2001年11月18日、三重県海山町において「原発誘致の賛否を問う住民投票」が実施されます。チェルノブイリの教訓が示すとおり、一旦原発が重大事故に見舞われたならば、その被害は一つの町や村の範囲をはるかに超えたものとなり、またその影響は全国的さらには世界的なものとなります。したがって今回の問題は、単に海山町、あるいは町民だけの問題にとどまるものではなく、県民的・国民的な争点となるべきものと、私たちは考えます。
三重県においては、県内に何としても原発を建設しようとする勢力と、生命と生活そして豊かな自然環境を守ろうとする県民との闘いが、40年近くにわたって展開されてきています。昨年2月、県民81万の反対署名を前にした北川三重県知事は、芦浜原発建設計画を白紙に戻すことを表明し、中部電力も計画を撤回しました。しかし海山町商工会の一部関係者を中心に原発の町内誘致を目指す動きが起こり、本年2月に町議会に対し誘致を求める請願書が提出されました。一方で誘致反対を掲げる人々も請願を提出し、結果として、国の計画も無く電力会社の正式の申し入れもないのに、誘致をめぐる住民投票が実施されるという、異例の事態となっています。
前世紀後半におけるスリーマイル島やチェルノブイリの惨禍によって、私たち人類は原子力発電の、技術としての未熟さと危険さについて身をもって学び、結果として世界では脱原発の動きが、次第に主流となりつつあります。これに反して日本の政府および財界は原発推進の立場を崩しておらず、原発「安全神話」の鼓吹に熱心ですが、高速増殖炉「もんじゅ」や東海村JCOにおける相次ぐ重大事故の発生を眼前にして、国民の大半が原発推進政策に対して不安感を抱いています。現に、原発誘致派がこの間「見学先」としていた静岡県浜岡原発においても、11月7日緊急炉心冷却装置(ECCS)の配管が破断し放射能が漏れる事故が発生したことも、国民・県民の危惧を裏付けるものです。ここに至ってあえて原発を誘致し建設しようとすること自体、甚だしく見識を欠いた時代遅れの発想であると指摘せざるをえません。
また、政府の地震調査会の発表によれば、M8クラスの東南海地震が発生する確率が、この30年以内ならば50%、50年以内ならばほぼ間違いなく起こると言われています。さらに、アメリカにおいて発生した民間航空機を利用したテロ行為と、それへの報復として展開されている戦争は、今日の世界が不測の危険に満ち溢れていることを、私たちに示しました。こういったことをも踏まえるならば、今この地域に原発を誘致し建設するということは、将来において海山町民と三重県民の生命と健康に深刻な打撃を与えるような事態を、自ら招き寄せるようなものであると言わねばなりません。
今日、海山町を含めた日本の農山漁村の多くは、政府による農林漁業切捨て政策の下で深刻な不況に喘いでいます。そのような状況のなかで、地元の人々が地域振興のためにあらゆる策を講じようとすること自体は、十分に理解できることです。しかし幾多の先例が示すように、原発や原子力関連施設の誘致が、地域振興に真の意味で役立っているとは言えませんし、むしろ強引な誘致にともなう地域社会の分裂、原発事故への懸念がもたらす他産業誘致の阻害といった問題を、新たに抱え込むことになるでしょう。農山漁村地域の発展は、住民や行政・地元企業の知恵を結集した地場産業振興への取り組みと、政府に対する粘り強い政策転換要求によってなされるべきものであり、事故の恐怖と引き換えの一時的な交付金や、巨額に見えようとも所詮は一過性にすぎない建設需要によって賄われるべきものではありません。
以上のような見地から、私たちは海山町における原発誘致の動きに対して強い懸念をもち、ここに反対の意を表明するものです。
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