大学審議会「大学院制度の弾力化について(答申)」にかんする見解
大学審議会は1988年12月19日,「大学院制度の弾力化について」と題する答申を文部大臣にたいしておこなった.
これは先に発表された中間答申とほぼ同じ内容のものであり,大学院の設置基準の大綱をさだめ,それにもとづいて多様な大学院の設置をすすめようとするものである.設置基準はまだ具体的にしめされてはいないが,答申のしめしている方向は(1)独立研究科,独立大学院の設置による大学院の形態の多様化,(2)博士課程の目的に「高度の専門的能力を有する人材の養成」を追加することによるコースの多様化,(3)修業年限の多様化,(4)教員採用基準の弾力化となっている.
このような方向での大学院制度の弾力化は,こんにち日本の大学院がかかえている困難な諸問題を解決するものでもなく,また「教育研究の高度化」という要請にこたえるものでもない.こんにちの大学院のかかえているもっとも大きな問題は,東大,京大をはじめ旧制七帝大を頂点とする大学院の格差構造と,それにもとづく大学間格差にあり,「答申」のめざす多様化はこの格差構造を解決せず,むしろいっそう拡大することになるであろう.
さらに,独立研究科,独立大学院の設置は,いま文部省が創設準備をすすめている先端科学技術大学院にもっとも露骨にあらわれているように,産学協同の推進につながる恐れがきわめて大きい.このことに関連して,大学以外の研究機関との連携にさいし,中間報告では「学問の自由を基本とする大学の理念にもとづいて教育研究活動が行われるような体制が十分整備されていること」とのべられていたにもかかわらず,「答申」ではこの文章が削除されていることも注意を要する点である.弾力化,多様化に名を借りて,大学の自治,学問の自由が侵害されることのないよう,とくに学部をもたない大学院については,十分に警戒する必要がある.
大学院の充実は,何よりも学部の充実を基礎とすべきであり,このことをなおざりにした大学院弾力化政策は,日本の科学・技術の発展にとってもかえって障害となるであろう.いま必要なことは大学院の多様化ではなく,真の「研究教育の高度化」のために研究教育体制全般の基礎整備とくに大学院間の格差是正をはかることでなければならないのである.
1989年1月15日
日本科学者会議大学問題委員会