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将来枠組み検討専門委員会中間取りまとめ(案)に対する意見

1.氏名 日本科学者会議公害環境問題研究委員会
2.連絡先 〒113-0034 東京都文京区湯島1-9-15茶州ビル9階
      Tel:03-3812-1472 Fax:03-3813-2363
3.職業(会社名、団体名、役職等) 上記団体として
4.意見

総論
 本報告提案で唯一確実なのは、先進国の国内削減についての法的拘束力ある削減目標・措置をやめることで、残りは内容もはっきりしないあやふやなものばかりである。京都議定書を批准した先進国政府機関の責任として、京都議定書を全否定するような主張を撤回し、京都議定書を遵守し、その強化のもとで削減を積み重ねる方法に復帰することを求める。
 本報告案は、科学の要請による今後の大幅削減の必要性は認めつつ、先進国の国内削減義務の撤廃を強力に主張し、一方でその代替案として途上国参加や世界の部門毎の削減対策などを示唆している。代替案の選択にあたっては、削減量の確実性、削減量の政策による担保などには一切興味を示さず、従って中期の排出見通しも示せず、行動の質も問わずに単純に行動への参加国数が増えることを重視するとしている。
 代替案の中には(1)途上国などの削減を先進国支援のもとに強化していく方向性、(2)部門毎の措置を場合によっては世界共通の指標を用いながら強化していく方向性、(3)大量生産や社会システムの転換ではなく新しい技術の導入により問題を解決する方向性、がある。(3)は高度成長期の遺物で、しかも具体的に上がっている技術内容には海洋貯留・地中貯留のように環境負荷をもたらすものも多く含まれ常識的に受け入れられないが、(1)と(2)は特に異論がないであろう。従来日本政府は、(1)については締約国会議で途上国支援の拠出金を渋っている数少ない附属書II国であり、(2)については世界共通の政策措置を提案してきたEUに対し一貫して反対してきたので、提案の実効性はともかくこの点だけ見れば、世界の大勢に歩み寄ろうという積極姿勢と好意的に解釈することもできる。
 しかし本報告の特徴は、これと先進国の法的拘束力ある短期削減目標あるいはその積み重ねが両立しないと決めつけ、現在までの対策で唯一政策によりその達成が担保されている部分をあえて撤廃することを強く求めていることにある。この背景には、(1)100年後に減っていればその経路は問わないはずなので短期的に増加しても何の問題もないとの考え方、(2)世界全体で削減すればよいので先進国とりわけ日本国内の排出が増加しても何の問題もないとの考え方、があると見ることができる。(1)については、現状でようやく先進国の排出増加にブレーキをかける展望が見えかけ、次に途上国という説得の手がかりを得つつある京都議定書の道をあえて放棄し、それより削減が進むという展望を持たないのは無謀であること、(2)先進国内の削減を問わないのは条約の定めている「共通だが差異ある責任」に反し、また開発途上国への削減協力を求める際に説得力を失うことになり、問題であること、の2点からいずれも論外である。
 今はまだ幼い子供達やそれに続く次世代の人々に、人類 がかつて経験したことのない大きな気候変動と温暖化により、人類の生存基盤を危うくする事態を招くと予想されているこの問題に対して、経済産業活動の社会的責任を後退させ、当面の経済利益を優先させることを目指す本報告の方向は、人類の将来を 危うくするものとして、根本から改定される必要がある。

各論

第2章 気候変動問題の中期的展望
P20-23
 これまでに得られている科学的知見に関し、気候系や生態系への悪影響を防止するために一定の温度上昇以下、一定の安定化濃度以下におさえる必要があること、大幅な排出削減が必要であることを確認した点は多とする。

P23-24
 削減目標が可能な指標について、行動、排出量、安定化濃度、気温上昇の限度、の4つのレベルのうち、安定化濃度、気温上昇の限度について不確実性が大きく目標になじまないという主張を掲げていることには理由がない。安定化濃度、気温上昇の限度に関し、現在の科学的知見をもっても大きな不確実性があるが、安全側を見越したパスを定めて目標を定め、科学的知見の今後の積み重ねでもっと緩やかなパスが許容されれば緩めることとすればよい。

第3章 将来の枠組みを巡る主要な論点
P25
 議論の枠組みとして、世界全体でどれだけ減らすべきかという課題とリンクした枠組み議論を避け、世界全体の削減量・率をあえて問わずに各国の削減配分を巡る論点の一部を取り出しているに過ぎない。
 環境協定で最も重要な課題は削減の実効性であろう。締約国の参加をいう場合には、参加の質、削減の実効性の担保を問う必要がある。例えば現在の条約にはアメリカ、オーストラリアを含む世界の大多数の国が「参加」しているが、それでは満足されないのは言うまでもない。参加の質を問わずに、参加国数の増加を重視する考え方には、削減の実効性という指標で判断して根本的、致命的な欠陥がある。

P25-28
1.主要排出国の参加
 新たな参加のインセンティブを問題にしているが、逆に参加した国の削減は総量で法的に担保され、削減の実効性で優れている。
 一方、法的拘束力ある総量削減目標や遵守スキームがなければ、今確保している担保部分をも失うことになり、それ以外の部分の追加削減可能性を単なる憶測でなく十分な根拠を持って示せない限りにおいて、削減の実効性で後退する。4章の追加部分は削減可能性について当面何の見通しも示せておらず、単に先進国の削減担保を外すのみであると解せざるを得ない。

