放射性微粒子は目に見えない.原発サイトから風船を飛ばして,その風船を発見した人からの発見時間・場所の報告を受けることで,放射性微粒子の動きを可視化しようという「風船プロジェクト」の試みがある.本論文では,風船と放射性微粒子の飛び方を科学の目で観て,それらの違いと類似性を検討する.そのうえで「風船プロジェクト」の意義を論じる.
この論文は,『日本の科学者』誌の2014年2月号に掲載された論文の増補版である.『日本の科学者』誌上の論文では,「風船プロジェクト」で風船飛ばしが行われた冬(2012年12月8日)と春(2013年4月14日)の風の3次元データを使い,風船と放射性微粒子の飛ぶ軌跡を数値シミュレーションし比較した.風船は地上から飛ばされるが,放射性微粒子の初期高度は500 メートルとした.この初期高度は,2011年3月14日の福島第一原発3号機の爆発によって放射性微粒子を含む粉じんが巻き上げられた高度を参考にしている.前論文は,これらのデータによる解析を基にしたものである.
その後,夏(2013年7月28日)と秋(2013年10月27日)にも「風船プロジェクト」の風船飛ばしが行われた.そして,チェルノブイリ原発事故では爆発威力のより大きな水蒸気爆発により,放射性微粒子を含む粉じんは数千メートルまで上昇したことも分かってきた.
この論文では,冬・春・夏・秋の4回の「風船プロジェクト」の風船飛ばしの行われた日の風の3次元データを使い,風船と放射性微粒子の飛ぶ軌跡を数値シミュレーションし,その結果を解析する.その際,爆発威力の違いによる放射性微粒子の初期高度の違い調べるために,500 メートルおよび3000メートルの初期高度を考慮した.
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