大 会 宣 言
日本科学者会議第34回定期大会は、21世紀を見据え、現在の客観的・主体的状況に即応した運動のあり方を検討しました。
現在、日本の社会では、憲法や教育基本法、経済政策、平和・環境・医療・福祉、そして科学・技術等をめぐって、激しいせめぎ合いが生じています。大会は、このような情勢のもとで、21世紀を平和・人権・環境が守られ、科学・文化が発展する世紀とすることをめざして、当面、次の諸点の活動を強めることを決定しました。
1.政府は、総合科学技術会議を中心にして、産官学の連携・融合、産業技術力強化を目的とする政策を、今までにもまして強力に推し進めようとしています。このような政策のもとに独立行政法人化された国立研究所では、任期制の導入、競争原理に基づく研究資金の分配、直接利潤に結びつくプロジェクト中心の体制を強行しようとしています。国立大学の独立行政法人化の動きも、この延長線上にあります。産・官による「知の管理」を確立し、「学問の自由」・「大学の自治」を根底から覆そうとしているのです。このような情勢と関連して、小泉政権等が、国立大学の民営化の検討を提起していることも見逃すことのできない動きです。
教育の面でも、「教育改革国民会議」の報告に明らかなように、教育基本法を改悪する動きが強まっています。教育の国家統制による管理教育を推し進めようとしているのです。一方、基礎学力の低下が叫ばれる中、必要な科学的知識を系統的に教えるという視点が弱いとされている新学習指導要領の適用が来年から始まります。これらの状況は、豊かな人間性をそなえ、論理的・科学的思考力を身につけた青少年の育成をきわめて困難にしています。
日本科学者会議は、国立大学を財界の下請機関化し、科学・技術の総合的発展を阻害する独立行政法人化に反対する運動を強めるとともに、教養教育の充実を含む高等教育の充実に努めます。同時に、小・中・高の教員・父母と連帯して、社会の主体となる青少年の育成の実現をめざします。
2.小泉新首相の言動に端的に示されているように、憲法改悪・集団的自衛権の行使の容認・靖国神社公式参拝の肯定など、反平和的な動きが強まっています。「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書検定合格も、この動きの一環です。一方、米国ブッシュ大統領は、台湾への軍事的肩入れを強めるとともに、ミサイル防衛システムの早期配備を打ち出し、その中で「核兵器の役割」を強調しています。沖縄県民、日本国民の切実な願いである在日米軍基地返還の問題では、日米両政府は基地の半永久的使用と駐屯・演習地域の飛躍的拡大強化を意図しています。日本政府は、このような動きについて、毅然とした態度をとらず、迎合的な姿勢に終始しています。加えて、国際的に核廃絶の大きなうねりが生まれているにもかかわらず、米国の核兵器固執政策に追随した動きを続けています。
日本科学者会議は、わが国の軍国主義化に強く反対するとともに、日米安保条約の廃棄、核兵器の廃絶をめざす運動を強めます。
3.無駄な公共事業による自然や文化遺産の破壊が相変わらず続いています。大気汚染、ダイオキシン、廃棄物などをめぐる問題の根本的解決策もほとんど実施されていません。わが国の環境行政が財界よりのスタンスをとっているためです。また、ブッシュ政権による京都議定書の破棄と原発の推進は、地球環境問題の解決への国際努力の推進に敵対しても、自国企業の利益を擁護するものです。今こそ、日本政府は、米国追随の姿勢を改め、ヨーロッパ諸国や世界の環境NGOと手を携えて、京都議定書の完全実施と原発推進の政策を改めるよう努力すべきです。このような状況のもとで、多くの環境団体が、科学者の協力を求めています。
本格的な高齢化社会を迎え、憲法第25条に規定された「社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進」義務を、国は「すべての生活部面」について果たすことが緊急・切実に求められていますが、現政権は、依然として公共事業に手厚い政策を取り続ける一方で、社会保障の拡充を怠り、あるいは後退させています。ハンセン病被害者勝訴の熊本地裁判決には控訴を断念しましたが、例えば、水俣病関西訴訟においては控訴を行い、薬害ヤコブ病被害者などへの責任は未だに認めていません。このような国民の生命・健康を脅かす政策は直ちに改め、保健・医療・看護・福祉の抜本的拡充をはかるべきです。
日本科学者会議は、今後とも、科学者の社会的責任を重く受け止め、環境悪化や災害から国民を守り、社会福祉・社会保障の拡充をはかる運動に積極的に参加し、それを支援します。
日本科学者会議は、国民の皆さんとともに、これからの運動を粘り強く推進していく決意を、今大会の名において表明するものです。
2001年5月27日
日本科学者会議第34回定期大会