去る11月22日、稲嶺惠一沖縄県知事は、「県民の皆様へ」と題する声明と、「普天間飛行場の移設について」なる文書を発表し、米軍普天間基地を「キャンプ・シュワブ水域内名護市辺野古沿岸域」に移設する意志を表明した。これは2年前に政府が提案した移設計画とほぼ同一の地域である。われわれは今回の沖縄県の示した提案について、以下の理由によって反対すると共に、米軍普天間基地の無条件撤去を要求するものである。
まず第1に今回の沖縄県の意志表明は、1996年9月に実施された米軍基地の整理・縮小に関する県民投票、さらに1997年12月に行われた名護市の住民投票の結果に示された県民の意志に明らかに逆行するものである。この移設計画は決して米軍基地の整理・縮小ではなく逆に在沖米軍の機能強化と永久化をもたらすものである。それは、米国政府が沖縄県知事の主張した基地使用の15年期限を拒否し40年使用および耐用年数200年の基地建設を要求していること、さらには同基地にMV−22Aオスプレイと呼ばれる最新型輸送機を配備する計画等からも明らかである。あまつさえ名護市住民投票結果は、明確に辺野古地域への移設計画を拒否している。その計画とほぼ同一のものを再度持ち出すことは、沖縄県民の意志を蹂躪するものと言わざるをえない。これを「ベターな選択」と称して実行することは、わが国の民主主義の根幹でもある主権在民の思想を無視したものとして、良識ある人ならば誰しもが見逃すことのできない暴挙である。
また第2に今回の沖縄県の意志表明は、2年前の政府提案時に多くの議論を呼びかつ住民投票にも反映された、自然生態系の破壊や住民生活への悪影響について全く対策を示しておらず、これらを軽視していると思わざるをえない。しかも県みずからが指定した「自然保護区」内への基地設置を提案すること自体、自然保護と人類の進歩に逆行する計画と言わざるをえない。このことについては、本会会員が中心になって構成した「1997年沖縄米軍海上基地学術調査団」が、今回の計画に対しすでに11月26日付文書で表明しているように、沖縄県が「科学的な調査や研究結果を一顧だにしていない」結果であり、「沖縄県民の将来を不幸にするもの」である。
そして第3に今回の沖縄県の意志表明は、日本全体の平和にとっても重大な意味を持つものである。本年5月、日本では日米新ガイドラインに関する「周辺事態法」などが制定され、従来形式的には「専守防衛型」であった日米安保条約が米軍に追随する「攻撃型」へと大きな変質をとげた。これは明らかに、NATO軍事同盟と日米安保条約を2つの軸としたアメリカの世界覇権の新戦略に呼応するものである。今回の普天間基地の移設もその路線に沿ったものであり、アジア太平洋地域のカナメといわれる沖縄の基地強化と考えざるをえない。しかも今回の移設主体は外国攻撃用の米海兵隊であり、たとえ日米安保条約のもとであっても本来日本の防衛とは無関係かつ不要である。米海兵隊がキャンプ・シュワブ地域に集結し、重装備化することは、日本さらにはアジア太平洋地域の平和に新たな脅威をもたらすものである。したがって、この移設計画は沖縄県知事と名護市長さえ合意すればよしとする局地的問題ではない。
今回の沖縄県における普天間基地の移設計画は、このように民主主義の破壊、科学的調査結果の無視、平和の危険のいずれの視点から見ても、日本の将来にとって悪影響をもたらすものと考える。またこれらのことは、日本科学者会議の創設以来の活動目的にも正面から対立するものである。われわれは、沖縄県が今回の計画を白紙に戻し、沖縄県と名護市が日米両政府に対して、普天間基地の無条件撤去を申し入れる立場に立つよう要求する。
1999年12月12日
日 本 科 学 者 会 議
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