『自然エネルギー元年』まえがき
JSA e マガジン編集委員会
日なたぼっこをしながら本を読む.至福の時である.私たちは太陽の恵みを技術で受けとめ,食料と燃料を得てきた.例えば,第二次大戦中に考案した稲作での保温折衷苗代技術は,播種後の苗床に油紙を被覆することで早期育苗を可能にして田植を早め,飛躍的な食糧増産に貢献した.ビニルフィルムでの土壌表面被覆栽培,トンネル栽培,ハウス栽培は太陽エネルギーの取り込み技術であり,種芋の地下貯蔵は低温障害を生じるサツマイモなどの越冬に役立つ,地中熱利用技術である.
2011年3月11日の東京電力福島第一原発事故以降,「太陽」「地球」「月」に由来するさまざまな自然エネルギー活用技術があらためて見直され,スマートグリッド,自然エネルギー,電力の自由化,エネルギーの地産地消などの言葉を日常的に耳にするようになってきた.このような自然エネルギーに注目して,『日本の科学者』2012年1月号は「自然エネルギー元年」を特集した.本書は,それをマガジン化したしたものである.
自然エネルギーの英語表記は,renewable energyである.renewable energyは,もともと「更新可能エネルギー」の意味であるが,日本では「再生可能エネルギー」と訳され,それが定着化してきた.再生可能エネルギー(renewable energy)は「自然が再生しているエネルギー」(第Ⅰ章参照)の意味で受け取るべきであるが,資源のリサイクル(再生利用)と同じように,エネルギーも繰り返し再生利用できるイメージを与えてしまう.自然エネルギーもnatural energyの英語表記にすると人工に対する天然のエネルギーの意味になり,化石燃料も含まれかねない.以上のことを勘案して,本書では「自然が日々再生している更新可能エネルギー」の意味で「自然エネルギー」の概念を用いることにした.
本書の構成は,以下のとおりである.
Ⅰ 自然エネルギー社会への転換の重要性と可能性
Ⅱ 原発縮小化の省エネ・自然エネルギー普及シナリオ
Ⅲ 自然エネルギーに関する先進自治体の取り組み
Ⅳ 日本周辺海域における風力と潮流力エネルギーの利用の可能性
Ⅴ 地熱エネルギー開発利用の可能性と課題
Ⅵ 「新段階」に入った世界の自然エネルギー開発
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