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22 2001年 6月 7日発行 |
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大学問題フォーラム |
日本科学者会議大学問題委員会 |
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「国立大学法人化の枠組み(検討案)」の検討
細井 克彦(大阪市立大学)
はじめに
国立大学協会・設置形態検討特別委員会専門委員会連絡会議は、去る5月7日、「国立大学法人化の枠組み(検討案)」(以下「検討案」)をまとめた。これは、国大協設置形態検討特別委員会に提案され、6月12、13日の国大協総会にかけられる原案である。一方、文部科学省の国立大学等の独立行政法人化に関する調査検討会議(以下「調査検討会議」)は、審議の最終局面を迎えており、5月中に「中間報告案」をだし、それに基づく検討を経て7〜9月にも「中間報告」を提出、多少の字句修正のうえ、2002年3月に「最終報告」とし、2002年度中に法案を作成し、国会上程、成立を図り、2003年度を移行作業期間に当て、2004年4月に独立行政法人大学を発足させようとしているといわれる。
周知のように、調査検討会議には国大協からも委員が入り、報告作成に関与しているが、今回の検討案も国大協側の重要資料となることは間違いない。しかし、検討案の作成を含め、文部科学省は調査検討会議との齟齬を来さないように国大協側と濃密な擦り合わせがなされている様子である。したがって、検討案も調査検討会議をはじめ、国立大学独立行政法人化問題をめぐる政治力学の中で読み解かれる必要がある。そもそも国大協が調査検討会議に参与することの是非も問われる状況であることは、現時点までもそうであっただけでなく、現時点でこそいっそう切実に判断を迫られるに違いない。
1.国立大学独立行政法人化問題の現段階
1)再び、民営化、地方移管論か
1999年9月に旧文部省が「国立大学の独立行政法人化の検討の方向」を国立大学学長会議に提示したのに対して、国大協会長や日本学術会議会長、国立大学理学部長会議、人文系学部長会議をはじめ大学関係団体、日本数学会などの学界並びに各種の学術団体等からの厳しい批判や慎重論が相次いだことから、それらの「調停」的打開を図るべく、2000年3月に自民党文教部会・文教制度調査会高等教育研究グループ「提言 これからの国立大学の在り方について」がだされ、独立行政法人通則法を前提としない国立大学の法人格取得への可能性に期待を持たせる状況もあったが、5月の自民党文教部会・文教制度調査会及び行政改革推進本部との擦り合わせを経た自民党政務調査会「提言 これからの国立大学の在り方について」に至って、結局、通則法を100%は適用できないとしつつもその枠組みを前提とした「国立大学法人」という名称がその実体とは無関係に既定事実のごとく一人歩きをし、文部省(現文部科学省)に調査検討会議が設置され、いわば国立大学法人=独立行政法人として制度設計に向けて急展開をはじめた。
国大協は、通則法を根拠とした独立行政法人化に反対であるとしながらも、その検討を怠るべきでないとの観点から、設置形態特別検討委員会を設置し、国立大学の法人格の取得のための条件の検討に入り、また、文部科学省の調査検討会議にも委員を送ることとし、国大協側の意見反映をもくろんだ。設置形態特別委員会は、2001年2月7日付で「国立大学の枠組みについての試案」(いわゆる「長尾試案」)を作成した。長尾試案では、国立大学の法人格の取得を目的として「国立大学法人法を独立行政法人の基本的枠組を参考にして作る」と表明している。これに対して、各大学での検討も進み、例えば「国立大学法人名古屋大学法(仮称)案」(2月16日付修正)、東京大学国立大学制度研究会報告書や「東京大学が法人格をもつとした場合に満たされるべき基本的な条件」(2月20日)、「大阪大学国立大学法人中間報告」(3月21日)などがだされている。これらのうち特に東京大学の「基本的な条件」では「東京大学の法人化を定める法律は--『独立行政法人通則法』とは異なるものでなければならない」としており、長尾試案に対抗する性格を有していた。長尾試案は文部科学省の線に沿ったものであり、各国立大学からも批判が多く不評であったことから、国大協でも長尾試案に代わるものとして設置形態検討特別委員会専門委員会連絡会議を経て、今回の検討案をだすことになったことがうかがえる。
