教育基本法「改正」に反対し、その廃案を求める
安部晋三首相は去る9月29日の所信表明演説で、教育改革を最重要課題の一つとして位置づけ、継続審議となっている教育基本法「改正」案の早期成立を目指すとした。この「改正」に関しては、教育関係者、関連学会等において反対声明が出され、また多くの自治体で慎重審議の決議がなされている。
戦前の国家が国民の精神や教育内容を統制し、侵略戦争に国民を動員し、日本とアジアの人々に計りしれない損害を与えた。教育は、「人格の完成」という教育本来の目的達成のために行われるべきであって、国家が政策目的実現のため教育を利用し統制することがあってはならない。現行教育基本法の前文で、日本国憲法に示された「民主的で文化的国家の建設」と「世界平和と人類の福祉への貢献」という理想の実現は、「根本において教育の力にまつべきもの」と教育のあり方を示している。
この「改正」案では、「教育の目的」の第2条において、教育目標を具体的内容の5項目にわたって「態度」として掲げている。これらの項目は、学習指導要領の道徳の項目に対応して、「道徳心」、「国を愛すること」、「伝統と文化の尊重」など内心に関わる項目を「態度」として、国民各人に備えさせるという重大な内容を含んでいる。この法案が成立すれば、「態度」を養うことを名目に、国旗の掲揚や、国歌斉唱、各種国家の行事等への参加が強制させられるおそれがある。第7条では、大学の規定が盛り込まれ、大学における研究成果を社会に提供することを目的とされており、これにより大学における教育研究が変質し、学問の自由、調和のある学術の発展が阻害される恐れがある。また現行法10条の「教育が不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接責任を負って行われるべきもの」を「この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきもの」に変え、国家による教育の権力的統制を正当化するものにしている。第16条2項では、教育に関する総合的な施策の策定・実施権限を国に与えることにより、「教育振興基本計画」が作られ、全面的な政府による介入が進むことになる。このように今回の「改正」案は、現行法が掲げる教育の理念や目的とまったく異なる法案といわざるを得ない。
現在さまざまな教育問題が指摘されている。これらの問題が生じたのは、政府が教育基本法の精神を踏みにじり、その実現のための各種の教育条件整備を行ってこなかったのが原因ではないのか。今教育には、教育基本法の「改正」でなく、教育基本法にのっとった教育の実現こそが強く求められている。「改正」案の問題点を徹底的に明らかにして、廃案にすることを求めるものである。
2006年10月21日
日本科学者会議神奈川支部幹事会