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『原子力発電所からの放射性廃棄物の地層処分をめぐる諸問題』


 2011年3.11の東京電力福島第一原子力発電所事故(福島原発事故)以来,原子力発電(原発)の是非が活発に議論されている.日本の電力はこれまで30%も原発に依存してきたけれども,今後は原発が次々に新設されるようなことはないだろう.
 だがしかし,今すぐに原発をやめたとしても,これまでに蓄積された使用済み核燃料とそこからでる高レベル放射性廃棄物は2010年12月末現在,総重量0.5トンのガラス固化体に換算して2万4100本にも上るという(楠戸,2012).これらは放射性崩壊による発熱が減るまでの30~50年間,地上で冷却しながら貯蔵され,その後,地下数百メートル以深のなるべく安定した地下に埋設(地層処分)される手はずだが,2013年8月,地層処分候補地はまだ一つも決まっていない.
 地層処分された高レベル放射性廃棄物の放射能がウラン鉱石なみにまで下がるのには数万年ないし10万年もかかる.この年数は人類史全体に匹敵する長さである.このような長期間にわたる放射性廃棄物の安全な管理が日本において,はたして可能であろうか?
 原発から発生する放射性廃棄物の処分問題は,問題の重大性にもかかわらず,世の関心が不相応に低すぎる.そのような危惧から,一地学者である筆者は,より多くの人びとの注意を喚起するため,これまで機会あるごとに地層処分の問題点について発言してきた.本稿は,2013年度京都支部で新たに発足した研究会の一つ「自然科学懇談会」での筆者の報告を骨子に,必要と思われる若干の情報を付け加えて作成したものである.
 ここではまず,原発から出る放射性廃棄物の再処理と処分方法について紹介し,とくに高レベル廃棄物の地層処分が,日本の地学的条件下では困難であることを論じた.またこれまでの地層処分の研究体制および研究内容そのものの問題点を指摘し,最後に放射性廃棄物をめぐって,今後,生起すると思われる課題にも触れた.原子核が専門でないため,問題の理解不足や思い違いがあるかもしれない.それらの欠陥については,識者の叱正をお願いしたい.
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