緊急声明
公害健康被害補償法「改正」法案の徹底審議と根本的再検討を要望する
公害健康被害補償法制定当時(1974年)からの大気汚染の動向をみると
亜硫酸ガスと窒素酸化物などとの際立った対照をみると,公害防止や環境保全にとって正しい行政施策がいかに重要か痛感させられる.公害健康被害補償法は被害者の救済,公害対策の中心的役割を果たしてきており,いまやわが国の公害環境行政の根幹をなす存在となっている.
然るに今回の「改正」法案は,大気汚染公害指定地域の全面解除,すなわち,わが国には被害をもたらすような大気汚染は無くなったとして,新しい患者が出ても救済はしない,とするものでこれまで同法が果たしてきた重要な役割を事実上骨抜きにしようとする内容を有している.しかしながら,この法案作成のもととなっている昨年10月30日付の中央公害対策審議会答申は,その科学的基礎とされた専門委員会報告を極めて意図的に“解釈”していること,幹線道路など局地的汚染や弱者への配慮を無視していること,指定地域解除要件を明示せずに解除の結論を下していること,などなど数多くの問題を有している.それらは日本科学者会議ばかりでなく,多数の団体の専門家によって再三にわたり指摘されてきている.
そしてなによりも,
※専門委員会委員長の鈴木武夫氏が,専門委員会報告の引用の仕方がおかしい,として答申内容を批判していること,
※大気汚染公害指定地域の現場にあって,日々患者を前にして救済業務に当たっている関係51自治体の9割が今回の法案に疑義を表明していること,
これらの事実は「改正」法案が万一そのまま成立することになれば,冒頭述べた経過からも明らかなように患者の救済も,大気汚染対策も,大きく後退するであろう.それを我々は断じて黙過出来ない.
健康破壊は最大の人権侵害である.
一.国会にあっては,徹底審議によって,「法案」の問題点,大気汚染や公害患者の実状を明らかにし,「法案」を根本的に充実・強化する方針を明確にし,問題を含んだまま法案が成立することがないことを
二.行政にあっては,一人でも多くの患者の救済を,一日でも早く大気汚染の改善を,そのためにこそ公害健康被害補償法の充実・強化を図ることを,
日本科学者会議は強く要望する.
1987年8月12日
日本科学者会議公害環境問題研究委員会