森内閣から小泉内閣に代わったことから、国立大学の独立行政法人化問題もますます予断を許さない状況になっている。民主党はかねてから国立大学の民営化を選挙公約に掲げているが、先般の国会質問で、小泉首相に中途半端な独立行政法人化よりも国立大学を民営化してはどうかと持ちかけており、首相は民営化、地方移管も検討に値すると答弁している。これを受けて、文部科学省も民営化をもにらんだ法整備に入るという報道もなされている。この民営化、地方移管という方向は、1997年の行政改革会議による文部省ヒヤリングの段階にさかのぼるものであることはよく知られている。それでなくとも行財政改革という政治の都合で大学のあり方が根本的に変えられようとしているのに、またぞろ「『改革』のスピードで競い合う」と言明する政治家の思惑でその方向が誘導されることは許されるものではない。それにしても、文部科学省調査検討会議の議論の状況もすでに独立行政法人化をも越えた議論がなされていることに留意すべきである。
2)文部科学省調査検討会議の検討状況
文部科学省調査検討会議は、組織業務委員会、目標評価委員会、人事制度委員会、財務会計制度委員会、連絡調整委員会の5つの委員会が設けられているが、前4委員会が実質的な審議を行っているので、公開された議事要旨・資料等を手がかりに検討状況を概観しておくことにする。
組織業務委員会の最大の論点は、教学と経営の一体化という問題をめぐって激しい論争がなされたことである(第8回議事要旨2月28日等)。調査検討会議は、文部科学省が提示した教学と経営の一体という方向で設定されていたが、作業委員の提案に対して、産業界の委員を中心に教学経営分離や学外者の参加を強力に求める発言が相次いだことに発している。これを受けた「組織業務委員会の状況と作業委員の立場」(3月21日付)という文書では、「経営教学分離を強く主張する発言(それと関連する文脈で部局の問題や外部からの参画の問題を取り上げるものを含む)がかなりあったことは、調査検討会議と組織業務委員会のこれまでの経緯に照らし、とまどいを覚える」とするほどである。作業委員が提示した案が文部科学省の方向を前提にだされたことに対する意見に対するものであるが、「そうした問題の文脈に囚われないもっと広い土俵で、経営教学分離の推進の方向や民営化の方向での種々の発想を含めて自由に議論しようというのであれば、調査検討会議ではそのための準備はされていないので、最初からやり直す必要がある」としている。作業委員の運営組織・機構図案の特徴は、現行の教授会、評議会、運営諮問会議(改組)等に加えて、役員組織(法人の長=学長を中心に学外非常勤を含む執行体制)、監事を新設することとしている。また、作業委員案以外に別案として具体案のモデルも示し、それらについての作業委員の立場が提示されている。
<A案>--法人と大学を一体とし、かつ、経営と教学の意思決定プロセスを一致させるケース:<A-1案>;現行の機構に監事(=役員)を設置、学長の任務に新たに移管される経営事項を含むとする。<A-2案>;A-1案において、評議会の構成員を学外者及び学内者とする。
<B案>--法人と大学を一体としつつ、経営と教学の意思決定プロセスをある程度分離するケース:<B-1案>;A-1案の運営諮問会議に代えて、学内者・学外者で構成し、主として経営に関する重要事項を審議する運営協議会(仮称)を設置する。<B-2案>;学長体制の下に学内者・学外者で構成し、教学・経営に関する方針や大学運営の重要事項を審議する運営審議会(仮称)を置く。
<C案>--法人と大学を完全に分離させるケース:いわゆる「理事会方式」で、法人の組織として経営事項を決定する理事会を設置し、大学組織と分離する。
