<声明>通信の秘密を侵し,国民のプライバシーと人権を侵害する危険性のある「通信傍受法案」(盗聴法案)に強く反対する
1999年6月1日,自民,自由,公明・改革クラブの三会派は,捜査機関の「犯罪捜査」のため電話などの「傍受」を認める「通信傍受法案」,いわゆる盗聴法案を衆議院で強行可決した.この法案は,法制審議会の答申に基づき1998年3月に政府が国会に提出し,野党の反対で継続審議になっていたが,今回は,対象となる犯罪を薬物関連など四分野に絞るなどの「修正」が加えられた.
この法案の最大の問題点は,憲法21条により保障されている国民の通信の秘密を侵し,ひいてはプライバシーと人権を侵す危険性があるということにある.法案は,「修正」により「傍受」の要件に若干の限定が加えられたが,「傍受」の範囲が運用次第で拡大され,犯罪とは無関係の人の通信も「傍受」される恐れのあることは,「傍受の実施をしている関に行われた通信で,令状で認められた通信かどうか不明の場合は,必要最小限の傍受が許される」という規定をみても明らかである.また,捜査機関が「傍受」するときは,裁判官の令状が必要であるとされているが,日本の令状請求の却下率は1パーセント以下といわれており,乱用の歯止めにはならないことも指摘されている.しかも,第三者の立会人の立会いも,「傍受」の内容には踏み込めず,実際には形式的なものになる可能性がきわめて高い.こうした問題以外にも,本法案には,別件盗聴を幅広く認めるなどの問題点があることも指摘されている.
われわれは,このように重大な問題のある法案は,一部修正によってもその違憲性を否定することはできず,きっぱりと廃案にすべきであると考える.
今国会では,すでに新ガイドライン関違法や大学審議会答申関連立法が強行可決されただけではなく,今後も,国の自治体への関与を強める「地方分権一括法案」,日の丸・君が代を国旗・国歌と定める「国旗・国歌法案」,比例区選出の議員定数の削減法案の成立が図られ,さらには有事法制の立法,破防法の改悪,憲法改悪のための憲法調査会設置の国会法改悪も企図されている.
これら一連の動きは,すべて日本における平和と民主主義の確立に逆行するものであり,こうした事態のなかでの,国家権力による通信「傍受」の合法化は,戦争準備の態勢をつくる動きをいっそう加速させる危険をはらんでいる.われわれは,広くこの法律の危険性を訴え,「通信傍受法案」の廃案を要求する.
1999年6月5日
日本科学者会議