武田薬品研究所における解雇・差別の撤回を重ねて要請する
われわれ日本科学者会議は,武田薬品研究所の解雇や差別による18年の長期におよぶ係争事件に重大な関心を寄せている.研究者の権利の尊重は,研究者がその任務と社会的責任を果たすために欠かせないものであるが,武田薬品研究所においては研究者の権利と基本的人権を侵害する深刻な事態が引き起こされていると考えているからである.
本件は,研究業務中に吸入したぺニシリン微粉末に起因する喘息による死亡事故に対し,武田薬品が業務上の死亡とは認めようとせず,10万円の見舞金で済まそうとした措置に端を発している.研究所の同僚らが遺族を支援して,労働災害として扱うよう働きかけた結果.2年後に会社当局は2000万円の賠償を行い,労働基準監督署も労災として認定した.しかし,会社当局は,この運動の先頭に立った研究者たちに解雇や賃金・昇格・仕事上の差別などさまざまな権利侵害を加え続けた.
こうした問題発生と経過をふりかえってみる時,われわれは本件を一企業の内部問題として見過ごすことはできない.サリドーマイド,スモン,近くは血液製剤によるエイズ感染など数々の医薬品公害が重大な社会問題になっている今日,医薬品の開発に直接携わる研究者が研究所における薬害について意見を表明していくことは,研究者としての責任と誠実性を示すものであり,これを理由として不利益を被るべきものでは決してない.また,われわれは同僚研究者を薬害で失い,この責任を問う人達が不当な解雇や差別を受けても黙過しなければならないような研究所から生み出される薬の安全性に危惧を感ぜざるを得ないことも付言しておかなければならない.
遅きに失したとはいえ,武田薬品は本年1月より大阪高裁での和解交渉に応じるようになった.われわれは,解決へ向けてのこうした動きを歓迎する.われわれは,2年前の定期大会において「武田薬品研究所における不当な解雇・差別の撤回を要請する」決議を行ったが,和解の話合いが開始されたこの機会に,武田薬品が処分や差別を撤回し,一刻も早く問題を解決するよう重ねて要請するものである.
1992年5月31日
日本科学者会議第27回定期大会