第9回組織業務委員会では、<A-1案>、<B-1案>が今後の議論の有力候補として検討することとしている。
目標評価委員会では、すでに3月28日に作業委員による「中期目標・中期計画のイメージ例(未定稿)」をだしており、5月16日には「『目標評価』に関する検討の方向(案)」をまとめている。まず、検討の基本的視点及び長期目標では、国の政策目標を踏まえて、各大学が長期目標を策定、公表するとし、中期目標・中期計画の設定及び中期目標の達成度等の評価は、「改革のサイクル」として位置づけることとしている。つぎに、中期目標・中期計画では、その性格を、大学の実績を評価する際の主な基準であり、運営費交付金等についての予算要求する際の基礎となったり、中期目標の達成度を評価する際の具体的要素になるとし、その期間は6年を原則とするとされている。また、その作成手続きは、A案=各大学と文部科学大臣との協議・合意、B案=各大学から提示(提案)、文部科学大臣が同意(承認)、C案=文部科学大臣の指示に先だって各大学の意見を聴く、D案=国が各大学に政策目標提示、各大学はそれに沿って経営目標提示、文部科学大臣が認可、というケースが考えられている。文部科学大臣は各大学の中期目標・中期計画を合意(同意、承認、指示、認可)するに当たり、文部科学省の評価委員会の意見を聴かなければならない。中期目標・中期計画の内容は、@中期目標の期間、A大学としての基本的な理念・目標、B大学の教育研究等の質の向上に関する目標、C業務運営の改善及び効率化に関する目標、D財務内容の改善に関する目標、Eアカウンタビリティーに関する目標、Fその他の重要目標、となっている。しかも、中期目標を実現するための数値目標や目標時期を含む具体的な内容を記載するとされている。これに関連して、「中期目標・中期計画のイメージ例」(5月16日)も提示されている。このイメージ例に関しては、大学共同利用機関の中間報告案(5月14日付)のものよりも格段に子細であり、しかも教育、研究のあり方に直接関わる内容も具体的に例示してあることに注目すべきである。評価に関しては、文部科学省に置かれる評価委員会の主体として、A案=文部科学省に独立行政法人評価委員会とは別に国立大学評価委員会を設ける、B案=文部科学省独立行政法人評価委員会に国立大学評価に関する分科会を置くとし、委員構成については、A案=社会・経済・文化等の各方面の有識者、B案=前記のような学外有識者を基本とするが、過去に評価対象となる大学に所属し、その職から離れてX年間以上経過した者、C案=学外有識者を基本とするが、評価対象である大学に現に所属する教職員又は過去に所属したことのある者、が提示されている。評価の内容・方法では、分野別の研究業績等の水準についても行う。また、評価結果は次期中期目標期間における運営費交付金等の算定に反映させるとされている。
人事制度委員会では、5月8日に「人事制度の考え方の基本(案)」をだしている。職員の身分については、公務員とするのが妥当とするも、非公務員型が妥当とする意見もあるので、今後、任免、給与、服務等の具体設計を検討する中で、最終的な結論をだすべきとしている。大学教員に関わる特例の考え方では、教育公務員特例法の考え方を踏まえた法令、大学内部規則の整備がいわれているが、個々の教員の潜在能力を発揮させるインセンティブ・システムを各法人に設ける制度上の工夫を求めている。学長の選考方法、任免手続きについては、学長は評議会での選考を経た後に文部科学大臣が任命する手続きとすべきとしているが、選考基準、選考手続き、選考過程に学内及び学外の意見を反映させることを示唆としている。役員の選考方法、任免手続きについても設置を前提に検討されている。教員の任免等については、特に流動化、多様な教員構成の実現が強調され、任期制の積極的導入がうたわれ、給与のあり方の箇所で、任期制教員の給与を別体系にすることも促している。
