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 諌早湾干拓事業の抜本的見直しと水門の即時開放を求める決議

 農林水産省は,4月14日潮止めと称する課早湾奥部の堤防による締め切りを強行した.潮止めから1カ月以上経過し,干満がなくなり乾燥しひび割れのできた干潟では,底生生物の死滅など干潟や汽水域特有の貴重な生態系が破壊されつつある.一刻も早く水門を開き干潟の生物を救えという内外からの抗議が,農林水産省に殺到している.
 日本科学者会議は,自然環境を大現模に改変するこの事業に注目し,1970年代からこの事業の環境に与える影響などの科学的検討をすすめてきた.本年5月17日には日本科学者会議長崎支部は,課早湾干拓事業が「環境,防災,営農,財政等の観点から見て取り返しのつかない重大な間題点を有している」と指摘し,@潮受提防の水門を一刻も早く開放して,干潟を復元しその環境を保全すること,A本干拓事業の防災効果について再検討し,環境と防災との両立をはかること,B本干拓事業に伴う農地造成事業の存在意義と営農計画を明確にし,公開すること,C本干拓事業の事業費について財政収支の全容を明らかにし,費用に対する効果を明示することなどの要望を,政府・農林水産省に提出している.
 1986年に行われた本事業に関する九州農政局の「環境影響評価」では,干潟のはたす環境保全の役割についての評価はほとんど行われていない.その後,国内およぴ世界で干潟の生態学的保全とその賢明な利用や地球規模の環境間題についての認識が高まった.しかし,本事業がこの点に関して再検討された形跡は全く窺えない.
 農林水産省による干拓事業が行われていなければ,課早湾干潟は,本来ラムサール条約に登録される資格を持つ干潟である.政府は,ラムサール粂約,渡り鳥保護条約などを守り,この干潟を保全する責任がある.農林水産省の「諌早湾防災対策検討委員会中間報告書」は,むしろ本事業が洪水・高潮に対する防災効果がないばかりでなく,かえって災害の危険をもたらすことを示している.すなわち,目的を喪失した時代錯誤の公共事業をすすめるために,1982年7月の長崎大水害を口実に防災という新しい理由をつけたしたにすぎない.防災のためには,河川堤防およぴ海岸堤防の嵩土げ,ポンブの増強,遊水池の増設など総合的な治水対策の効果を科学的に解明する必要がある.
 滅反を強要する農林水産省が,干拓によって食糧自給率向上のための農地をつくるといっても納得するものはいない.工事費の膨張により個人での土地の取得は困難で,干拓によって造成される農地での営農の見通しは厳しい.さらに財政再建が国民的な課題となっている時に,環境を破壊し国の資金を浪費するこのような事業を継続してよいわけがない.
 日本科学者会議は,国内外からの抗議を無視しおこなわれた政府・農林水産省の暴挙に強く抗議するとともに,水門の即時解放と諫早湾干拓事業の抜本的な見直しを強く求めるものである.
 1997年5月25日     日本科学者会議第32回定期大会