『東日本大震災と原発事故』まえがき
本報告書は、2013年5月26日のJSA第44回全国定期大会に提出されたものである。2011年5月29日の第42回大会で東日本大震災問題特別研究委員会の設置が決定された。以後この2年間の研究を委員以外の会員の研究をも包含して報告書としてまとめた。
中心テーマは地震・津波・原発災害の複合的な事象の調査分析と日本社会再建の在り方である。研究においてはJSAに相応しく、総合性と日本国憲法の基軸である平和的生存権保障の視点が重視された。
「3.11」の2年3カ月後の現在、事態は依然としてその広がりと深さが確定できないほど甚大である。政府の「収束宣言」は事態の過小評価であり棄民政策宣言であると言わざるを得ない。
しかし、この間の市民運動と独立系科学者の尽力は原子力規制委員会の新安全性基準やドイツをはじめ各国の脱原発政策に影響を与えた。無論「新安全性基準」は再稼働のための選別基準と言えるほどの不備を持っているのであるから、残された課題も大きい。これは重要な論点である。
本報告書で明らかにした主要な諸点は次のとおりである。
第一に、原発災害の直接的要因を地震動としそれに連動した巨大津波を重視している。国会事故調査以外の各種調査報告書は津波説を採っている。事故原因の確定には今後の事実認定を待たねばならないが、「規制基準」に直結するし、損害賠償責任に関わる重要な論点であり続けている。
第二に、原子力利益共同体(いわゆる原子力ムラ)について日本のみでなく国際的な構造的関連を説いている。
特に国際的関連は歴史的にも内部被曝問題を抱え、原子力の「平和利用」と軍事利用の表裏一体性を明示するだけに、核廃絶・脱原発・護憲の国内外での運動上の位置づけに係る論点として大きく浮上している。
第三に、復旧・復興において地域の生業、とりわけ農林漁業の被災者に寄り添う施策が大企業優遇の施策との対抗として強調されている。それは財政的措置については言うまでもなく、エネルギー政策の転換を基調とする自治体や地域の金融機関等、諸産業との連携による「原状回復・地域再建」の論点である。この点では特に被災地の復興支援センターとの協同が重要であり、国民運動においてはソーシャル・ネットワークの役割が大きい。
本報告はしかし、総合性という点では不十分さを残している。総合性は依然として重視すべきであるが、総合化は上から行うべきものではない。個別研究が個別研究に留まらずにその中から総合性に向かう芽をどれだけ意識的に育むか。この点を踏まえ、大会の承認を得て特別研究委員会を個別課題の研究委員会に再編することとした。一定の段階で総合化を図りたい。
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