財務会計制度委員会からは、「財務会計制度における主な論点と検討の方向(例)」(5月11日付)がだされている。主な検討事項に付き、論点(例)と検討の方向(例)を示し、複数の選択肢から絞り込む形になっている。例えば、検討事項の運営費交付金という項では、運営費交付金の算出方法はどうするかという論点で、A案=各法人の実績等を基に、各法人毎に収入・支出額をそれぞれ積み上げて算出し、その収支差により交付金を算出する、B案=客観的な指標に基づく各法人に共通の算定方式により算出された標準的な収入・支出額に、中期計画終了後の各法人に対する評価結果を適切に反映させて収入・支出額を算出し、その収支差により交付金を算出する(標準経費方式)、C案=客観的な指標に基づく各法人に共通の算定方式により算出された標準的な収入・支出額に、中期計画終了後の各法人の評価結果を適切に反映させて、収入・収支額に標準経費方式によりがたい特定の事業等に対する所要額を加えて交付金を算出する。ほかに、運営費交付金の算出に当たって自己収入をどのように取り扱うか、中期計画終了後の各法人に対する評価結果を、運営費交付金の算出にどのように反映させるか、「自己収入により生じた剰余金」を運営費交付金の算出に反映させるか、学生納付金の取り扱いをどうするかなどが検討されている。このうち、学生納付金の取り扱いは、A案=国が全て一律に額を設定する、B案=国が全て又は一部の学生納付金の額について、一律の額、一定の幅又は上(下)限を示し、その範囲内で各法人が設定する、C案=各法人が全て自由に設定するなどとされ、運営費交付金の算出方法との関連で検討する必要があると注記されている。運営費交付金は法人の基本的な財源の一つであるが、いずれの方向を取るかで、あるいは大学の種別や規模、実績等の違いにより、算定の結果に格差が出る仕組みになっている。これは一例であるが、基本的な考え方で、各法人間における一層の競争的環境を醸成することや各法人の特性、実績等を踏まえ、それぞれの判断に基づく多様な発展を可能とすることなどということで、財政格差がつくことを容認する論理が組み込まれているゆえであろう。また、施設設備費の項では、PFIによる施設の整備も可能としてはどうかといっており、民間資金の活用も視野にいれており、企業会計基準原則の適用については、独立行政法人会計基準を参考としつつも、セグメントのあり方や運営費交付金の取り扱い等、大学の特性を踏まえた独自の会計基準を策定すべきではないかとしているのとどまる。各法人の財源という点からみると、基盤的資金においても一層競争的になり流動化し安定的確保を困難にすることは間違いないであろう。
独立行政法人に移行した場合に現行の国立学校特別会計との関係をどうするかは重大な論点である。財務会計制度委員会では、国立学校特別会計の廃止を前提とした場合、政府の既存長期借入金債務の承継先及び償還方法をどうするかを論点としている。検討の方向では、A案=関係法人に承継させ、各法人が直接債務を償還する、B案=関係法人に承継させるが、施設整備における全体の調整機能を果たす共同処理機関が償還金を取りまとめて償還する、C案=施設整備における全体の全体の調整機能を果たす共同処理機関に承継させ、同機関が関係法人からの拠出金を取りまとめて償還するとある。いづれにせよ、国立学校特別会計が抱える債務の処理方法については、新しい法人とは切り離すという考え方ではなく、関係法人への承継もしくは各法人への割り振り、運営費交付金等の措置を行うことにより債務返還を行っていくという考え方に立っている。
2.「国立大学法人の枠組み(検討案)」の内容と問題点
検討案の検討に先立って、専門委員会連絡会議の性格を明らかにしておこう。専門委員会は文部科学省調査検討会議の4つの委員会に対応する形で国大協設置形態特別委員会に設けられた委員会であり、専門委員会連絡会議はその4つの委員会の連絡調整を図るためのもので、委員は調査検討会議のメンバーのよって構成されている。したがって、検討案には調査検討会議の検討状況やその方向がかなりの程度反映されていると読み取ることができる。
