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ウクライナの「チェルノブイリ法」

旧ソ連のチェルノブイリ原発事故から31年,福島第1原発事故から6年以上が経過した。ともにその過酷事故の被災状況をいまなお克服できないままでいる。

 旧ソ連では,ソ連邦,ウクライナ,ベラルーシ,ロシアのそれぞれがいわゆる「チェルノブイリ法」を定め,その被災者の救援や汚染区域の管理に取り組んでいるが,その内容については我が国では全体像が必ずしも明らかにされてこなかった。

 それでもこの問題に正面から取り組んだ貴重な業績はある。すなわち,それらは,ロシアの被災地の状況を伝える尾松亮の『3.11とチェルノブイリ法』(東洋書店)と「チェルノブイリ法」(被災市民の社会的保護に関する法律;竹森による簡略表現)についての小森田秋夫による翻訳(http://ruseel.world.coocan.jp/Chernobyllaw.htm)である。また,ウクライナについては,馬場朝子・尾松亮『原発事故 国家はどう責任を負ったか ウクライナとチェルノブイリ法』(東洋書店新社)がある。いずれも貴重かつ有益な情報を提供するものである。

 これらに加えて,現段階での「チェルノブイリ法」の全訳がいかほどの意義を有するかは心もとないが,福島原発事故とその被災者の暮らしと権利を考える上で多少の意味があるのではなかろうかと考え,ウクライナとベラルーシ,それにソ連のそれぞれについて「チェルノブイリ法」の訳出作業を行ってきた。原発被災者の被曝問題に取り組んでいる知人の「要請」もあった(私の対応はあまりに緩慢であったが)。「チェルノブイリ法」といわれるものは,「被災市民の社会的保護に関する法律」,「放射能汚染区域の法的規制に関する法律」を中心に,関連する政府決定などを含む総体を指す(3カ国でほぼ共通する形式になっている)が,私の作業は,現在のところ,以下の2点に限ったものになっている。
1. チェルノブイリ大惨事による放射能汚染区域の法的規制に関する法律
2. チェルノブイリ大惨事の被災市民の地位および社会的保護に関する法律

 ウクライナの「チェルノブイリ法」に関する今回の公表を経て,なにがしかの意味があれば,続いてベラルーシの「チェルノブイリ法」の全訳も紹介したいと考えている。

 ただし,法律の制定以降,幾多の改正がなされており,現在のところ,最初のもののテキストと最新のもののテキストが全て入手できている状況にはないため,使用したテキストは,ウクライナについていえば,「被災市民の地位および社会的保護についての法律」は2010年段階,「放射能汚染区域の法的規制に関する法律」は1991年段階のものと,ばらつきがある。ベラルーシについても同じ事情がある。こうした点を含んで,テキストを読んでいただければ幸いである。それぞれについて,最初のテキスト,最新のテキストの入手に心がけ,情報を提供できるよう努めたいと思う。

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