科学技術会議 御中
                    1991年12月4目
                    日本科学者会議
                    日本国家公務員労働組合連合会
                    筑波研究学園都市研究機関労働組 合協議会

         科学技術会議18号答申に ついての申し入れ書

 科学技術会議18号諮問「新世紀に向け てとるべき科学技術の基本方針について」は12月答申をめどに検討がすすめられてい る.今回の諮問の背景には,日本が先進国の一員として国際社会の発展に貢献が求め られていること,日本の科学技術活動が国際的に拡大していること,国民の科学技術 に対する意識が変化していること,人材の養成などの環境の大きな変化があること, などがある.
 我々は,多くの科学者・技術者と共に日本の科学・技術研究の現 状を深く憂い,従来からその体制の改善に努力してきた.しかし.科学技術会議答申 は従来から日本の科学・技術研究の当事者としての大学,国公立および民間研究機関 の研究者の意見を公に聞く機会もないままに出されてきているが.今回も同様なかた ちでまとめられようとしていることはまことに遺憾である.我々は,「答申」が多く の科学者・研究者の意見を取り入れる形で民主的にまとめられることを期待すると共 に,今回予定されている科学技術会議18号答申の際考慮されるよう,下記の事項につ いて申し入れる.
                 記
 1.我々が従 来から指摘してきたとおり,大学,国公立試験研究機関の研究の危機と施設の荒廃は これ以上放置できなくなりはじめている.これはいわゆる「臨調行革」によって教 育,文化,科学・技術に対する政府資金が毎年抑制されてきたばかりではなく,定員 削減政策にによって必要な人員が補充されなくなってきたところに主な原因がある. 大阪大学基礎工学部における実験中の爆発による学生と院生の死亡事故は,まさにこ のような臨調行革路線のもたらした象徴的出来事である.
 そのようなこれま での政策的欠陥の究明を真正面から行ない,大学,国公立試験研究機関の公的責任を 確認し,それらの機関での定員削減をやめ,とくに大学での「公費負担率を欧米並み の90%以上」というガイドラインを設け,人文・社会科学系も含めて科学・技術研究 費における政府負担の大幅な増額,少なくとも現状の2倍以上をすみやかに実現すべ きである.
 2.従来の政府の科学・技術関係投資には必ず「重点化」がなさ れてきたが,基本的研究費の絶対的不足の下での「重点化」は,裾野の広い基礎的, 経常的研究の枯渇をもたらし,地方大学では研究者としての生存権すら問題となるに いたっている.さらに,行政的な「重点化」により,ノーベル賞を受賞した研究の後 追いなど外国種の二番煎じのテーマに偏重された体制となり,研究者相互の自由な競 争が可能な研究環境が十分保障されず,日本で生まれた独創的研究の芽を摘んできた 基礎的な研究分野もある.「センターオブエクセレンス」構想や極く少数のエリート 優遇など「重点化」政策に片寄り,基盤整備を欠くことにより大学,国公立試験研究 機関の老朽化,陳腐化が促進される恐れさえある.
 研究の重点化の前提とし て,全ての研究分野で一定レベルの研究を最低限維持できる校費,経常研究費を大幅 に増額し,現状の5倍以上は保障すべきである.その上で現場の研究者の意見を十分 組み入れた民主的体制のもとで,重点項目を決めるべきである.
 3.科学・ 技術分野での国際貢献は,全世界的観点を逸した日米科学技術協力協定の偏重となる べきではなく,メガサイエンス参加についても対米貿易不均衡などの政治的配慮によ って研究者の白主的判断をゆがめるようなことがあってはならない.巨費を投じた国 際プロジェクトへの参加は国内の全ての研究分野への研究費が大きく底上げされない かぎり,総合的発展にとってバランスを失するものとならざるを得ない.
 科 学・技術分野での国際貢献は,「平和への貢献」「全世界的な学術交流」「自由な研 究交流」「成果の公開」等を基本原則とした日本学衛会議の国際交流の原則(1988年 4月21日)に基づき,あくまでも日本の研究者の白主畦が重視されるべきである.さ らに.我が国の研究者の多くが私費で国際学術集会等に参加している実情はすみやか に改善されなければならない.
 4.若者の「理工系離れ」によって,大学で は博士課程への進学者がいないなど深刻な後継者難に陥っており,国公研,企業でも 将来の人材不足が予測されている.その主な原因は魅力ある科学教育の欠如にある が,それは初等・中等教育における教師の自発性を「学習指導要領」で縛り,大学に おける多様で血の通った教育を多人数教育で不可能にさせた結果によるものである. さらに,世界第2位という研究成果を挙げているにもかかわらず(文部省調査),支 援要員の不足による多忙化,民間に比較して賃金,研究条件の大きな格差など,大学 における数員の不遇な実態を学生が見ているからに他ならない.
 優れた研究 者の養成,確保の為には,初等・中等教育の「学習指導要領」体制による歪みを改 め,大学教育を含め,個性を重視した少人数教育が可能な行き届いた教育条件の整備 が必要であり,教員,研究者の待遇の改善は焦眉の課題である.
 5.基礎科 学は研究者個人の独創に某づくものとはいえ,独創的能力の発揮は大学や研究所の創 造的雰囲気に満ちた環境や技術的支援体制を含めた組織力が決定的である.したがっ て,研究テーマや予算が先に決まっていて,後から研究者が入り込むようなことすら ある現状は改められるべきである.
 独創性を重んじる環境や技術的支援体制 を含めた組織力をつくるためには.任期付厚遇制などといった姑息な手段でなく,継 続的研究を保障し,独創的研究を重視する研究者中心の研究テーマを物質的に,精神 的に支援する環境整備が不可欠である.さらに,テクニシャン,プログラマー.機械 加工技術者等技術的支援者の待遇を研究者と同等なレベルに改善するとともに,必要 な人員を確保すべきである.
                       (以上)