検討案は、「国立大学の法人化にあたっての基本的考え方」(以下、「基本的考え方」とする)という国大協の見解を述べた部分と、T 法人の基本及び組織・業務、U 目標評価、V 人事制度、W 財務・会計、という調査検討会議での委員会構成に即した具体的な事項から成り立っている。以下で、それぞれの内容と問題点を見ていくことにする。
まず、「基本的考え方」では、「国立大学協会は、独立行政法人通則法を国立大学にそのままの形で通用することに強く反対するという従来からの一貫した姿勢を変更する必要があるとは考えない」としている。しかし同時に、「国立大学の法人化」は、「国が高等教育と学術研究における財政的責任を堅持」し、「国立大学の自主性を拡大し個性化をすすめる」ことによって、教育・研究の質を高め、知的基盤の拡大強化をもたらす契機となりうるとして、「国立大学協会としても真摯に対応すべきである」としている。このような観点から、国立大学法人化に当たっての国大協の基本的考え方として、@高等教育・学術研究に対する国の責務、とくに高等教育に対する国の財政的責任の堅持・拡大、A大学の自主性・自律性と自己責任の拡大、B社会に対する一層の説明責任と社会に対して一層開かれた大学となる必要について述べている。@では、高等教育に対する公的支出を欧米主要諸国並みに対GDP比1%程度にまで拡充することを求めており、Aでは、従来の国の行政機関の一部とされたことからくる種々の制約の見直しと大学内部の自律的かつ効率的な意思決定と執行の体制の確立を主張しており、この限りではあえて問題とすべきことはないかもしれないが、Bでは、制度上の仕組みとして学外者の大学運営への参与を構想してもよいとしており、Aとの関係性をどう理解すべきかについては、大いに議論されるべき問題である。
T 法人の基本及び組織・業務では、30項目にわたって記されており、なかでも「役員組織(役員会)」という従来の国立大学にはない機構の設置という重大な内容を含んでいる。まず、法人の意義、法人の単位(1大学1法人)、名称(国立大学法人○○大学)、設置者(国を法人としての各大学の設置者)、法人の義務(学術研究と高等教育およびそれに付随した事業、収益事業は行わない、各大学・大学院の個性化を図る)、アカウンタビリティ、法人の長=学長などが掲げられている。また、学長の選考では、その選考に当たっては外部者の意見を反映させるとし、一方「学長は国民(文部科学大臣)に対して責任を負う」としており、国民=文部科学大臣といういささか理解に苦しむレトリックが使われている。そして、法人の役員と役員組織の設置である。法人の長は、法人の役員として法人の長(学長)と監事の他、評議会が承認する副学長等を指名することとし、学外からの適任者などを加えることができるとしている。また、役員のうち監事は、法人の業務の監査に当たり、複数とし、文部科学大臣が任命するが、そのうち1名は学外者のうちから文部科学大臣が指名するとなっている。
そして、国立大学法人の管理運営の組織は、役員組織(役員会)、評議会、運営諮問会議、教授会とされ、必要に応じて部局長会議を置くことができるとされている。役員組織(役員会)は、学長、及び副学長その他学長が指名する役員(監事を除く)によって構成し、学長が統括する「法人の執行機関」である。役員組織は法人の業務について企案し執行に当たるが、運営の基本に関わる重要事項については、評議会に提案し、評議会の議を経るものとされる。つまり、評議会は役員会の審議機関という位置づけになり、現行の評議会の位置づけや性格とも異なるものとなる可能性が強い(例えば、評議会の審議事項に関し、必要に応じ役員組織が議案を提出するとしている)。教授会については「大学の基本方針に基づいて」、当該部局の教育研究の重要事項について審議する審議機関とされている。
また、中期計画と予算措置に関わって、「研究教育組織の新設・改組・廃止等については、文部科学大臣が各法人(大学)が申請する中期目標・中期計画を審査し認可することにより、予算措置を行うものとする」とし、通則法の枠組みを形を変えて容認する方向を示している(cf.目標評価)。
