☆日本科学者会議は5月29-30日に第40期第1回幹事会を開催し、以下の意見書を採択しました。
6月10日付で那覇防衛施設局、内閣総理大臣、環境大臣、防衛庁長官、防衛施設庁長官、沖縄県知事へ送付し、その旨報道関係各社へ発表しました。
名護市辺野古への米軍海上基地建設に関するボーリング調査の中止と 環境影響評価方法書の抜本的修正・再縦覧を求める意見書 |
名護市辺野古沖への米軍海上基地建設に関して、現在「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価方法書」(以下、方法書という。)が縦覧されている。しかし、その縦覧場所は沖縄県内8ヶ所に限られ、コピーを取ることにも制約が科せられているなど、事実上、市民、専門家が広く情報に接することはできない。また、方法書の内容にも、以下に例示するような重大な問題がある。 そもそも、米軍飛行場および民間飛行場施設の建設事業として、建設しない場合を含む代替案との比較検討を欠いている。そのため、本事業が実施される必要性や、事業目的達成上も環境保全上も最善の案であるのかについて、根拠が示されていない。米軍基地を沖縄に建設することも、軍事基地の建設や運用による環境破壊がおこることも容認しがたい問題であるが、報告書には米軍基地建設がいかに必要なのか説明されていないのである。民間空港建設の必要性に関しては、1998年前後の古い資料を用いて将来予測を行っている上、那覇空港の拡張計画や、高速自動車道や国道建設による北部地域からの那覇空港へのアクセスの改善など、進行中の公共事業の効果についても無視している。また、「沖縄北部地域の振興」も事業目的の一部とされているが、本事業により沖縄北部地域が振興されるのか、また、振興策として本事業が最善なのか、検討されていない。 本事業の経過の説明として、1997年の名護市住民投票に全くふれていない。さらに、本会をはじめ多数の学会、専門家、自然保護団体、市民が発表してきた、自然環境への影響や安全性、事業の必要性などに関する意見書、見解等に全くふれておらず、それらの内容も反映されていないことは、科学者団体として容認できない。 対象事業の種類として、「飛行場およびその施設の設置」「公有水面の埋立て」が記されているが、具体的な記述を欠く。例えば、埋立て工事に関しては、土砂の購入先や運搬方法・経路、陸上・海上の作業ヤードの具体的な位置・規模・使用方法等が示されていない。また、運航する航空機の機種や運航回数・形態も、管制・整備・貯油・通信等の航空施設や兵器庫・シェルターなどの軍事施設も、護岸・連絡橋・進入灯などの具体的な構造や位置も、一切示されていないのである。 運航機種や飛行経路・回数の予測が示されないこととも関連して、自然環境等の主要な調査対象地域が名護市・宜野座村に局限されている上、調査範囲内の自然環境の現状把握や調査項目の設定でも重大な手落ちが山積している。さらに、台風・地震・津波などの災害時の施設の安全性や環境影響、あるいは事件・事故の際の周辺環境への影響も、全く検討されていない。軍民空港や誘致企業の操業に伴う、上水の水源、汚水処理、廃棄物等にいたっては、どこまでが調査対象であるのかさえ定かでない。 さらに、建設予定域周辺の生態系保護をいかにはかるかというという視点が全く欠けている。例えば、海の生態系の基盤となっているサンゴや藻場についても、その把握は面積と被度、固有種の有無に偏重し、辺野古一帯が沖縄島最大規模の藻場であり、ジュゴンの生息の中心でもあるという、高度の生態学的意義を有する場としての特異性を黙殺しているのである。 最も驚くべきは、調査結果に基づいて環境影響についていかに評価し、事業の実施に反映させていくのか、その方法や基準が全く具体的に述べられていないことである。 このように、方法書は環境影響評価法や関連法令に規定された要件を満たしておらず、このような方法書の形式・内容では、環境アセスメントの体をなしていないものと断ずるほかない。 一方、方法書縦覧手続きと並行して、防衛施設庁は、現地技術調査として海上基地建設予定海域で63ヶ所のボーリング調査を実施しようとしている。このような大規模な調査は、辺野古海域の底質や水質に重大な変化をもたらし、サンゴ礁や藻場の生態系に大きな影響を及ぼすことが予測されるものである。しかも、ボーリング調査によって辺野古海域の現状が変更されてしまえば、今後のアセスメント手続きによって、施設建設が辺野古海域の原生態系に及ぼす影響について正確な予測・評価を行うことは原理的に不可能となる。しかも、防衛施設庁が、専門家の意見を十分にふまえず、また住民に対して直接に説明会を行うこともなく、調査を強行的に開始したことは不当である。 このように、ボーリング調査は、それ自体がジュゴンに象徴される貴重な生物を含むかけがえのない辺野古海域の生態系に重大な影響を及ぼすとともに、今後実施しようとしている環境アセスメントの意義や信頼性を損ねるものである。ボーリング調査は、本体工事と一体の事業として環境影響評価法に基づく環境アセスメントの対象に位置づける必要がある。 以上のことから、防衛施設庁は辺野古沖のボーリング調査を中止し、現行の方法書を撤回して抜本的に修正の上再縦覧するよう、求めるものである。 |
2004年5月30日 |
日 本 科 学 者 会 議 |