アジア・太平洋地域での戦争に日本を動員するための「新ガイドライン」
に反対する声明
1997年9月30日 日 本 科 学 者 会 議
去る9月23日,日米両国政府は,1978年策定の「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」を全面的に見直した「新ガイドライン」について,最終的に合意した.この新たな見直しは,21世紀に向けた日本の針路をアメリカの世界戦略に従属させ,かつての軍国主義復活につなげかねない危険極まりないものであり,世界の平和と人類の進歩を求める者にとっては許しがたい内容である.
今回の新たな「見直し」は,まず第一に,少なくとも「日本防衛」という建前であった日米安全保障条約をアジア・太平洋地域での米軍の戦争行為に日本の自衛隊を動員することを含む軍事同盟に変質させる危険性をはらんでいる.アメリカはかつて60−70年代にベトナム侵略,80年代にグレナダ,パナマ侵略,90年代にイラク攻撃などを行ってきたが,これらはいずれも,国連憲章にも反するものであったことを思いおこすと,「新ガイドライン」の危険性がますます明らかとなる.今回の「見直し」は,そうしたアメリカの覇権主義的無法行為に日本の自衛隊を自動的に動員するものであり,日本がアメリカと同様の侵略者の立場に立つことを意味している.これは第2次世界大戦についての日本国民の痛苦の反省と教訓を根底から覆すものと言わざるを得ない重大事である.
また第二には,そこに動員される自衛隊の役割,さらに日本国民全体に課せられる役割の重大性である.例えば,自衛隊は,公海における機雷の除去などの「支援的行為」を行うものとされている.戦闘時の機雷除去などは最前線の行動であり,前方にあって敵の機雷を除去する作業が,戦争行為とみなされることは国際的常識である.また「新ガイドライン」によれば,日本全土にわたり民間空港や港湾が米軍に便用されるのを始め,あらゆる物資・燃料・人力の提供が義務づけられている.「中央政府及ぴ地方公共団体が有する権限及ぴ能力並びに民間が有する能力を適切に活用」することが企図されているのである.当然のことながら,日本国民にとっては交通機関の制限や様々な行動の自由と人権が束縛されることとなる.加えて,有事立法の検討も進められており,情報その他にかかわる行政の軍事化も懸念される.
そして第三には,これら数々の暴挙が「日本の憲法上の制約の範囲内」と称して行われることの危険性である.今までにも様々な形で憲法9条などの平和条項がふみにじられ「解釈改憲」なる用語がまかり通ってきたが,今回ほどの露骨な憲法侵害はない.これまでの集団的自衛権の禁止や日米安全保障条約の「極東」をめぐる従来の政府およぴ国会での解釈までもが投げ捨てられ,「地理的概念」のない「周辺」という用語一つで世界のどこまでもが日米安全保障条約の範囲に押し広げられようとしている.アジアを中心にして世界各国から重大な懸念が表明されているのも当然である.そして今,「新ガイドライン」関連諸法の制定,さらに日本国憲法の明文上の改悪をめざす動きが現れていることと併せ考える時,憲法体系と安保法体系の矛盾が日米安全保障条約優先でより深化させられようとしている危険性も指摘せざるを得ない.
第四に指摘せねばならないことは,このような危険な内容をもつ「新ガイドライン」を国権の最高機関である国会にもかけず,政府の判断だけで決定したことである.こうした行為は,国民を愚弄し,民主主義をまったく無視する行為と断ぜざるを得ない.
日本科学者会議は,日米両国政府による「新ガイドライン」の合意に対し,怒りをこめて抗議するとともに,重大な危険性を広く訴え,「新ガイドライン」の是非を国会で審議するよう求めるなど,平和を願う人々とともに「新ガイドライン」を承認しない運動を進めることを,ここに表明するものである.