P28-35
2.コミットメントのあり方
 国別の法的拘束力ある削減目標が大幅削減につながらないという主張は、世界全体の総枠を定めてそれを各国に配分する方法を排除し、総枠をあえて決めずに各国が低い目標を言い合う方式を念頭に置いたもので、理由がない。一方、各国の法的拘束力ある目標を一旦やめることが高い削減をもたらすという主張には何の根拠もない。
 国別の法的拘束力ある削減目標が技術開発を十分に促進しないという主張は、各国の強い国内政策が産業の削減技術の進展・普及を促す点を無視しており、理由がない。国内の例でも、排ガス規制の際にも強い規制目標が技術開発をもたらしている。なお、掲載されているグラフは国の予算であって民間の投資資金が含まれないこと、範囲の説明がないことなど、説明として不適当である。
 費用対効果については、日本では産業の技術実態のデータが少なすぎて判断できない。事業所ごとの設備状況などの公開がなければ議論できない。
 開発途上国への追加スキームについては、先進国の法的拘束力ある削減目標及び遵守スキームと両立する。先進国内を含む技術開発・普及は、先進国の法的拘束力ある削減目標及び遵守スキームによって促進されると考えられる。仮にできないというならば理由を示すべきである。あえて先進国の削減義務を積極的にやめる理由は見あたらない。
 
第4章 将来の枠組みの具体的なあり方
1.具体的行動へのコミットメント
 (1)途上国などの削減を先進国支援のもとに強化していく方向性、(2)部門毎の措置を場合によっては世界共通の指標を用いながら強化していく方向性、については先進国の法的拘束力ある削減目標及び遵守スキームと両立する。仮にできないというならば理由を示すべきである。あえて先進国の削減義務を積極的にやめる理由は見あたらない。

 CDM(クリーン開発メカニズム)の基準を緩めてクレジットを容易に獲得すること、COP7合意に反して原子力CDMを認めることなどは、先進国の国内削減を損ない、問題である。途上国支援は先進国の削減のかわりに行うようなものではなく、先進国の支援のもとで抜本的に強化するものである。

 革新的技術については、(1)削減の確実性、(2)他の環境負荷や社会問題を引き起こさないこと、が条件となり、そのための環境アセスメント、技術アセスメントが必要となる。しかるに、報告書にある革新的技術の中にはCO2海洋貯留・地中貯留のように、長期間貯留される保証がどこにもなく逆に短期間のうちに再び大気中に漏出してしまう可能性が大きいものであって、しかも海中の生態系を変えたり、海面もしくは地表に集中的にCO2が突出すればそこにいる人々に死の危険があるようなものが含まれている。革新的技術を対策に含める場合には、含めていいもの、いけないものの仕分けを、当該技術分野の専門家だけでなく、他の自然科学者や社会科学者なども入って、またその分野に知見を持つNGOなども加わってきちんと議論して決定を行う必要がある。現状ではそのような熟度がなく、革新的技術を含める段階にはないと見ざるをえない。

 国境を越えたセクター別原単位の向上については、先進国については法的拘束力ある削減目標に共通政策措置を併用することで、途上国では先進国の目標と何ら矛盾することなく追加可能である。

2.数値目標
 国別の法的拘束力ある削減目標が大幅削減につながらないという主張は、世界全体の総枠を定めてそれを各国に配分する方法を排除し、総枠をあえて決めずに各国が低い目標を言い合う方式を念頭に置いたもので、理由がない。一方、各国の法的拘束力ある目標を一旦やめることが高い削減をもたらすという主張には何の根拠もない。

 数十年も先の目標のみを掲げることは、その間の対策を先送りするディスインセンティブになると見るのが常識的である。目標期間を先送りすると削減量が高まるという根拠を示すべきである。

 基準年とホットエアについては直接の関係がない。むしろ、基準年を後ろにずらすことは、先に対策を実施し成果をあげた国の努力を認めないことになり、一般には弊害が大きい。

3.レビュープロセス
 気候変動枠組条約は先進国に対し、ゆるやかなプレッジ&レビュー方式を定めたが、これでは不十分であることが合意・確認されたために先進国に法的拘束力ある削減目標を課した京都議定書が合意された。本報告案は、法的拘束力ある削減目標を廃止してゆるやかなプレッジ&レビュー方式にし、遵守スキームも廃止しようというものである。
 気候変動問題について科学的に楽観的な見通しが立って先進国の削減が必要ないというならともかく、そうでないにも関わらず先進国の義務を撤廃し、しかも代替案で当面の削減見積もりを示せないようでは、削減の実効性の 点から見て提案の適格性がないどころか、京都議定書を採択した開催国としての責任 を放棄するに等しい重大な後退と言わざるを得ない。

第5章 今後の国際的な議論の進め方
1.主要排出国による議論の先導
 気候変動問題の国際交渉は、排出国の利害調整ではなく、排出量は少ないが大きな被害を受ける国など世界全体で決めるべき問題であり、それには現在の国連方式が優れている。
 議定書交渉は議定書の締約国で行うのが国際法の常識である。締約国でない米国を加えるために条約の場で交渉をという主張には理由がない。

2.エネルギー政策・産業政策の関係者の参画
 現状でも、各国で参画がなされていると想像される。参画ができていないという事実があるならともかく、そうでないなら特に記す必要がない。

3.産業界とNGOの参画
 気候変動問題の交渉は、排出者の利害調整ではないので、産業界が産業を、NGOが民生運輸をなどと分担することには意味がない。

以上