以上のことからでも、大学運営への学外者の参加、役員組織(役員会)の設置とその執行機関化・トップダウン化、評議会・教授会の形骸化、文部科学省の権限拡大など、学問の自由・大学の自治に関わる問題を含んでいることがわかる。
U 目標評価では、目標計画、評価、その他重要事項に分けて、25項目について検討されている。ここでも、中期目標・中期計画という通則法の枠組みのもとに、数値目標や目標時期の設定という問題や、評価結果の予算配分への反映など、大学の教育研究の根本に関わる内容が含まれている。目標計画では、各大学の長期目標の設定と重点目標の中期目標・中期計画の期間を越えての提示がいわれているものの、中期目標・中期計画(4年から6年の期間とされている)の策定では、中期目標は大学の意見を踏まえて文部科学大臣が定めるとし、その具体的計画を大学が中期計画として作成し、文部科学大臣に申請するとして、これを文部科学大臣が審査し認可するとしているから、文部科学大臣の目標・計画段階でのチェック機能を認めた内容になっている。そして、目標の全学性・計画の部局性というのもすでに調査検討会議の目標評価委員会でとられている考え方であり、目標・計画では数値目標や目標時期を具体的に記載すると織り込まれている案を踏襲している。例えば、「中期目標・中期計画のイメージ例」には、「△△学部と□□学部においては、平成○年度以降、入学時と3年進級時のTOEFLの受験を課し、3年進級時に上位半数の平均スコアが600点になるようにする」などといった具体的な数値目標が提示されているが、教育研究活動を基本任務とする大学にこのような数値目標を明示させるということであり、極めて疑問である。又、評価については、文部科学省に置く評価委員会を大学評価にふさわしい組織にすることを求め、大学評価委員会の評価に対する大学側の異議申し立てや自己点検評価の尊重を求めているが、評価結果は、次期中期目標・中期計画において運営費交付金(政策的経費)の配分に反映させるとしている。
V 人事制度については、24項目にわたって検討されているが、国家公務員型を基本としつつ、非公務員型の可能性を含め、今後の検討を経て最終結論をうるとし、任期制の積極的な導入を給与体系の整備と結び付けて提案している。職員人事の基本(ここにいう「職員」は主に教員を指している--筆者)では、国際的競争への対応がいわれ、職員の身分については、公務員型・非公務員型を含めて検討することとされている。そのうち、教員に関わる特例については、教育公務員特例法の精神の大学の内部規則化に期待をかけている。一方、教員の任期制の積極的な導入を図り、任期制ポストへの異動を促進する給与体系(任期制給与)を設け、競争的研究費の一定の割合を任期制教職員の人件費等に充当できる制度とするとしている。また、給与体系については、教職員の潜在的な能力が発揮されるように、成果・業績を反映した体系にする。教員の兼業兼職に関する規制緩和も行うとしている。
W 財務・会計については、17項目が検討されているが、競争的研究資金の拡充が強調され、基盤的研究資金の確保が後回しになりかねない論理構造や、国立学校特別会計が抱える借入債務返済など、大学の物的基盤自体を揺るがしかねない内容が含まれている。国立大学法人の財政基盤では、科学研究費をはじめとした競争的研究資金の拡充を図るとともに、基盤的な教育研究活動を維持するための基盤を形成するとしているが、後者の重要な財源である運営費交付金は政策的運営経費と外形標準的に決まる基盤的運営費交付金で構成されるとし、運営費交付金の拡充自体を求めないので、結果的には競争的、政策的な部分が比重を高めることになり、大学間格差の一層の拡大や各大学の財政基盤の流動化・不安定化を促進することになる。さらに、国立学校特別会計が抱える財政融資資金からの借入債務返済については、借入を行った附属病院を有する各国立大学法人が使途特定自己収入によって計画的に共同機関等を通じて返済するとしている。他方、財政融資資金等からの借入を行う国立大学法人共同機関の設置を検討する。