第28回原子力発電問題全国シンポジウム・アピール
日本における原子力の研究・開発50年にあたり、原子力政策の全面的再検討と転換を求める
私たちは9月10、11日の2日間、第28回原子力発電問題シンポジウム「転換期を迎える原子力発電と石川県の40年―志賀原発、珠洲原発、地震と老朽化」を開催した。石川県では、1967年の北陸電力の志賀原子力発電所建設計画発表以来、志賀、珠洲原子力発電所と続く建設計画に対する反対運動が約40年にわたって展開された。石川県、志賀町、珠洲市は電力会社の構想を支持し、強圧と懐柔をくり返して住民を分断し、住民に強要して原子力発電建設を推進した。これに対して地域の人々の活動は、自らのそこに生きる権利を守るものであり、地域の民主主義の確立のための活動であった。地域の民主主義を問い、地域の将来を決定するための「住民投票」や「3分の2多数決」を提起したことを、改めてここに確認する必要がある。
一昨年12月、国の大規模原子力発電所基地として構想されていた能登地方について、北陸、関西、中部の三電力会社は、珠洲市における原子力発電所の建設を自ら断念し、撤収することを発表した。このことは、原子力発電が転換点に直面していることを端的に示している。
日本における原子力の研究・開発の開始以来、50年を経過し、今や日本の原子力発電は、今大きな転換点を迎えていると私たちは考えている。
第1にあげるべき点は、今回のシンポジウムで取り上げた地震の問題である。現在の原子力発電所の耐震設計基準では不十分であることが、すでに多くの人々から指摘がされていたが、本年8月2日の宮城沖地震において、女川原子力発電所で耐震基準の最大想定を超える地震動が観測されたことは、そのことを実証した。
日本の原子力発電所が次々と建設されてきた50年と対比して、阪神・淡路大地震以後の10年は大地震が続き、日本は地震の活動期に入ったといわれる今日、原子力発電所の耐震性について、全面的な再検討が必要である。大地震による津波の影響についても、真剣に検討されるべきである。最近の研究では、東海、東南海、南海地震が同時に起き、巨大地震になる可能性があることが指摘されている。
原子力発電所の「老朽化」問題も差し迫った課題となってきた。1970年代に建設された原子力発電所は、次々と運転歴30年を超えつつある。新しい立地点の確保困難に加えて、経費節減を背景に、政府はいわゆる「高経年化対策」によって、「老朽原発」をさらに長期に運転することを考えている。これには大きな危険性が潜んでいるといわなければならない。
石川県における、志賀や珠洲原子力発電所建設の反対運動にみられるように、原子力発電所のための新しい土地を取得することは、極めて困難になっている。三電力会社が珠洲原子力発電所の建設断念にあたって明らかにしたように、電力需要の増大を予測して次々と建設してきた電源施設が、電力需要が停滞するなかで「過剰」施設となっている。その上、電力需要は停滞し、数値上は10年以上にわたって新しい電源施設の建設が必要のないほどの「過剰」な状況になっている。電力自由化の問題も原子力発電を直撃している。他の種類の電源と比較して、電源立地に多くの時間と経費を必要とし、原子力発電の新しい建設は決して有利でなくなっている。このような状況の中で、電力会社は発電コスト削減を強めており、これが原子力発電の安全リスクを
高め、事故・トラブルの多発に結びついている。
さらに、原子力発電のあり方やその安全性に責任をもつ行政と制度のあり方の問題である。活動期地震に対応する原子力発電のあり方など、原子力発電所そのものに対する新しい問題点に加えて、電力自由化、電力需要の停滞など原子力発電をめぐる社会的経済的状況に対する対策を主導的に対応すべき原子力委員会・原子力安全委員会が、原子力発電や原子力の開発を推進する経産省や文科省の構想・計画に追従する状況になっている。独立した規制機関を創設し、その権限と機能を強化すべきである。
原子力委員会は、使用済み核燃料の処理処分の再検討を進めていたが、結局、全面再処理と高レベル放射性廃棄物の地下処分を決定した。しかし、日本において、未完成の高速増殖炉や問題の多いプルサーマルに依存するプルトニウム利用方式は、極めて不安定であり、今一度検討されるべきである。
最後に、わが国が原子力の研究を始めた時、現平和憲法のもとに、原子力の平和利用のための原子力三原則が提起され、原子力基本法も制定された。ところが、現在、テロ特措法・武力攻撃事態法などが制定され、原子力施設における情報公開、研究者・職員の人権、原子力施設への攻撃を考える国民保護法が課題となってきている。このように原子力研究・開発の基礎が根源的に変わりつつある中では、原子力の研究・開発の成立の条件を基本的に検討されるべきで、例えば、原子力施設の攻撃禁止の国際協定、「非武装地域」宣言がおこなわれるべきである。これが困難であるならば、周辺諸国との平和友好条約の締結、場合によっては、日本独自に、原子力施設の休止・停止を考えるべきである。
金沢市におけるシンポジウムの開催にあたって、長い間原子力発電所の建設に反対した志賀町(旧富来町を含む)、珠洲市の人々をはじめ、石川県の人々に敬意を表しつつ、原子力研究・開発の50年に当たり、原子力発電所をはじめ関連研究開発は転換期を迎えており、根本的に再検討されるべきことを提言する。
2005年9月11日
日本科学者会議エネルギー・原子力問題研究委員会○
第28回原子力発電問題全国シンポジウム実行委員会