JSA

[声明]
大学の自主性と民主主義を脅かす「学校教育法等一部改正法案」に反対する

 政府は3月9日、学校教育法、国立学校設置法、教育公務員特例法等の一部改正案を閣議決定し、同日、学校教育法等一部改正法案として国会へ上程し、本国会での成立を図っています。
 その主な内容は、(1) 国立大学の組織運営体制の「改革」として、評議会の構成を改め、学部等からの選出教授を必ずしも加えなくてもよいとした上で、学長指名の教員を加えることができるとしたことにより、教授会に対し評議会の権限を強化するとともに、学長の権限をより強化したこと、さらに、学長の申し出を受けて文部大臣が任命する外部委員で構成される運営諮問会議の設置を定めたこと、(2) 大学制度の弾力化を図る「改革」として、在学3年以上での卒業資格、大学院に研究科以外の組織を置くことができること、を規定したことです。この法案は、大学審議会が昨年10月26日文部大臣に答申した「21世紀の大学像と今後の方策 −競争的環境の中で個性が輝く大学 −」を具体的に実施するための法整備です。
 教授会・評議会を審議機関と位置づけ、学長、学部長に権限を集中する強力なトップマネージメントの管理体制の導入を図るこの法制化は、教授会の権限を弱め、大学の自治を形骸化する恐れがあります。とくに権限の強化された学長が主宰する評議会の審議事項に教員人事の方針に関する事項が明記され、教授会を主宰する学部長は評議員をかねることから、教授会が教員人事を審議する場合、「当該大学の教員人事の方針を踏まえ、その選考に際し、教授会に対して意見をのべることができる」としたことは、大学自治の根幹のひとつとされてきたこれまでの教授会の人事権に対する侵害を実質的にもたらしかねず、ひいては学問の自由を侵し、学問の創造的発展を阻害することにもなりかねません。
 私たちは、大学教員の任期制、大学への競争原理の導入を基軸とする大学審議会答申に続く今回の法制化の企図が、2月26日の経済戦略会議答申「日本経済再生への戦略」での提言 (1) 大学への競争原理の導入、(2) 大学の教育・研究の評価に対する第三者機関の設置、(3) 産学共同の飛躍的強化、(4) 独立行政法人化をはじめ民営化も視野に入れた制度改革、と呼応している点に、学問の府としての大学の教育・研究を政治・経済の論理に従属させるものとして重大な懸念をもちます。
 今回の法制化で、権限の集中する学長への助言・勧告機関として、国立大学に設置を義務づけられた運営諮問会議は、学長の申し出を受けて文部大臣が任命する外部委員からなると規定されており、学長の諮問に応じるとともに学長に対し主体的に助言・勧告を行う、とされていることから、政・財界が大学に介入し得る制度的仕組みを作るものということができます。
 学生の飛び級的卒業を認める法的措置についても、広い視野をもちバランスのとれた見識を有する民主主義社会の後継者を養成する、という観点から、その実施がおよぼす教育的効果についての慎重な検討がなされなければならないと考えます。
 また、こうした今回の法制化は、主に国立学校設置法に関するものとはいえ、この法制化が、公立大学や私立大学の運営にも影響を与え、これまで以上の管理強化をもたらすことも十分に予想されるところです。とりわけ私立大学においては、理事長や学長に権限が一層集中し、トップダウン式の管理運営体制への傾斜が強められ、教育公務員特例法や公務員法のような法的身分保障のない教職員の身分や権利が脅かされる恐れがあります。さらに大学の運営や研究・教育に大きな混乱をもたらし、さまざまな問題をひきおこすことも危惧されます。
 今回の法制化による学長への権限強化、教授会の弱体化は、学長をトップとする執行機関による大学の専断的運営に道を開くことが憂慮されます。大学の教育・研究をより豊かに発展させるための改革は、あくまで、教員、学生、事務・技術職員等大学全構成員の自発性、主体性に基づき、大学の民主的運営を前提としてなされてこそその実を挙げることができます。1998年10月採択されたユネスコの世界宣言「21世紀の高等教育−展望と行動」は、高等教育機関およびその教職員と学生は、人権・民主主義・持続可能な発展・平和という教育の基本的な柱を踏まえ、社会に発現する経済的・政治的その他の諸傾向に対する批判的・予防的役割と、未来を展望する責務を担う、とし、そのためにこそ、学問の自由と大学の自治が不可欠である、と述べています。
 私たちは、大学の自主性と民主主義を脅かし、21世紀のわが国の教育・研究に重大な影響をもたらしかねない今回の法制化を認めることはできません。私たちは、この法制化の強行を許さず、国民の立場に立つ21世紀の大学像をめざし、国民のための大学を創造していく決意をあらためて表明します。
1999年3月26日
日 本 科 学 者 会 議

戻る

トップへ戻る