ところで、法人の収入構造は、運営費交付金、設備費等の国からの財政資金と授業料や病院収入をはじめとした自己収入等を基礎とするから、膨大な借入債務を返済し、もう一方で新たな借入を抱えながら、国からの資金が大幅な拡充を望めない状況のもとで、教育研究活動を維持し活性化するとなると、いきおい自己収入等の確保に走らなければならない構造を、当初から抱え込むことにならない保障はないであろう。国立大学法人は独立採算制でないとされるものの、国立学校特別会計制度が独立採算制ではないのにそれに近い状況になっていることを踏まえるならば、同じ道を一層加速度的に進まないという保障はどこにもないであろう。「基本的考え方」では、高等教育に対する公的支出をGDP1%程度まで拡充することを求めているのであるから、その実現のための具体策と国公私立大学の全体の底上げを図る筋道をこそ提案すべきではないか。そして、その上で、会計基準の項で述べている「国立学校法人の教育研究機能の特殊性を踏まえるとともに、各法人ごとの運営形態や業務内容の違いを踏まえた弾力的な取り扱いができるように会計基準を設定する」という検討案の具体化こそが求められる。すなわち、独立行政法人とは異なる国立大学法人の財源の拡充と安定的確保の筋道を明らかにし、かつ企業会計基準とも独立行政法人会計基準とも異なる国立大学法人の会計基準の具体化こそ提案することが必要である。こうした提案をしても調査検討会議では問題にされないということであれば、国大協が参加している理由が問い直されるべきではないであろうか。
以上みてきたように、検討案は、文部科学省や調査検討会議の検討の方向、つまり独立行政法人通則法の変形に限りなくすり寄った内容になっており、大学を自死行為に向かわせるものといわざるを得ない。
3.大学問題を国民的議論の場へ
さて、小泉内閣になって国立大学の独立行政法人化問題も民営化論に傾斜しながら制度設計が進んでいるのではないかという危惧が強くなっている。国大協の関係者(専門委員会連絡会議のメンバー)も、基本理念のところでは大学に対する見識を示しており、独立行政法人化や民営化の方向では日本の大学の危機を打開し新たな発展の契機も見出せないことは大筋理解しているようであるが、具体的な検討にあっては文部科学省の線にすり寄らざるを得ない構造に巻き込まれている。専門委員会連絡会議には地方国立大学の関係者も入っておらず、検討案にその意見がどのように反映されているのかわからないが、国大協側がこれからこのような方針で調査検討会議に臨むならば、これまでもまともな議論ができない状況であったようであるが、もっと厳しい意見によって民営化に近い形態での独立行政法人化した国立大学法人なるものになるのではないかという懸念がある。
ところで、国立大学の独立行政法人化問題はひとり国立大学の問題ではないことはいうまでもない。すでに公立大学も射程に入っているし、私立大学も再編を迫られる。また、国立大学が民営化した場合、現在の私立大学の相当数が倒産するのではないかという試算も現実味を帯びてくる状況であり、地方財政難にあえぐ公立大学も巻き込まれることは必至であろう。日本の大学全体が、高等教育と学術研究の全体が、大きな転換期を迎えていることは疑いない。このような状況において、文部科学省と国大協関係の一部の委員の間で、この重大問題を議論するという構図自体が基本的にただされなければならないであろう。もとより調査検討会議には私立大学や公立大学の関係者もいるが、そもそも調査検討会議の委員の代表性が問われるものの、今はそのことが問題ではない。国立大学の独立行政法人化すら、文部科学省の手に余る問題になっているのに、なぜ、国民的な議論に戻さないのか、ということである。周知のように、現在の「改革」が「この国のかたち」をつくるためのものであり、そのための「大学づくり」である。大学のあり方は、社会のあり方に深く関係しており、むしろそのあり方を決めるほどの問題である。そうであるならば、もう一度、大学の原点に立ち戻って、国民的な議論を重ねる他はないであろう。
※ 本稿を書いた後に、6月1日付で国大協理事会文書として、設置形態特別委員会「国立大学の法人化についての要旨」がだされ、また6月1日付の日本経済新聞には、文部科学省の国立大学の業務一部民営化案が報道されている。