JSA

 大会決議
   世界の恒久平和実現にむけ,日本の科学者・技術者は先頭に立って奮闘しよう

 湾岸戦争は,人類の進歩と世界の恒久平和の実現というわれわれの切実な願いに対する許しがたい挑戦であった.イラクのクウェート侵攻は国家の主権を犯し,国連憲章にも違反する行為であり,イラクが世界の世論に糾弾されたのは当然であった.また,平和解決の道を閉ざし,武カ行使を急いだアメリカの行為も決して正当化されるものではない.そこには,世界的産油地帯である中近東のアメリカ支配強化め企図があり,戦争終結後も米軍基軸の湾岸安保体制づくりがすすめられてきている.しかもこうしたアメリカの横車に対し,国連も十分に制御機能を果たしえず,むしろアメリカに利用されてさえいる.われわれはこれらの状況に.深い憂慮をいだかざるをえない.
 湾岸戦争ではまた,高度に発達した科学・技術が福祉.と進歩のためにではなく,多くの人命を奪い生活と環境を破壊するために用いられた.アメリカはハイテク兵器による攻撃を誇示し,トマホークを初めて実戦使用し,国際原子力機関(IAEA)の国際的合意を無視して,イラクの核施設を攻撃・破壊した.一方のイラクもミサイルの使用を始め,化学兵器を使用する意志を公言し,さらに敗戦の色が濃くなるなかでクウェートにある油井に一斉に放火した.是大の文明破壊であり,環境破壊でもある戦争の手段に科学・技術が悪用されることに対して,われわれは深い憤りを覚える.
 第2次世界大戦における侵略と敗戦という痛苦の経験を教訓にして,世界に誇りうる平和憲法をもつ日本は,世界のどの国よりも湾岸戦争に反対する資格と責任をもつ国であった.事実,日本の平和勢力は一貫して世界にむけて武力による紛争解決に反対した.そのなかで日本政府が画策した「国連平和協力」の名による自衛隊の海外派兵法案を阻止することもできた.しかしアメリカに追随しながら,アメリカの中東支配に加担しようとする日本政府は,その後も憲法違反の自衛隊の海外派兵を策し,掃海艇の派遣を強行し,わが国がとるべき世界平和への貢献と責任を放棄している.われわれは日本国民として,日本政府が憲法の平和的条項をふみにじり,無法泡無責任さを繰り返していることを断固として糾弾する.
 この間日本科学者会議は,かつてないほどの規模と内容をもって,国際紛争の平和的解決を訴えて行動してきた.それが内外の世論形成に少なくない影響を及ぼしたことも事実である.そして湾岸戦争が終結した今日の情勢と戦争からの教訓を考える時,日本の科学者・技術者の果たすべき役割はとりわけ重要である.
 すでにみたように,もはや今日の戦争は,高度の科学・技術の動員なくしては存在し得ないところにきている.人類の進歩と平和を先見的に志向すべき科学者・技術者は,先頭に立って平和のために奮闘する責任を有している.なかでも,平和憲法をもち世界で唯一の被爆国でもある日本の科学者・技術者は,その国際的役割がとりわけ大きいといわねばならない.
 われわれは以上の立場から,今回の湾岸戦争の教訓を主体的に受けとめ,世界の恒久平和の実現にむけ,これまでにも増して全力をあげ貢献することを決意する.併せてわが国のすべての科学者・技術者に対し,われわれと共に奮闘されるよう心から訴える.
                   1991年5月26日
                   日本科学者会議第26回定期大会