国大協臨時総会(省略)

・国立大学法人法関連の文科省6.3案

 国立大学の独法化は、独立行政法人通則法が貫徹した国立大学法人(仮称:以下、仮称を略す)制定という形をとって行なわれる。現段階でその骨格さえ公表されていないが、6月3日開催の第2回国大協法人化特別委に提出された文科省文書「国立大学法人(仮称)に係る諸規定の概要」をみれば、その構造はおおよそ見当がつく。その内容は、「法律の書き方については、余計なことを書かないように、専門家を(国大協に)派遣して(文科省と)やっている。」(佐々木東大総長発言:5月29日、東大職員組合の交渉)などという幻想を抱かせるものでは全くない。組織業務、人事制度、目標・評価、財務会計の4つの項目で、例えば、役員の名称、数、その職務と権限、任期、学長の任命手続き・要件、学長選考委員会の事務・組織、運営協議会の事務・組織、評議会の事務・組織など組織運営の中核的事項や中期目標・中期計画・年度計画の策定・変更手続き、記載事項、あるいは国立大学評価委員会の事務、評価手続きなど、隅から隅まで法律で縛る事になっている。大学には自由度は殆どないと言ってよい。事務組織の在り方や職員の選考・任免の在り方、人事交流の在り方、職員給与の在り方、学内予算配分の在り方などが大学での検討事項として挙げられているが、職員人事などに関しては、国大協が文科省と協力して(「下請け」で、と言うのが実態を反映するであろうが)様々な指針を作成し、職員の研修と人事交流を担当しようとしており、学内配分原則でも競争的配分を基準とすることが中期目標の次元で要求されようから、実質的には、強い文科省の統制下にあることになる。

 法案のこうした構造に対して、文科省と国大協指導部は、「民営化を阻止するためにはやむを得ない」と弁明するであろう。5月17日の第1回国大協法人化特別委では、「国立大学法人法案は、最終報告に沿って、それ自身が完結した法律として準備されるべきである。」として、3.26「最終報告」がぎりぎりの最高基準とされるが、このことは経済財政諮問会議等の圧力によって、この規準さえ越えられることを予測していることを意味している。具体的には、国が設立する法人が大学を設置して経営と教学の完全な分離を行なう放送学園方式、身分継承をしない国鉄方式の新規法人方式、民営企業化への過渡的性格の法人方式(cf.郵政民営化との相似性)などが想定されよう。しかし、独法化問題に関するこの間のすべての経緯は、国大協執行部による本質批判抜きの妥協路線下で、経済産業省を筆頭とする新自由主義的「構造改革」路線に大学は常に屈服させられてきたことを示している。大学側が基本を曲げない立場を貫かない限り、「最終報告」に基づく国立大学法人法が策定される保証さえないというのが、情勢のリアルな見方であろう。

3) ますます矛盾深まる独法化準備作業(以下項目のみ抄録)

・法的根拠のない準備作業

・中期目標・中期計画の準備作業が明らかにしつつあるもの

・破綻的様相を深めるトップ30政策

・再編統合、教員養成学部の統合政策の行き詰まり

・膨大かつ不毛な実務作業

4) 国立大学法人法制定阻止闘争の構築こそ未来を切り拓く

・矛盾深まる独法化路線から離脱し、大学再生の主体を構築することが必要

・国立大学法人法そのものへの反対が機軸

・独法化準備過程に対する闘争の基本

・国立大学法人法制定阻止の闘いを全国津々浦々から

(首都圏ネット事務局7月26日HP http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/netcont01-1.html

 

4. 学術関連雑誌の特集等

『学術の動向』(日本学術会議)

02年7月号 特集/ノ-ベル賞100周年記念国際フォ-ラム「創造性とは何か」

02年8月号 特集/ナノテクノロジ-

『学術月報』(日本学術振興会)

02年7月号 特集/学術研究フォ-ラム

02年8月号 特集/ナノサイエンスの現状と将来の展望

『科学』(岩波書店)

02年8月号 特集/検証地球サミットから10年-足踏みする時間はない

02年9月号 特集/ヒト知性の脳科学はどこまで可能か

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 (本号は、主に2002年7-8月の情報を扱っています)