2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震に伴う東京電力(株)福島第一原発の事故を契機に、原発の稼働の是非が世界中で大きな関心事になっている。ヨーロッパではドイツが2022年までに国内にある17基の原発をすべて停止することを決定し,イタリアでは原発再開計画が凍結され、スイスでは2034 年までに原発を全廃する方針となっている.隣国の韓国では2017年6月19日に文在寅大統領が脱原発,脱火力発電というエネルギー政策の大転換を発表した.また,日本の支援を受けていたベトナムが2016年11月22日に原発計画の白紙化を決定した.
日本では,このような脱原発の流れに明らかに逆行して原発再稼働,原発輸出の動きが強まっている.高浜3,4号機,美浜3号機,川内1,2号機が2017年5月24日現在再稼働しており,同年12月27日には福島第一原発と同じBWR方式の東京電力(株)柏崎刈羽原発6,7号機が原子力規制員会により原子炉設置変更許可を受けている.
中部電力(株)は浜岡原発の「合格証」を貰うために審査会合を重ねている.浜岡原発の敷地内を複数の断層が横断しており,これをH断層系と総称している.原子力発電所の立地に重大な影響を及ぼすH断層系は,1981年の「3号機補正申請書」にH-1~H-3の3本が記載されてから「4号機補正申請書」にH-4,2012年にはH-5,2014年のプレスリリースでH-6~H-9と本数を増やしてきた.今後も新たに報告されると考えられるが,最初の記載から2014年のプレスリリースまで35年もかかっている.中部電力がH断層系の実態解明に如何に消極的であったかがその年数から知られる.
2017年2月に「第443回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合」(原子力規制員会)が持たれ, H断層系を含む浜岡原発の敷地の地質・地質構造が審査された.提出資料はH断層系に関する中部電力の集大成と考えられるが「相良層が未固結・半固結の時に海底地すべりで生じたものであり更新世以降の活動はない」という従来と同じ結論先にありきのものであった.そこで本稿では,中部電力の主張するH断層系の規模,形成要因,形成時期を紹介し,次にその主張を検討・批判し,総合することにより,中部電力の主張とは異なる形成要因を提示し,更には形成時期として海進と海退を繰り返した後期更新世以降の可能性を示す.
本稿は,電力会社と国との間で行われている審査会合資料に対して,「外野」から物申す格好になっている.浜岡原発のH断層系に関する中部電力の主張の不自然さを多くの科学者会議の会員,国民の皆様に知って頂きたい.
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